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2009年10月19日

日本総合研究所PREレポート2009「地方自治体におけるPRE戦略の導入に関するアンケート」調査結果固定資産台帳の整備には約4割が未着手、合併自治体では資産保有量に過剰感公的不動産の最適化に向けた課題が明らかに

株式会社日本総合研究所(代表取締役社長:木本泰行 本社:東京都千代田区)は、地方自治体の保有する公的不動産(Public Real Estate: 以下「PRE」)に関する取組みの実施状況に関し、全国の都道府県及び人口30万人以上の市を対象に「地方自治体におけるPRE戦略の導入に関するアンケート調査」を2009年8月~9月に実施しました。これまで地方自治体におけるPRE戦略の詳細な導入状況について全国的に調査を行った例はなく、今回の調査が初めての試みとなります。
地方経済の低迷に伴う大幅な税収減を受け、地方自治体の経営を取り巻く環境は近年ますます厳しいものとなっています。今後、地方自治体が自らの判断で経営資源の適切な選択と集中を行うためには、公的不動産を有効に活用し最適化を行っていくための戦略(PRE戦略)を定めることが不可欠となります。
今回の調査では、地方自治体は今秋までに財務4表の公表と資産・債務管理改革に向けた具体的な施策の策定が求められているものの、実際の取組み状況には温度差があり、時価評価を伴う固定資産台帳の整備は約4割の地方自治体で未着手となっていることが明らかとなりました。
また、10年以内に合併した経験のある地方自治体を中心に資産総量の過剰感が高まっている一方で、PREに関する方針策定や資産活用・処分の推進は局所的な取組みが主流であり、ほとんどの地方自治体では全庁的な施設有効利用度の評価や最適な資産保有量の検討などの戦略的アプローチを欠いている現状が浮き彫りになりました。
主な調査結果の概要は以下のとおりです。
アンケート調査:
調査対象: 全国の地方自治体
(都道府県47団体、人口30万人以上の市71団体、東京都特別区23団体、計141団体)
調査期間: 2009年8月~9月
調査方法: 質問は郵送、回収はファクシミリ若しくはE-mail
回収数 : 99票(回収率70.2%)うち都道府県32団体(68.1%)、市55団体(77.5%)、東京都特別区12団体(52.2%)
調査結果の概要:
1) 固定資産台帳は4割が未整備:
地方自治体が所有する資産について、貸借対照表と連動した固定資産台帳の整備は「段階的に整備中である」(52.1%)が最も多く、現時点で整備が完了している自治体はわずか8.3%に留まり、残り4割弱の地方自治体では未着手である実態が明らかとなりました。
2) 資産保有量の妥当性は5割弱が「わからない」とする一方、合併自治体では「過剰」が最多:
行政需要に対する資産保有量の妥当性については、「わからない(45.9%)」との回答が最も多く、次いで「適正である(28.6%)」、「過剰である(22.4%)」の順となっており、資産保有量を客観的に評価することへの関心は全体として低いのが現状といえます。なお、合併市(過去10年以内に合併した経験のある市)では「過剰である」との回答率が(35.7%)と特に高く、資産過剰の傾向があることが明らかとなりました。
3) 遊休資産の有効活用・売却が政策上の目玉:
総合計画*や首長のマニフェスト等、地方自治体の施策の基盤となる最上位計画の中に位置付けられるPRE関連の取組みとして、最も多いのは「遊休資産の有効活用・売却の推進(総合計画36.4%、マニフェスト22.2%)」であり、財政効果の見えにくい長寿命化やコスト管理の推進に比べ、財政効果が短期的に分かりやすい政策が重視されやすいことがうかがえます。
4) 戦略的アプローチを欠いたまま資産活用・売却の実践が先行:
PREのマネジメントサイクル(後述の「<参考>PRE戦略の考え方について」参照)に沿った個別の取組みに関しては、資産のデータベース化を中心とした「所有不動産の現状把握(STEP1)」を行っている地方自治体が約6割、資産活用に関する「基本方針の策定(STEP4)」から「PRE戦略の実践(STEP6)」までを実行している自治体が3割強ずつ存在することが明らかになりました。一方、現況データに基づく「所有不動産の有効利用度評価(STEP2)」は16.2%、「最適保有量の検討(STEP3)」は8.1%に留まり、客観的な現況評価や定量的な目標設定に基づいた戦略的アプローチを取っている自治体はごく一部であることがわかりました。
5) 学校と庁舎が「統合・再配置」「老朽化」問題で上位2施設に:
統合・再配置が課題となっている施設は「学校施設(44.4%)」、「庁舎・各種事務所(24.2%)」の順に多く、特に都道府県、合併市においてその傾向が顕著です。老朽化・修繕対策が課題となっている施設は「学校施設(61.6%)」、「庁舎・各種事務所(57.6%)」、「公営住宅(46.5%)」の順となっています。
6) 「意思決定の迅速化」と「財政的メリット」に強い期待感:
