コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

最短距離で有望な共創パートナーを見つけ、共創活動のスタートを切る

2022年03月17日 谷口卓也


はじめに
 本稿の”共創”とは、「多数者間・異業種間の企業・団体と共に、新しい価値を生み出すこと」と定義する。以下の図表1のとおり、これまでの”連携”は一対一で両社の直面する課題を解決する意味合いが強かったが、“共創”はさまざまな立場のステークホルダーを巻き込んでいくものである。



 近年、「新しい製品・サービスの開発、販売チャネルの拡大、マーケットシェアの拡大」などの目的で”共創”という言葉をよく目にする。ビジネス環境が目まぐるしく変化しており、「VUCA(Volatility:変動性/Uncertainty:不確実性/Complexity:複雑性/Ambiguity:曖昧性)」と呼ばれる時代が到来している。これまで総合力を強みとしてきた大企業も、異業種との”共創”に積極的になっている。
 例えば、以下の図表2のように、出光興産株式会社(以下、出光興産)は、「地域の人々の暮らしと移動を支えるライフパートナー」というコンセプトを発表(2021年4月)し、全国のサービスステーションの活用を検討していた。そのわずか2カ月後、2021年6月にスマートスキャン株式会社(以下、スマートスキャン)との実証実験を開始した。全国初の移動式脳ドックサービスを三重県東員町で提供することで、話題を集めて小さな成功を収めた。その連携を皮切りに、パートナーを拡大して複数の異業種を巻き込んだ取り組みに発展させている。



 この事例のポイントは、軸となる共創パートナーを短期間で見つけて実行まで移していることである。“共創”の背景・目的、事例やそのポイントなどは、各種メディアで目にすることが多いが、どのように実現していくかについて語られていることは少ない。オープンイノベーションの場に参加する方法もあるが、開催時期が限定されおり、前提・制約条件もさまざまである。本稿では、自社で有望な共創パートナーにたどり着くための実践的な方法に焦点を当てて説明したい。

最短距離でのアプローチ
 有望な共創パートナーに最短距離でたどり着くためのステップは、大きく以下の3つに分けることができる。
 (1)軸となるパートナー候補のリストアップ
 (2)軸となるパートナー候補へのコンタクト
 (3)取り組み構想案の落とし込み

(1)軸となるパートナー候補のリストアップ
 パートナー候補のリストアップでは、仮説を立て、その仮説に該当しそうな企業・団体をリストアップする。ポイントは仮説の整理に時間をかけ過ぎないこと、共創の目的に強く関連する評価軸を設定することである。
 仮説では、以下の問いに対する、その時点での答えが明らかになっていれば良い。また、仮説を実現することが難しくなった場合に備え、複数の仮説を整理しておくことが必要である。

最低限の仮説
 ① どのマーケットに対して何を提供したいのか、どんな課題を解決したいのかというコンセプト(地域の住民の利便性の向上や負の解決、●●業界の集客アップや労働時間削減に貢献など)
 ② ①の実現に向け、追い風となる情報はあるか(規制強化・緩和、政府の補助金など)
 ③ ①の実現に向け、自社では何ができそうか(強みとなるものは何か)
 ④ ①の実現に向け、自社に足りないものは何か(弱みは何か)

 仮説の整理は、自社で知見を持っていそうな関係者を集め、ブレーンストーミングを行って整理する程度で十分である。外部の有識者を入れて意見をもらうことも有効であるが、仮説は、実際にパートナー候補とディスカッションしていくと、内容が変わっていくので、自社内部で趣旨が分かる程度に整理できていれば良い。
 これまで全く接点を持っていなかった業界に対してチャレンジする場合、簡単に業界動向を把握しておく必要がある。ただし、業界動向の把握に何カ月もかけないでほしい。最新の業界動向が整理された書籍を数冊読み、また、情報が集約されたウェブサイトを確認し、自社に関係がありそうな情報をピックアップする程度で十分である。後で活用されない情報をあまり詳細に調べても、時間を浪費するだけなので、仮説の整理を優先してほしい。
 次に、仮説に該当しそうな企業・団体をリストアップする。リストアップの際は、事前に評価軸を設定することを忘れないでほしい。例えば、以下のような評価軸が挙げられる。

共通の評価軸
 ①仮説で整理したコンセプトとの親和性:複数異業種間での共創を想定し、コンセプトとの親和性が高いか
 ②他社連携の状況:ニュースリリース等で他社と積極的に連携していることが確認できるか(同業他社との連携はマイナス要素)
 ③顧客接点:自社が持たない顧客接点をパートナー候補が持っているか(どの業種の、どのテーマに強いなど)
 ④顧客の規模感:ターゲットとする顧客の規模感が自社と合うか

