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シーズをつかめ シンクタンクが提案する再生への処方せん 
地域の特性が付加価値生む、大学発ベンチャー核に新たな知財ビジネス

出典:日刊建設工業新聞 5月23日号

カギを握る『大学発ベンチャー』

地域の知財をもとに新たなビジネスを生み出すという視点に立った場合、「知財の有力な使い手である『大企業』(地域の知的財産をもとに、新たな製品や事業を生み出していく主体)」の動きに着目し、そのニーズにこたえていくことが有効かつ効率的取り組みとなる。大企業の関心を高め、事業に取り組むインセンティブを引き出すことが重要であり、その際のポイントは次の1点に絞り込まれる。

すなわち、大企業にとって必要であるものの、リスクが高く単独では取り組めない分野において、地域独自の知財を生み出していくことである。こうした取り組みに果敢に挑戦する代表が、地域における『大学発ベンチャー』になる。

実際に01年5月の「大学発ベンチャー1000社計画」の発表を契機に、日本各地で大学発ベンチャーの創出が活発化している。経済産業省の大学連携推進課が取りまとめた『「平成16年度大学発ベンチャーに関する基礎調査」結果について(速報)、05年4月』によれば、大学発ベンチャーの総数は既に1099社に達している。

また、調査の中で「単年度での設立数を大学別に見ると、昨年度に続き地方圏の大学が上位を占めている」という結果も示されており、大学発ベンチャーについては必ずしも首都圏集中ではない現状が見て取れる。

さらに、「大学発ベンチャーを分野別に見ると、北海道や大阪府ではバイオ分野、福岡県ではIT(ソフトウエア)分野の集積度が高いなど、地域により集積度が異なる」ことが明らかになっており、地域ごとに異なった特徴や独自の強みを持つことも確認できる。まさに、地域の知的財産ビジネスに成功をもたらす大きなカギを、大学発ベンチャーが握っていることになる。

地域の中の『目利き力』

ところで、世界の中で最も多くの大学発ベンチャーが生まれているのはアメリカだが、アメリカの中でも特に起業率が高い(大学の規模に対するベンチャー起業数が多い)のが、カリフォルニア工科大学だと言われている。このカリフォルニア工科大学を対象に、『大学発ベンチャーのサクセス・ストーリー』をベンチマークすると、「地域の知財から新たなビジネスを生み出す」ための貴重な示唆が得られる。

第一に取り上げたいのが、リーボイ・フッド氏の成功物語である。カリフォルニア工科大学の元教授のリーボイ・フッド氏は、80年代の初め、DNA配列を調べる装置を開発していた。しかし当時は、政府や大学から十分な援助を受けることができず、声をかけた19のベンチャー・キャピタルからも支援を得ることが出来なかった。

そんな中で大きな転機が訪れる。一人のベンチャー・キャピタリストがフッド氏の研究に目をつけ、数百万ドルの資金提供に応じたのだ。その結果、84年には、フッド氏の研究成果をもとにアプライド・バイオシステムズというベンチャーが設立されることになった。

その後、この会社は成長を続け、93年に3億3000万ドルという高額で買収されるまでに至っている。大学発ベンチャーをビジネスとして開花させるには、可能性を見切るキャピタリストの力が極めて重要であり、その目利き力で資金を引き寄せることができればビジネスとしての成功確率が大きく高まる=図表1。

一方で、00年4月にインピンジというベンチャーを立ち上げたカーバー・メッド教授のようなケースも見られる。カリフォルニア工科大学のカーバー・メッド教授は「エレクトロニクスの父」としてシリコンバレーでも有名な人で、インピンジを立ち上げる時点で「既に25社の会社立ち上げに成功した実績」を有していた。このため、メッド教授が会社を興すと言えば、多くのベンチャー・キャピタルが進んで資金提供を申し出る状況にあり、この場合はメッド教授自身の目利き力が、必要な資金を引き寄せる求心力としての役割を果たしている。

『買収』してベンチャー育てる

もう一つ取り上げたいのが、CMS社の物語である。CMS社はカリフォルニア工科大学のTLO(技術移転機関)から生まれた最初のベンチャーであり、病気診断用のDNAセンサーを製造する会社として95年に起業した。起業後も成長を続け、00年にはモトローラがライフサイエンス部門の強化を狙って3億ドルで買収する結果に結びついた。この買収により、カリフォルニア工科大学はエクイティ(普通株)の現金化とロイヤルティーに基づく500万ドルもの収入を得ている。

最初に紹介したアプライド・バイオシステムズ社のケースも最終的に3億ドル規模の買収に結びついたように、アメリカでは、「まず、ベンチャーがビジネスとしての価値を生み出し、その上で大企業が買収し、グレードアップする」というプロセスが成立している=図表2。

特に、ライフサイエンス分野の成功事例に、こうしたパターンがかなり見られる。日本でもM&Aによる事業再編制度が拡充されつつあり、「大学発ベンチャーを核に、地域の知財を新たなビジネスに換える仕組み」として、今後その役割を増すことが期待される。

地域の知財をもとに新たなビジネスを生み出すためのキーワードは、「大学発ベンチャー」「目利き力」「M&A」の三つである。

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