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XML 高度な企業間連携など可能に

中川 清人

出典:日経産業新聞 2001年6月22日

●業務効率、顧客対応を迅速化

 今日、XML(拡張可能なマーク付け言語)以外のツールでは実現が困難であったものが、ブロードバンド環境下のXMLの利用により実現可能性が高まってきた。典型的なイメージ例を挙げてみよう。

1.従来、VAN(付加価値通信網)経由のEDI(電子データ交換)ではバッチ処理のため取引先への納期回答が一日遅れであったが、XMLを使うことでリアルタイムの納期回答ができる。

2.共同開発パートナー企業との情報共有がスピードアップし、設計者間で迅速に設計データの交換ができる。

3.出勤前にキーワードを「Ichiro」、収集データ容量を50ギガバイトにセットし、帰宅後、関連映像情報を20ギガバイト分だけ鑑賞する。

4.好きなミュージシャンの未発表映像フィルムを世界中から自動的にダウンロードし、DVD録画する。

 XMLは大容量のデータ送受信を可能にするブロードバンド時代のBtoB(企業間)、BtoC(企業対消費者)の電子商取引、SCM(サプライチェーン・マネジメント)、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、企業内・企業間ネットワークの構築を加速化し、企業における業務効率を向上せしめ、顧客ニーズへの迅速な対応や新たなサービスの創出を可能にするものとして期待されている。

●企業間をシームレスに接続

 このXMLとは、そもそも異なるシステムを連携させるデータ記述言語である。HTMLと同様の「<>」というタグでデータを自由に定義可能で、異なるコンピューターやアプリケーション間での文書交換・再利用を容易にする。各プラットフォームごとに一からのプログラム設計を必要とせず、データベース設計業務を効率化できるために、柔軟・迅速かつ低コストで企業内・企業間のネットワーク構築が可能になる。インターネットと社内システムのシームレスな接続、大型汎用機、UNIX、PC、携帯電話、および衛星放送などの多様なインフラ別の情報表示も難しくない。

 消費者向け情報提供サービス企業の中には、XMLを使いホームページ、電子メール、携帯電話、テレビ、カタログ、CD-ROMなどのメディア別に情報開示の仕方を変えて利便性の高いサービスを展開する企業が出てきた。XMLを導入し情報を迅速に収集・伝達する仕組みを構築し、ナレッジマネジメントを促進しようとする企業も今や少なくない。XML導入のための各種ソフトウェアやツールも近年、充実してきており、XMLベースのシステム構築がしやすい環境が整ってきていることも普及の追い風となっている。

 一方で、各企業はXMLの今後の動向を注視し、XML導入にあたっての前提および課題を検討する必要があろう。

●企業間のデータ定義が課題

 XML導入には、異なるシステムを利用する複数企業あるいは自社内の部門間で、ビジネスプロセス、データ定義を標準化することが前提となる。

 この標準化は、生産・調達・運用支援統合情報システム(CALS)がもてはやされた時期にもかなり論議された。CALSは、①企業間で標準化の合意が得られなかった、②通信インフラの未整備、③柔軟・低コストのシステム構築を可能にする便利なツールが無かった等の理由から、十分に普及しなかった。

 ブロードバンドの普及とXMLの登場は、当時のインフラとツールの課題を解決する。企業連携による業務スピードのアップ、コスト削減、適確な顧客ニーズ対応の重要性が増してきた現在、これまでその困難さを打開できなかった標準化に対する認識も高まってきた。

 そこでXML導入にあたっては、次の課題を考慮に入れる必要があろう。

 ビジネスプロセスの大幅な変更を伴うケースやノウハウの共有化を必要とする業務においては、標準化が簡単に進められるとは限らない。汎用品の受発注業務のような定型業務でも、他社からの合意とりつけに時間がかかっている場合が多い。

 自社だけで、あるいは特定企業とのみデータ定義を行うと、新規企業が後で当該取引のプラットフォームに参画した場合、同定義付けが困難なケースも出てくる。

 取引先と自社の立場関係も影響する。取引先が強い立場の場合、取引先のデータ定義に従うことを余儀なくされるだろう。逆に自社が強い立場の場合、取引先に自社のデータ定義に従うような働きかけが必須となる。

 いずれの場合も、取引先と自社との間のデータ定義やビジネスプロセスに加え、製品・部品・企業コード番号等の標準化も不可欠になる。

 さらに、XMLを使ったシステム開発の経験やノウハウが不足していると、期待に反し開発コストが高くつくことさえある。

●業務革新、新サービスを加速

 これらの課題を乗り越え、XML導入を精力的に進めている企業が出てきていることに注目したい。ここでは3つの例を示す。

1.低コスト化の例として、顧客苦情情報の迅速な収集・伝達・ニーズ対応業務を可能にする社内ネットワークを、XMLベースで構築し、通常のシステム開発より、費用、期間を3分の1程度に抑えたもの。

2.柔軟かつ迅速に行われたシステム開発の例として、消費者からの各携帯端末機種、PC、電話等のさまざまな入出力手段に対応している株式オンライントレード・サービス実現にXMLを導入したもの。

3.コラボレーションの緊密化の例として、他社との共同設計業務で、技術担当者間のデータ共有化を図り、開発リードタイム短縮を目指している企業がある。これは、今までは送受信できなかった大容量のデータ交換がブロードバンドで可能になると見込み、他社に先駆けてXML導入を図っているものである。

 ブロードバンドの環境の下では、このようにXMLという便利なツールを使いこなすことにより、過去に実績のなかった業務革新や新サービスの実現可能性が高まったと言えよう。

 今後、XML導入を検討する各企業は、第一に導入目的を明確にした上で、対象業務を絞り込み、他企業との将来の業務連携に備えた標準化を織り込んだビジネスプロセスとデータ定義の再検討を実施する。そして、他社および自社他部門との合意のうえ導入計画を組み立て、試行錯誤も辞さずノウハウをじっくりと蓄積していくことが重要であろう。

【図表】 ブロードバンド時代ではXMLの果たす役割が増大


(出所)日本総合研究所 ネット事業戦略クラスター(現ICT経営戦略クラスター)

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