個別の評価軸
※例えば、顧客とリアル接点中心の大手企業が、デジタル接点を持つ企業と組んで地域の課題を解決する、または、販売チャネルを拡大したい場合など
 ④DX力:デジタル支援に対する取り組みに積極的か、自社で開発部隊を保有できているか
 ⑤会社・団体規模:スタートアップ期の企業・団体は取り組みが頓挫するリスクがある
 今回の共創の目的に強く関連する評価軸を3つ程度までに抑えて設定することが重要である。あまり評価軸が多すぎても、リサーチに時間を要し、有望な企業・団体を絞り込む際にも納得感が得られない。
 また、リストアップした企業に必ず会えるとは限らないので、仮説ごとに複数の企業を選択しておくと良い。

(2)軸となるパートナー候補へのコンタクト
 パートナー候補の絞り込みができたら、パートナー候補にコンタクトし、ディスカッションの場を設定する。ポイントはパートナー候補向けのディスカッション資料を作成すること、パートナー候補のマネジャー以上の方にアポイント取得を依頼することである。これを実践するとアポイント取得率が格段にアップし、適切なキーマンに最短距離でたどり着ける。
 パートナー候補に挙がるような企業は、何らかの魅力を持っているので、他社から連携の打診を受けることが多い。そのような引く手あまたの企業は、依頼文書、電話やメールで面談を申し込んでも、反応が良くない。提案の質を見て、共創の熱意を判断しているためである。ただし、パートナー候補向けのディスカッション資料は初回の面談時点で作り込み過ぎる必要はない。図表1のように、ディスカッションの趣旨、パートナー候補を調べていること、想定でも双方のメリットを考えていることが伝われば問題ない。また、1対1の連携案だけでなく、中長期的な共創案として他のステークホルダーも巻き込んでビジネスを大きくしていく意向も伝えておきたい。議論の切り口を資料にちりばめておき、共創の方向性に関する議論の余地を残しておくと良い。



 パートナー候補向けのディスカッション資料を作成しておくと、面談当日、オンラインで初対面の人たちとも議論が盛り上がる。また、自身の頭の整理ができていることで思考が停止することもないので、ぜひお勧めしたい。
 アポイントの取得方法は、既に構築されているネットワークを活用したい。社内の人のパイプを使う、取引先に紹介してもらう、民間のパートナー紹介サービスを利用するなどが考えられる。いずれの場合も、パートナー候補のマネジャー以上の方にアポイント取得を調整してもらうと良い。マネジャー以上の方であれば、ディスカッションの趣旨を的確に理解してもらえ、適切なキーマンを紹介いただける可能性が高まるので、無駄な面談を重ねる必要がなくなる。
 仮説ごとにいくつかのパートナー候補と初回のディスカッションを行うと、共創の可能性がありそうな企業・団体が見えてくる。この時点で、今回の共創の目的に合ったディスカッションができているかを振り返ることが重要である。ディスカッションの際に、パートナー候補から提示された内容に流されないように注意したい。手戻りがないように、この段階で自社のマネジメント層に進め方の承認を得ておくことをお勧めする。

(3)取り組み構想案の落とし込み
 初回のディスカッションで軸となる共創パートナー候補が見えてきたら、2週間~1カ月以内に2回目のディスカッションを設定する。ある程度取り組みの方向性が合うパートナー候補と2~3回ディスカッションを行うと、取り組み構想案はおおむね整理できる。ここでのポイントは取り組み構想案を早く短期的なアクションに落とし込み、双方合意して共創のスタートを切ることである。中長期的な共創の方向性を見据えつつ、短期的に何をして、どんな成果を狙うかを設定しておくことが重要である。
 また、短期的なアクションの検討段階から、自社の施策の実行部署も巻き込むことが重要である。特に大企業の場合、施策の立案と施策の実行部署は分かれているケースが多いので、社内の巻き込みが後回しにならないように注意してほしい。
 取り組み構想・短期的なアクション・推進体制が整理できた段階で自社のマネジメント層に2度目の承認を得ておくことをお勧めする。

最後に
 ここまで、最短距離で有望な共創パートナーを見つけて、共創活動のスタートを切るまでのステップとポイントを紹介してきた。どのステップにも言えることが、”机上で考え過ぎずに、早くアクションを起こすこと“である。パートナー候補とディスカッションしなければ、連携の可能性は未知のままなので、”特にパートナー候補に会うまでの期間を短縮することが最短距離の肝”となる。変化するビジネス環境で勝ち残っていくためには、量と質だけでなく、スピードも重要であると考える。
 ただし、最短距離を意識し過ぎて、当初の共創の目的を見失わないように注意してほしい。定期的に状況を振り返って、当初目的と現状の取り組み内容の整合を取ることが重要である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