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JRIレビュー Vol.8,No.103

自治体DXをいかに進めるか
デジタル化からデジタル変革へ

2022年09月16日 野村敦子


新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、経済・社会のあらゆる分野で非対面・非接触を可能とするデジタル技術の導入が加速している。公共サービスに関しては、国ばかりでなく市民に直接サービスを提供する地方自治体のデジタルへの対応が重要であるものの、2001年のe-Japan戦略以来取り組んできた「行政サービスの100%デジタル化」という目標達成にはほど遠いのが現状である。例えば、市区町村の行政手続きのオンライン利用率は、国の公表資料では52.8%とされているが、市民にとって利便性が高い育児や介護のワンストップサービスは1%にも満たない。行政のデジタル化と関係が深いマイナンバーカードの交付状況やオープンデータ取り組み率に関しても、100%の目標達成は現状では困難であり、地域間で格差が生じている。

こうした状況下、民間セクターばかりでなく公共セクターにおいても「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」が強く意識されるようになっている。地方自治体は、①少子高齢化の進行、②住民ニーズの多様化といった課題に加え、③新型コロナ禍への対応という側面からも、デジタルシフトが喫緊の課題とされている。もっとも、これまでの取り組みはデータ・情報のデジタル化(Digitization、デジタイゼーション)や業務のデジタル化(Digitalization、デジタライゼーション)に焦点が当てられていた。しかし、デジタル技術やデータはあくまでもツールでしかなく、そもそもは様々な課題を把握して解決に向けて取り組み、よりよい仕事やよりよい社会に繋げていこうという一人一人の意識改革が重要である。そこで、業務や組織、プロセス、文化・風土などを抜本的に改革しようとするDXの機運が高まっている。

DXが注目される以前より、着実にデジタル技術やデータの利活用に取り組んできた自治体がある。例えば、金沢市は「シビックテック先進都市」を標榜しており、全職員のデジタルリテラシー向上やアプリ・サービス等の内製力強化など、自前のデジタル人材の育成に取り組んでいる。そして、行政と市民とが地域の課題解決に向けて協働するまちづくりを目指している。
 加古川市は、地域社会が抱える課題や目指す姿を明確化したうえで、デジタル技術やデータの利活用に取り組むことを重視しており、市民も参加する見守りカメラ・見守りサービスやオンライン参加型プラットフォーム(加古川市版Decidim)などが実現している。また、ボトムアップで改革のアイデアを吸い上げ、施策に反映する職員提案制度が導入されている。
 会津若松市は、わが国の地方自治体のなかでもいち早くスマートシティに取り組むなど、地域社会全体のDXの先行事例として注目度が高い。これを支えているのは、地域の課題解決にICTやデジタル技術を役立てようとする人材を、長年にわたり組織横断的に育成してきたことであり、その能力の維持・向上や庁内のデジタル人材を可視化する制度等が導入されている。

これら先行自治体の共通点として、①首長のリーダーシップのもと対話を重視しながら明確なビジョンが提示・共有され、長期かつ一貫した視点で施策が推進されてきたこと、②行政内部においてデジタルリテラシーはもとより変革マインドに重点を置いて人材が育成されてきたこと、③自治体DXを地域社会全体のDXとして捉え、パートナーとして地域社会の構成員(市民・市民団体や地元企業、大学等)の巻き込みが図られてきたこと、などが指摘できる。
 これらとは逆に、首長の一方通行のトップダウン施策、現場の抵抗(とくに中間管理職の理解や受容力の不足)、一部職員への業務の集中・過大な負担、技術主導・補助金目当ての企業等への依存、などは、地方自治体がDXに関連する戦略や計画を推進するうえで陥りやすい問題点である。

自治体DXは、市民に最も近い立場にある市区町村が主体的に取り組む必要があるが、規模などにより対応力に差がある。全体の底上げを図るためには、国や都道府県の支援が不可欠である。国においては、①DXの障害となる法制度や規制の速やかな見直し、②地方自治体の負担軽減の観点から必要なシステムやサービス等の共通基盤の整備、③地方自治体職員の意識変革に必要な人材育成プログラムの開発・提供、④DXの進捗状況を適切に把握、評価、公表し、PDCAを回していくための体制づくりの支援、などを実施していく必要があろう。都道府県は上位団体として、市区町村の計画策定・遂行に対する助言や、域内の複数の市区町村を取りまとめてのシステム共同導入・共同利用の推進、デジタル人材の育成・確保などを主導していくことが求められる。

DXというと、トランスフォーメーション(変革・改革)よりもデジタル化が目的とされがちである。しかしながら、デジタルはあくまでツールでしかない。地方自治体は、単なる効率化・合理化にとどまらず、地域の課題解決や環境変化に柔軟に適応できる能力(レジリエンス)の確保に向けて、組織全体としてDXに取り組むことが求められている。そして、「市民にとって暮らしやすい地域社会、信頼できる行政」、「自治体職員にとって自らの創意工夫でやり甲斐のある業務」、「企業や大学にとって市民や行政との共創、地域社会への貢献」といった「三方よし」の実現こそが、自治体DXの目指すべき姿であるといえよう。
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