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リサーチ・フォーカス No.2022-033

訪日観光の再開と今後の課題
ロードマップを策定し円滑な受け入れを

2022年09月09日 高坂晶子


2022 年6 月10 日、訪日観光客(インバウンド)の受け入れが再開されたが、2ヵ月経過時点で期待された回復にはほど遠い状況である。集客が低調な理由として、①煩雑な入国手続きが課される、②ガイド付きの団体旅行以外は認められない、③旅行中、厳しい行動規制を求められる、の3 点が挙げられる。

観光事業者や地域の経済団体は、こうした規制の緩和と一日当たり入国枠の拡大を要望し、9月7日からその一部は実現することとなった。ただし、現状、わが国のインバウンド受け入れ態勢は必ずしも万全ではなく、性急な規制緩和によって一挙にインバウンドが増加した場合、将来に禍根を残す可能性がある。

受け入れ態勢の問題点の第1 は、飲食、宿泊など観光関連業種の人手不足、とりわけ多言語対応可能な人材の確保が難しいことである。第2 は、観光地の住民心理である。コロナで強まった外国人への抵抗感が解消されないなか、住民とインバウンドとの間にトラブルが頻発した場合、わが国観光の発展に負の影響を及ぼす恐れがある。

海外では、旅の目的地としての日本人気は根強く、訪日観光の再開はおおむね歓迎されているが、もう一段の規制緩和を待つ「様子見」傾向も顕著である。また、一部のビジネス関係者の間では、世界的な観光再開・振興機運に水を差しかねないとして、わが国の厳しい規制に批判的な意見も聞かれる。

世界的にみると、観光分野の入国規制を全廃した国は9 月第1週現在81 カ国に上る。その中には、従来、国際観光再開に積極的であったイギリス・タイなどに加え、厳しい水際規制を長く維持してきたオーストラリアも含まれる。オーストラリアの場合、重症化しにくい変異種への置き換わりやワクチン接種率の向上を踏まえて規制の見直しを進め、今年7月に国際観光に対する門戸を完全開放した。

今後、訪日観光をスムーズに再興するには、以下の2 つの取り組みが求められよう。第1 は、個人旅行解禁のタイミング等を盛り込んだロードマップを政府が策定し、海外に対して門戸を着実に広げていく姿勢を示すことである。第2 は、観光地の受け入れ態勢の整備である。安全安心対策を丁寧に説明して住民の不安を払拭すると共に、抵抗感が薄れつつある国内観光を後押しする政策支援の強化が望ましい。

訪日観光は日本経済、特に地域経済の活性化にとって重要であり、円滑な再興が望まれる。政府は積極姿勢を明確に示して海外の訪日期待を維持すると共に、国内観光への支援を訪日観光の再開につなげていく計画的対応が重要である。


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