PRE戦略の導入に期待する効果としては「修繕や建替え事業の優先度決定が容易になる(66.7%)」との回答が最も多く、更新投資に関する意思決定が困難である現状を改善したいという意識が浮き彫りになりました。次いで「既存資産の売却や活用により、独自収入が確保できる(53.5%)」「人件費や維持管理コストの削減につながる(50.5%)」、との回答が多く、数字として表れる財政的な効果への期待感も同様に高いといえます。
7) PRE戦略推進のカギは「部門間調整」「全庁的取組みとしての位置づけ」:
PRE戦略の取組みを進める上での障害としては、回答者全体では「複数部門にわたる調整事項が多く意思決定に時間を要する(53.5%)」を挙げる自治体が最も多く、次いで「PREに全庁的な取組みとしての位置づけがない(27.3%)」、「PRE戦略策定・実行に必要なノウハウ・人材の不足(26.3%)」となっています。
*地方自治法第2条第4項に基づき、市町村の総合的かつ計画的な行政の運営を図るために策定する基本構想(概ね10年間)及び全施策分野の体系に沿って定められた基本計画、実施計画の総称をいいます。都道府県については、市町村の総合計画に類する自治体の最上位計画を指します。
※調査の詳細をご希望される方は、後記お問い合わせ先までご連絡ください。別途お送りさせていただきます。
PRE戦略推進に向けた提言:
1.自治体は新公会計制度の導入を契機とした客観的な資産情報の収集・分析を
今回の調査で明らかになったように、総務省による過去3年間の資産・債務管理改革の推進にもかかわらず、大多数の地方自治体では現在保有する不動産の市場価値や利用状況が客観的に把握されておらず、公的不動産のマネジメント自体が成立していないのが現状といえます。今後、民主党政権下で推進される地方分権において国・都道府県から市町村等への大幅な権限委譲が行われた場合、現在のように公的不動産に関するマネジメントが不在のままでは、極めて非効率的な行政運営となる可能性があります。地方自治体が真の意味で自立するためには、既存の行政財産等を聖域として要否の判断を保留する従来の姿勢から脱却し、資産保有量を行政需要や財政規模に応じて「最適な」水準に近づけるという戦略的発想に切り替える必要があります。
また、公的不動産のマネジメントに対する意識が希薄である一方、財政難を背景に公的不動産をコスト削減や独自収入の源泉とすることへの期待がさらに高まっているという矛盾した状況が、多くの地方自治体で戦略性を欠く局所的な委託費削減や資産売却等を促す圧力になっていると考えられます。PRE戦略の推進により財政的な効果をもたらすためには、現在把握できている範囲で余剰資産の売却・活用を対処療法的に行うだけでなく、客観的な有効利用度評価(STEP2)や定量的な目標値に基づいた戦略の策定(STEP3)を実施した上で、行政需要の観点から資産保有量の見直しを行うことが必要です。また、新地方公会計制度導入の動きと連携を図り、固定資産台帳の整備と並行して公的不動産に係る意思決定に必要となる情報の収集・分析を進めることも有効です。
2.PRE戦略に全庁的な取組みとしての位置づけを
学校・庁舎等を中心とする公的施設の修繕・建替えの早急な実施が求められている一方、PRE戦略に関する取組みの位置づけや主体は概して不明確であり、意思決定に要する庁内調整の煩雑さがPRE戦略推進上のボトルネックになっています。
庁内の合意形成を円滑に行うためには、総合計画やマニフェスト等において、PRE戦略の推進を全庁的な重要施策として明確に位置付けることが重要です。また、自治体組織において財務・企画・営繕部門の機能を再編し、PRE戦略を策定・実施する専任部署の創設を行うことも効果的です。
なお、体系的にPRE戦略を推進する上では、既にPRE先進国として90年代からノウハウを蓄積しているオーストラリアやイギリス等で実施されている手法が参考となります。例えばブリスベン市(オーストラリア・クイーンズランド州)では、我が国でいう総合計画(基本構想)に相当する最上位計画である“Corporate Plan”を踏まえてPRE戦略の基本方針を作成し、さらに具体的な調達計画や管理・処分計画等の形に詳細化していくことで施策全体の整合性を確保しています。また、同市では公共施設管理のスペシャリストから構成されるPRE戦略実施の専門部署を置き、保有する全ての施設の管理権限を集約することで、PREに関するノウハウの蓄積と専門人材の育成を行っています。
また、民間企業ではCRE(Corporate Real Estate:企業用不動産)を重要な経営資源の一部ととらえて、その所有・利用形態の合理化を図ろうという「CRE戦略」の取組みが先行して進んでいます。CRE戦略が企業価値と収益の最大化を目指すのに対し、PRE戦略では効率的・効果的な行政サービスの提供を目的としている点は異なりますが、経営資源としての重要性や合理的な意思決定の必要性については双方に共通しています。地方自治体においても、いわば行政版CRE戦略として、PRE戦略に民間の不動産管理・活用手法や実行体制のあり方を積極的に取り入れる姿勢が求められます。
3.合併自治体におけるPRE再編の推進を
