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特集 「環境と経済の好循環」実現に向けて
環境に配慮した企業経営と企業の社会的責任

出典:国民生活 2004年6月号

企業の環境経営の進展とその背景



環境配慮型の企業経営は、どこまで進んだか。また環境配慮行動は企業の利潤追求動機とどの程度まで整合するようになったのか。(株)日本総合研究所では、'00年から「わが国企業の環境経営の動向」調査('03年から「わが国企業のCSR経営の動向」調査と改題)を毎年実施しているが、この集計結果が1つの手がかりを与えてくれる。それによれば、大手企業(上場企業485社が回答。以下はこの回答企業全体に占める割合)ではすでに93.2%が明文化された環境方針を定めており、環境マネジメントシステム(EMS)の導入は89.9%の企業で行われている。環境会計を導入している企業も60.8%に及び、64.1%の企業は環境報告書を発行して取り組みを外部に向けて情報発信している。さらに、原材料や部品調達などのグリーン調達を行っている企業は54.8%にまで増大してきた。こうした環境経営の進展の背景には、企業を取り巻く環境問題が、事業リスクや事業機会に直結するようになっている状況があると考えられる。いくつか例を示せば、'01年秋にある電機メーカーが、製品ケーブルに許容範囲を超えるカドミウムを含有しているとの指摘を欧州の環境当局から受け、ヨーロッパ向け製品の一部を出荷停止にし、製品の交換を余儀なくされるという出来事があった。当時の新聞報道では、連結決算ベースで売上高への影響が約130億円、部品交換のコストを含めて連結営業利益に与える影響が約60億円と伝えられた。反対に、環境問題への対応が事業機会に直結することを見事に証明した事例に、トヨタ自動車(株)のハイブリッド車「プリウス」の事例があろう。プリウスが世に出たころは、1台売るごとに赤字が生まれるという噂もささやかれたが、いまや数ヶ月のバックオーダーを抱えるほどの売れ行きで、'04年のアメリカでのカー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれ、近い将来にアメリカでの現地生産も始まる予定だという。'04年1月に、グリーン購入ネットワークが「第8回グリーン購入アンケート結果」を発表している。国内の企業・行政機関(有効回答数は1307)を対象にしているが、製造・販売事業者からの回答をもとにすると、文具・事務用品や情報用紙など16分野の環境配慮型製品の販売額はマーケット全体の50%を超え、これをもとにした同生産額は約50兆円になったと推計されている。製造・販売事業者の58%が前年より環境配慮型製品の販売額が増加していると回答。売れ行きも35%が「よく売れる」と回答している。特に「容器・包装材・梱包材」では55%、自動車でも50%の製造・販売事業者が「よく売れる」としている。

見えてきた「市場の進化」の予兆



企業に「自発的な善行」を期待することは困難であるが、反対に「マーケットが変化する」のであれば企業は迅速かつ敏感に反応する。これまでわが国では特に消費者に対して環境問題のイメージを訴求した商品は、実際にはなかなか売れないといわれてきた。『平成12年度版環境白書』では、消費者対象のアンケート調査で「環境に配慮した消費行動をしている人が多いと思うか」という設問に対して、約9割が「少ない」と回答したことを受け、「グリーン購入がまだ十分に消費行動の基準になり得ていない」と結論付けた。それが、『平成14年度版環境白書』では、「環境保全に配慮した商品かどうかが、消費者の商品選択において重要な要素として浸透してきているとともに、環境配慮型製品が一般製品と比べて割高でも受け入れられる状況になってきている」と紹介されている。(財)日本環境協会の実施した「2002年度エコマーク商品に関する調査」では、「あなたは商品を購入するとき『エコマーク』を意識していますか」という設問に対して、「エコマークが付いているかどうかいつも注意して購入している」2.6%、「商品の種類によってはエコマークを意識して購入している」20.7%、「エコマークは、あまり意識していないが環境に配慮した商品かどうかは大概注意している」47.8%という結果であり、「あまり環境を意識して商品の購入をしていない」という回答は26.5%に過ぎない。また、「環境に配慮して商品を購入すると答えた人」のうち「少しくらい値段が高くても、環境配慮型商品を購入する」と回答した人は37.3%に上っている。経済同友会が’03年3月に発表した『第15回企業白書<「市場の進化」と社会的責任経営>』では、こうした「マーケットの変化」を指して、「市場の進化」という考え方を提起している。「企業は『経済的価値』のみならず『社会的価値』『人間的価値』をも創出する責任を有している。市場の評価が極端に『経済性』偏重に陥ると、企業活動の行き過ぎた『結果第一主義』や『株主利益市場主義』を招き、わが国固有の文化、伝統、習慣を反映した社会のニーズや価値観との間に著しい乖離をもたらすことになる。その意味で、市場自体も、総合的観点で企業を評価させていく必要があり、企業側も市場の評価をただ受身でとらえるのではなく、自らの信念を市場や社会に積極的に働きかけ、市場をその方向へ導くイニシアチブを発揮すべきである」という主張が経営者側から提起されていることは注目したい。マーケットが、企業の環境配慮行動を評価し、その取り組みの進んだ企業を支持する行動を取るのであれば、企業は先行的に取り組みを進めることで競争力を獲得できる。と同時に、世の中の環境保全を促進させることにもなる。いわば企業と社会の相乗発展を実現することができる。こうした経済モデルはまさに21世紀にふさわしい目標像といえるだろう。

