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日本経済活性化の切り札としての産官学連携

出典:週刊東洋経済 2004年6月12日号

少子化の時代、大学の生き残り戦争に産官学連携が重要な方策となる



世界をリードする先端技術を開発するには、土台となる基礎研究をしっかり行わなければならない。しかし、すぐに利益を生み出さない基礎研究に取り組む余裕は企業にはあまり残されていない。そこで、基礎研究は大学が狙い、それを応用して時代の先端を行く技術を企業が開発するという役割分担を進めること、つまり産官学連携が、日本の国際競争力を維持するために不可欠となっているのである。しかし、日本の産官学連携は、アメリカと比べると、まだまだ遅れている。というのも、日本では大学は勉強する所という認識が強いが、アメリカの大学では学問とビジネスがうまく両立されていて、産と学が連携しやすい仕組みが整っているからだ。収入構成を見ても、日本の大学は9割以上を学費で賄っているのに対して、アメリカの大学は学費のほかに技術ライセンス収入も大きな財源となっている。これから少子化社会が本格化するにつれて、日本では大学の生き残り戦争が激化すると思われる。その時、生き残りの方策として、産官学連携が今以上に大学にとっても大きな意味を持ってくる。大学にもビジネスセンスが求められるようになるのである。これは私立大学だけの問題ではなく、独立法人化された国立大学にも共通することだ。しかも、日本では将来的に、大都市と地方との格差が拡大することが懸念されている。大都市にますます人口が集中し、逆に地方都市は空洞化が進む一方。企業も消費者も大都市に集まり、地方都市にはヒトもカネも集まらない。そうなれば、大都市の大学と地方の大学との格差も大きくなるのは必至。旧帝国大学の間でさえ格差が拡大するだろう。そして、もしもその地方の大学が廃校になったり、移転することになったら、まさに地域経済にとって一大事である。ある意味、地方銀行が潰れるよりも深刻な影響を地域経済に及ぼすかもしれない。地方経済の発展には大学は欠かせない存在なのである。そのことを真剣に考えている地方は、まだ少ないのではないだろうか。だから本当は、地方も必死に大学を支えていく必要があるのである。産官学連携ではなく、産地学連携なのだ。そのためには、まず地方自治体が研究開発ファンドやベンチャーファンドを設け、資金的に大学の研究活動と実務的な連携を図る必要がある。地と学があっても、地域によっては肝心の「産」がないケース多いのではと思われるかもしれない。それは事実だが、だったら「産」を起こす、つまりベンチャー企業を育てればいいのである。建設、流通といった地方の名門企業の2代目、3代目たちは、真剣に新事業の可否を考え続けている。あるいは地方に支店を置く大企業の社内ベンチャー制度を活用し、その地域でベンチャー企業を起業する手もある。大企業だから人材は豊富だ。地方といえども人材はいろいろ揃っているのだ。そして、ビジネスで最も大事なのは「人」である。

学長が明確なビジョンを示せば大学のビジネスセンスも磨かれる



前述したように、大学側が産官学連携を進めるには、ビジネスセンスが求められるようになる。そこで必要なのは、大学への人材誘致だ。中でも重要なのは、学長と産官学連携部署のキーパーソン。大学がビジネスセンスを身に付けるには、学内の組織をはじめ、大胆な改革が避けて通れない。改革を断行するには多くのエネルギーが必要だから、できればビジネスを立ち上げた経験があるような、元気のいい人が望ましい。産官学連携が進まない大学に顕著なのは、教授が「知識の番人」になってしまっているケース。本来、(特に国立大学の)教授というものは、国や地域の役に立つ研究をするのが使命なのに、周囲から「先生」とあがめ奉られているうちに、勘違いして、専門領域の中に閉じこもってしまうのである。だから、学長にまずお願いしたいのは、産業界の第一線で活躍しているビジネスリーダーを教員に加えるということ。学生たちは社会人の生の声を欲しているものである。学外の人を教育スタッフに加えれば、今まで安住していた教授たちの危機感が高まり、いい意味での大学内での教員たちの競争が起きる。そのうえで、産官学連携に関する研究実績に対して評価を高めてほしいし、教員たちの研究テーマの自由度も高めてほしい。一方で、学生に対する評価も厳しくてはいかがだろう。成績が悪ければ、落第させることも必要だ。そうすることで、ただ学士号を得るためでなく、自ら「何か」を身に付けたいために大学に入る学生が増えると思う。
それと、学生に厳しくすれば、今度は学生が教員たちを見る目を厳しくなる。つまり教員の活性化にもつながるのである。さらに学長には、自分が大学という組織をどうしたいのか、明確に語ってもらいたい。学長のビジョンがわかりやすく伝われば、教授陣も学生たちも、そのビジョンに沿って進んでくれるはずだ。大学の学長は、起業にたとえれば社長である。最近の産業界を見回して、業績が回復している会社は、必ず社長が明確なビジョンを示していて、外部から見ても、社長の「顔」がしっかりわかるという共通点がある。大学も同じなのだ。このようにして大学の改革が実行されていけば、おのずと企業もその大学に目を向けるようになる。結果としてビジネスセンスが磨かれて、産官学連携がスムーズに進むようになるのである。

 

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