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企業向け 経済安全保障におけるセキュリティクリアランスの活かし方

2022年06月02日 岩崎海


 政府の重点政策の一つである経済安全保障推進法が2022年5月に成立した。本法では、主な取り組み対象として「①重要物資の安定的な供給の確保、②基幹インフラ役務の安定的な供給の確保、③先端的な重要技術の開発支援、④特許出願の非公開」(「経済安全保障推進法案の概要」内閣官房 経済安全保障法制準備室資料より)の4点が示されている。近年の対外情勢を踏まえ、迅速な対応が求められている分野が対象になっているといえる。
 本法により経済安全保障のリスク低減が進むことが期待される一方で、安全保障と密接に関係する事業に対して民間企業等の人材が参画するための土台の整備は諸外国と比較すると遅れが目立つ。そのような中、セキュリティクリアランス(以下、SC)への注目度が高まっている。SCとは、政府の秘密情報が漏えいすることによる不利益を防ぐために、秘密情報を取り扱う人物等を事前に審査する仕組みである。SCが整備され審査に通り資格が付与されると、政府の秘密情報を取り扱える人物が企業内に生まれる。need-to-knowの原則に基づき企業は国内外の政府が保有する機微な情報にアクセスできるようになり、ビジネスチャンス拡大が期待される。

 日本では上記法案の対象にSCが取り上げられなかったが、米欧では民間人に対するSCはすでに法制化されている。そのため、外国においてSCの資格が必要な事業等において、制度が未整備で資格を持っていない日本企業の従業員がビジネスチャンスを逃すケースが散見される。例えば、日本のシステム企業がサイバーセキュリティに関する情報を外国政府から得るケースでは、資格をもたない日本企業の従業員の場合、十分な情報を得ることができない。こういったビジネス上の不利益を解消するために、日本においても法制化が求められている。
 SCが法制化されると海外事業を中心に企業活動に追い風になると期待される。多くの業種において法制化への対応が必要になるため、以下、業種ごと、活動ごとに想定される影響を整理していきたい。
 対象業種の絞り込みにおいては、サプライチェーンの強靭化と基幹インフラに関係する業種、その他影響があると考えられる業種という観点を重視し、「電気・ガス・石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物・航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード、重要鉱物(半導体・レアアース含む)、電池、医薬品、医療、自動車(一部製造業)、プラント、人材、コンサルティング・会計」を対象とした。
 また、対象とする活動については、製品やサービスを生み出す過程に沿って、どのような人を雇うのか(リクルーティング)、製品やサービスをどのように生み出すのか(研究開発)、製品・サービスをどのように売るのか、費用を抑えるのか(オペレーション)、すでにある製品・サービスをどのように良くするのか(品質改善)、どこで製品・サービスを売るのか(マーケット開拓)の6つに分類した。
 上記の観点で各業種、各過程の影響について分析し、比較的影響を確認しやすい業種について抜粋したものを図1に示す。

 整理をしていくとSCが各業種、各過程に与える影響には差が出てくる。検討対象とした業種では、リクルーティングや研究開発、オペレーションといった点について大きな影響を多くの業種が受けることが分かる。一方、製品・サービスの品質改善やマーケット開拓といった点については、影響は比較的小さいと判断できる。

(図1)


 このようにSCの与える影響には業種ごとに濃淡があり、SCの法制化により大きな影響を受ける電気通信、電気・ガス・石油、重要鉱物、自動車(一部製造業)といった業種は、法制化を見越して社内・業界団体での議論や官公庁との対話といった対応を検討することが不可欠である。一方で、直接的な影響が小さいと見込まれる外航貨物・航空、金融といった業種においても、SCの法制化により、得られる情報が増えることが考えられるため、どのような情報を得ることができればより確かな意思決定ができるかといった検討を先行していくことが有益である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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