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日本総研ニュースレター 2021年7月

電池の循環市場が後押しする ~IoT による診断技術プラットフォームで実現~

2021年07月01日 木通秀樹


EV市場の拡大とEV電池循環市場の重要性
 EV市場は拡大を続けており、2030年には世界で保有台数が2億5千万台に上ると見込まれる。付随して廃棄電池も増え続けているが、それらのほとんどは、その能力の3割程度しか使われずに廃棄されている。裏を返すと、EVのように一定の航続能力が必要となる高性能な用途でなければ、残りの7割もの能力を使った二次利用が可能になる。
 例えば、太陽光発電において、電力系統に負荷をかけないように、変動する太陽光の影響を調整する電源としての用途がある。こうした二次利用段階での調整電源としての能力は、合算すると2030年に世界で最大100GWに達することも予想されている。これは原発100基分に相当する能力であり、その分太陽光発電を系統に接続させ、CO2削減に貢献することができる。
 これほどの能力が期待されているにもかかわらず、現在ほとんど有効利用されていないのは、EV電池の残存能力を正確に計測できていないからだ。年式や走行距離で評価しようとする傾向もあるが、年式が浅くても急速充電を繰り返すと、EV電池の劣化が早まっている可能性がある。そのためEV電池の本当の能力に応じた評価ができず、中古EVの価格の値崩れが大きくなっているのだ。
 中古EVの値崩れは深刻な課題だ。2、3年で新車の半額程度まで下がることが多いために、消費者はEVの新車購入をためらいがちとなるなど、EVの一層の普及に対する阻害要因となっている。

市場化のカギは簡易にどこでも残存価値を測れる技術
 中古EV電池の残存価値を現在の一般的な技術を用いて診断する場合、EV電池を車体から外したり、端子に大型の診断装置を接続して大電圧をかけたりといった大掛かりな作業を1日がかりで行うことになる。診断装置も高価なため、導入する整備工場や中古車センターはほとんどない。
 一方で、短時間でEV電池の劣化状態を計測する技術は、電池の種類ごとに開発されてきたため、適用できる電池種類に制約がある。EV電池は既に数百種類が存在し、さらに全固体電池やコバルトフリー電池など進化型の電池が次々と登場し続けている。整備工場側が電池の種類に応じて多くの診断装置を導入し続けるのも、現実的ではない。
 つまり中古EV電池の診断を一般の整備工場などで行うには、多種類の電池に柔軟に対応できる診断技術のプラットフォームが必要になる。新旧の幅広い診断アルゴリズムを集約し、IoT技術を活用した診断技術プラットフォームが構築されることで、複数の技術を組み合わせることが可能となり、精度向上と多様な電池への対応が実現する。診断技術の使い分けなどの煩雑さが解消され、短時間での簡易な診断が可能になる。
 こうした診断技術プラットフォームが構築されれば、利用する整備工場が拡大し、診断コストが下がることが見込まれれる。さらに、各種の診断アルゴリズムを保有する診断技術メーカーが集まり、適用できる電池や診断技術の種類が拡大する好循環が生まれるだろう。

電池のサプライチェーンは中古も含めた大変革時代に
 日本総研でも、EV電池の循環市場形成のためのエコシステム構築を行う、民間企業によるコンソーシアム活動を開始し、世界最大のEV市場である中国でのサービス実装を目指している。昨年度は、メーカー横断的な各種の電池を包括的に診断する技術開発のために、数十種類の電池の計測試験を実施した。今年度は、診断技術を活用し中古EV電池の二次利用を促進させる付加価値創出サービスの実証を行う予定だ。
 2020年12月にEUが電池指令を改変したことを受け、電池のサプライチェーンは世界的に大きく変わろうとしている。電池材料のCO2排出量やリサイクル材料の使用量などの明記を義務付けるこの指令を追うように、国内の動きも活発化し始めた。
 本稿で取り上げたEV電池の循環市場の形成は、EVの普及、太陽光や風力等の再生可能エネルギーの導入拡大、資源循環によるカーボンニュートラルで持続可能な社会システムづくりの核の一つとなり得るものだ。中国ばかりでなく、日本や各国での取り組みが進むことを期待したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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