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JRIレビュー Vol.8,No.103

高齢者の雇用延長が若年者の雇用機会に与える影響
創造的なスキルを有する高齢者は企業の雇用延長に頼らず新規創業を

2022年09月21日 安井洋輔


2021年4月から、雇用者に対して70歳までの就業確保措置を取ることを努力義務として企業に課す改正高年齢者雇用安定法が施行されている。これを受けて、企業のなかには、雇用期限を設けない継続雇用制度の導入や、定年制自体を廃止するところも出てきた。このように働きたい高齢者が働き続けられる環境を実現することは、高齢者自身の所得増加や生きがい確保に有効であるほか、年金財政にもプラスである。もっとも、その副作用として、高齢者の雇用延長が若年者の雇用機会を奪うことがあるのかどうかについては、わが国の望ましい労働市場政策を考えるうえで重要な論点である。

雇用における高齢者と若年者の関係については、「労働の塊」仮説との関連で議論されることが多い。同仮説は、仕事を高齢者と若年者で分け合っている状況では、より多くの高齢者が働き続けるようになれば、高齢者に割り振られる仕事が多くなり、代わりに若年者の仕事が少なくなるというものである。理論的には、職場における高齢者の増加が若年者の雇用機会に与える影響は、若年者への労働需要を増やす「シナジー効果」と、逆に減らす「収穫逓減効果」のどちらが大きいかに依存する。したがって、同仮説の真偽については実際のデータを用いて検証されなければならない。

アメリカの国勢調査の個票を用いて、年金支給に伴い高齢者の退職行動が変化したときに、若年者が雇用される機会がどのように変化するかについて分析したところ、少なくとも賃金が大きく変化しない期間においては、高齢者の雇用が増えれば年齢の若い若年者ほどより多くの雇用機会が失われることが分かった。解釈としては、採用や解雇権を有する経営者や管理職は、よほどのことがなければ一緒に働いている部下や同僚を解雇することには気が引ける一方、まだ人となりも分からない採用候補者に対しては案外「冷淡」に不採用を通知することや、そもそも採用自体を控えることがあるとみられる。

わが国への示唆としては、高齢者の雇用延長は若年者の雇用機会に負の影響があると認識したうえで、その影響を緩和するような措置を講ずることが求められよう。それは決して高齢者に早期退職を迫るといった世代対立を煽るものであってはならない。具体的には、第1に、高スキルの高齢者が起業しやすい環境を整備することである。これによって、企業が若年者への採用余力を高めるほか、そのスタートアップ企業が新たな雇用を生み出し、わが国の雇用機会自体が拡大する。第2に、大企業は、既存製品・サービスの品質改善よりも全く新しい製品・サービスの創出に投下する資源を今までよりも増やすことである。家計の潜在需要を掘り起こし、人口減少下でも売上を増やすことができれば、若年者への労働需要も増え、高齢者の雇用延長による負の影響を相殺できよう。
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