資本市場の進化と社会的責任投資



こうした「市場の進化」の兆しは「製品市場」だけでなく「資本市場」においても出現し始めている。それは「社会的責任投資」(SRI:Socially Responsible Investment)と呼ばれる行動の拡大である。社会的責任投資は、もともとは宗教的価値観や社会運動を背景として、酒やギャンブルに関連する企業やアパルトヘイト時代の南アフリカに直接投資する企業の株式を保有することをボイコットする行動として始まった。'03年アメリカにおいては、総額2兆1750億ドル(約240兆円)の規模があり、'95年から'03年までの8年間で3.4倍に拡大してきた。欧州市場においても3500億ユーロ(約45.5兆円)の規模で、イギリスでは'97年から'01年の4年間で5.4倍に拡大、オランダでは'95年から'03年までの8年間で15倍に拡大してきた。こうした拡大の背景には、各国の年金基金や機関投資家が、例えば、環境問題が企業の事業リスクや事業機会に直結するようになっている状況をいち早くとらえて、従来のような企業決算や新製品開発の売上増への影響といった財務情報の他に、環境問題への取組みに代表されるような非財務的な情報も加味して投資銘柄の判断を行うようになっていきているという変化がある。
わが国においてもすでにこうした行動はみられるようになっており、'04年3月末現在で投資信託年金基金、保険会社などの機関投資家により1000億円強の資金が、社会的責任投資の形態で運用されていると推定される。この将来性に関しては、'03年6月に環境省が発表した「社会的責任投資に関する日米英3カ国比較調査」の結果が興味深い。個人投資家に対する質問で、企業の社会的責任に対する関心の程度については、3カ国で若干の差があり、アメリカが最も関心が高く45.0%が「とても関心がある」としており、最も関心が低いイギリスは「とても関心がある」とする回答は26.1%、わが国の関心の高さはアメリカとイギリスの間に位置している。さらに、社会的責任投資ファンドに関心があるとする肯定的意見が3カ国ともに60%を超えており、わが国だけがエコファンドや社会的責任投資に関心が低いというわけではないことが明らかになっている。

国際規格化の動きと国内経済界の反応



昨今、「企業の社会的責任」という概念は単に環境配慮だけにとどまらず、労働者への配慮、人権への配慮、地域社会への配慮、公正競争への配慮、製品責任への配慮など幅広い要素を含むものとなっている。こうした脈略の中で、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardizations)が、このCSRに関する国際規格の検討を始めている。品質マネジメントのISO9001、環境マネジメントのISO14001に連なる第三世代の規格といういい方もなされており、現在、作業レポート作成されている途上で、'04年6月には規格化の是非とその在り方について、一定の結論が示される見込みである。国内経済界においても、先述の経済同友会の他、日本経団連が'04年2月に「CSR推進にあたっての基本的考え方」を公表している。ここでは

1. 日本経団連はCSRの推進に積極的に取り組む、
2. CSRは官主導ではなく、民間の自主的取り組みによって進められるべきであり、CSRの規格化や法制化に反対する、
3. 企業行動憲章および実行の手引きを見直し、CSR指針とするという3つが柱となっている。

生活者の行動が改めて問われている



「環境と経済の好循環」というアジェンダを実現する機は相当に熟しているといえるのではないだろうか。少なくとも、企業の側には、マーケット変化に関する予兆は伝わっており、企業の側のそれへの対応の心積もりもでき始めているようにみえる。問題は、マーケット変化を今以上に加速させることができるか否か、生活者の側の行動が問われているというべきであろう。モノを買うときに、立ち止まって環境の視点から考えてみる姿勢、お金を貯めたり増やそうとするときに、立ち止まって環境の視点から考えてみる姿勢をどこまで確実かつ広範なものにできるか。そのことが改めて焦点となっている。このような的確な行動がなされるためには、生活者の側に必要な環境情報が提供されることも重要になる。すでにわが国では、650社が環境報告書を発行しているといわれているが、最近では企業を取り巻く利害関係者の声を聞く「ステークホルダーミーティング」や「環境報告書を読む会」を開催する例も増えている。この点に関しては第159回国会に「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律案」が提出されている。この法律案には「国民は、投資等をするに当たっては、環境情報を勘案してこれを行うように努めるものとすること」「事業者は、その事業活動に関し、環境情報の提供を行うように努めるものとすること」という趣旨の条文があり、「国はその促進のための施策を推進するものとする」との趣旨の条文も盛り込まれていることから、今後はさらに環境情報が提供され、「市場の進化」が後押しされていく状況も強まるだろう。
最後に、一つの事例を紹介する。全国青年環境連盟という大学生を中心としたグループが'01年から環境就職進路相談会というイベントを開催している。これは環境分野に就職したい学生向けに、30~40人程度の社会人カウンセラーが相談に乗るという催しだ。'03年も12月に開催されたが、事前申し込みは定員を上回る盛況ぶりで、実際に294名の参加があったという。これは「労働市場」までが「環境問題への対応」を織り込んで進化し始めていることを示す事例だと考えられる。「環境と経済の好循環」を実現するための「市場の進化」。最後の試金石は、生活者の所に戻って来ていると述べた。そのうえで、わが国の賢明な生活者は「市場の進化」の牽引力となり得ることを信じたい。

*CSR:Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任

 

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