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インターネットデータセンター 最適ソリューションを代行

倉沢 鉄也

出典:日経産業新聞 2001年6月22日

●分散から統合、そして外部化

 ブロードバンド化が社会にもたらすものは何か。ひとことで言えば、情報の生産・加工・編集の場が、個々の端末からネットワーク上のサーバーに移行しやすくなる、ということである。

 これをビジネスインフラの面から言葉を置き換えると、各事業所や部署で個別に行っていた開発、製造、販売管理、経理、そして経営判断までもが一箇所で、ほぼ同時に、統合的に処理できる、ということになる。

 これまでは、企業の付加価値に関わるデータベースは自社のオフィスに置きたいと考えるのが、企業の当然の論理であった。しかしこれではデータサーバーを置くスペースの費用も含め、個々の企業の経費面の負担は重い。

 通信回線の高速化によって、あらゆる企業情報を自社のオフィスから遠く離れた「貸倉庫」でまとめて管理し、あたかも自分の事業所で扱うように保管・活用できる時代がやってきた。これなら大企業でなくとも効率的に情報システム投資が可能になる。

 この企業情報の「包括的貸倉庫」がデータセンターであり、これを社会インフラとして整備されることになるインターネットのブロードバンド回線を使って行うものが、インタネットデータセンター(iDC)である。

●経営効率化に大きな転換点

 データセンターという考え方は、1980年代に電話通信事業者が、当時まだ発展途上にあったインターネットサービスプロバイダー各社に、自らの交換機サーバーのビルからスペースとサーバー機材を貸し出す「ハウジング」からはじまった。

 近年、情報システム構築・管理技術の高度化にともなって、機材の貸し出しにとどまらず、基本ソフト(OS)や個別アプリケーションのリース、個々のデータのメンテナンス業務まで委託を受けてシステムベンダーが複数社の企業情報を統合的に管理する「アウトソーシング」がビジネスとして成立するに至った。

 高速インターネット回線が社会インフラ化すれば、これまでのような専用線整備のコストが個々の企業の負担とならない。情報システム投資に多くを割いてこなかった企業にとっても、アウトソーシングによるiDC導入がより現実可能性の高いものになる。

 iDC最大のメリットとは企業本社側で保有する端末での情報処理の負荷が軽減され、管理の手間とコストが省けるということである。これは経営の効率化のみならず、eコマース事業の立ち上げなども新規投資を抑えてスタートさせることを意味する。iDCの導入は、企業経営の大きな転換点である。

 この分野もやはり米国が先行している。iDCにおける米国資本大手が1999年に日本に現地法人を設立しており、日本でも大手システムベンダー、電気通信事業者、総合電機メーカーなど各社がそれぞれの強みを反映させながら、従前の数倍の床面積(数千~数万平方メートル)を持ったiDC事業強化に取り組みつつある。

●ニーズに合った構築が課題

 iDC普及に向けて、まだ課題は多く残されている。

 企業経営効率化と双へきのメリットといわれる「企業間情報交換のスムーズ化」が、正しいニーズかどうか精査していく必要がある。一般に情報財とは、生産が高コストで複製と流通が低コストという特徴を持つ。企業はノウハウの詰まった情報をそう簡単に交換したくないから、重要な情報ほど共通プロトコルでの情報にならなかった。それが一昔前のCALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)が普及しなかった最大の原因である。

 ブロードバンドでアウトソーシングの時代だからといって、企業情報を何もかもシステムに乗せる必要はない。いまこそ企業に流通する情報の質と特性、それがiDCに保管すべきものか、あるいは暗黙知として社員の脳の中に残すべきものか、を峻別する眼力が、経営者に問われることになる。

 また、iDCを提供する事業の収益性そのものも、先行する動きに学ぶ必要がある。米国のPSIネット社は光ファイバーなどデジタルインフラ整備の投資を先行させすぎ、2001年6月、破産を申請した。時代が早すぎたのではなく、ニーズを精査せずに供給過剰の設備を整えたゆえのことである。日本でのiDCの健全な成長のために、供給者は顧客企業のニーズを分析した上でのカスタマイズされたiDCを早い段階から導入していくべきである。

 加えて、データセンターという建物のセキュリティーも課題となる。地震や水害対策、また「東阪バックアップ体制」などに対する施設強化や保険のコストが、iDCの経営構造とくにユーザー企業の経費負担に見合うかが、これから検討される。

●先行するBtoCにヒント

 顧客基点で構築された情報システムは、すでに消費者向けeコマースにふんだんに見られる。まず書籍やパソコンなど扱いやすいパッケージ商品と顧客性向のデータベース化が進み、そのデータの大量化にあわせインフォミディアリー(情報仲介業)が生まれた。そして市民の情報生活は変わり、商品流通の構造が根本的に変わった。

 企業向けのiDC構築もまた同じである。多様な業種、業態を持つユーザー企業からのリクエストにあわせて最適ソリューションを代理で担う機能(エージェント機能)が研ぎ澄まされ、進化していくことになるだろう。

 ノーベル賞経済学者コース氏は「IT導入によって商品取引のコストが下がれば、調達は外部化していく」という「コースの定理」を唱えた。過去のITサービスのように、iDCもまた供給側企業の競争によって高品質と低価格が実現し、「IT革命第2幕」のための新しいビジネスインフラになっていくだろう。 
 
【図表】 IT革命以前からインターネット・データセンターに至る流れ 
 
(出所)日本総合研究所 ネット事業戦略クラスター(現ICT経営戦略クラスター)

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