いわゆる「平成の大合併」の進展により、平成11年3月末時点に3,232団体あった市町村数は、平成22年3月末時点で1,753団体(45%減)まで減少する見通しです(総務省調べ)。しかし、今回明らかになったように、合併自治体は保有資産量に対する過剰感が高く、既存施設がほとんど廃止されず継続的に使用されているため、資産管理の効率化・合理化といった合併効果は未だ実現されていないのが現状です。既存施設の老朽化も懸念されることから、今後は新体制移行後の本格的な機能再編に向け、公的不動産の最適配置・最適保有量の検討を進めることが求められます。
合併直後には地域住民への配慮から学校・庁舎その他の統廃合を具体的に進めることが困難な状況がありましたが、既に5~10年を経過した合併自治体においては、首長や幹部職員など当時の推進体制が世代交代するタイミングが公的不動産の抜本的な見直しを行う絶好の機会となります。今後は個々の施設について、住民一人当たりの負担コストなど具体的なデータを基に、保有し続けることの必要性を地域に問いかけていくことが必要です。
ご案内
株式会社日本総合研究所では、上記のPREを取り巻く課題に対応するため、国・地方自治体等におけるPRE戦略導入支援に関連する調査・コンサルティングサービスを提供しております。
また、平成21年10月27日(火)、11月4日(水)には「自治体の公的不動産(PRE)戦略実務者セミナー」の開催を予定しています。
<セミナー参加申し込み>
URL:http://www.jri.co.jp/seminar/
日本総合研究所について
株式会社日本総合研究所は、三井住友フィナンシャルグループのグループIT企業であり、情報システム・コンサルティング・シンクタンクの3機能により顧客価値創造を目指す「知識エンジニアリング企業」です。システムの企画・構築、アウトソーシングサービスの提供に加え、内外経済の調査分析・政策提言等の発信、経営戦略・行政改革等のコンサルティング活動、新たな事業の創出を行うインキュベーション活動など、多岐にわたる企業活動を展開しております。
<参考> PRE戦略の考え方について
1.公的不動産の合理的な所有・利用戦略(PRE戦略)の考え方
PRE戦略とは、地方公共団体等が保有する公的不動産を経営的な観点から捉え、現状を分析・評価した上で、長期的かつ全体最適の観点から公的不動産の保有や維持管理コストを削減することで、行政サービスの効率化を図るという考え方です。
2.PRE(公的不動産)の対象範囲
本調査におけるPREの対象範囲は、地方公共団体及びその関連法人(地方三公社、第三セクター等)が所有する不動産とします。
3.PREマネジメントサイクルの考え方
株式会社日本総合研究所では、PRE戦略とは所有不動産に関する管理運用計画の策定や資産処分・有効活用の個々の取組みを指すのではなく、以下に示すステップを周期的に繰り返すことで初めて経営課題に対する有効性を持つと考えています。

 ステップ 取組み内容
STEP1:
所有不動産の現状把握
・毎年度のPRE戦略を策定するにあたり、地方自治体が所有する不動産の現状を、関連データを集約、更新、整理することにより明らかにする。
STEP2:
所有不動産の有効利用度評価
・所有不動産の現状把握を踏まえ、各施設の有効利用度調査を実施する。
・有効利用度調査は、各施設の有効利用度を評価するための数値的な指標(1㎡あたりの維持管理費や空室率など)を事前に設定し、経年的に横並びで比較をすることにより、所有不動産の有効利用度を評価する。
STEP3:
最適保有量の検討
・所有不動産の有効利用度評価の結果を踏まえ、「最適保有量」の検討を行う。最適保有量とは、今後の施設整備需要や統廃合の見通し、普通財産の売却想定などから導出される、「各地方自治体が所有するふさわしい不動産の量」である。
・最適保有量は目標値として設定するものの、財政状況等を勘案すると直ちに達成できるものではない。PRE戦略を毎年実践していくことによって、徐々に最適保有量の値に近づいていくものと期待される。
STEP4:
PRE戦略の実践に関する基本方針の策定
・ 有効利用度調査や最適保有量の検討を踏まえ、総合計画等の上位計画との連動を考慮しながら、施設整備の基本方針、維持管理の基本方針、資産売却の基本方針等のとりまとめを行う。
STEP5:
所有・利用形態の検討
・基本方針の策定を踏まえ、部門別に所有形態を検討し、STEP3・4にて定めた最適保有量目標の実現に向けた検討を行う。
・不動産の管理運営に関する検討及び有効活用及び売却を行う不動産のそれぞれについて、手法等の検討を行う。
STEP6:
PRE戦略の実践
・STEP5の内容を踏まえ、庁内の各部門においてPRE戦略を実践する。
STEP7:
効果の検証
・PRE戦略は毎年の社会情勢や住民の要望、また行政施策を踏まえ変更されるものである。
・そのため、PRE戦略の実践後(年度末)においては、STEP2及び3で定めた目標値の達成状況を評価することによりPRE戦略の効果を検証する。
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