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本命のFTTH、急伸するADSL、アクセス網の選択肢が一気に拡大
Part1:ブロードバンド社会を生み出す新たな政策記事見出し

新保 豊/宮脇 啓透

出典:日経コンピュータ 2001年10月15日号

 「ブロードバンド時代」を迎えて、これまで非常に高価だった高速のインターネット接続サービスの料金が一気に下がり、一般利用者でも気軽に使えるようになった。サービス・メニューも増え、アクセス網の選択肢は広がった。一般家庭の通信環境は劇的に変わりつつある。

 従来の家庭向けのインターネット環境は中途半端だった。にもかかわらず過剰な期待がかかり、結果としてネット・バブルをもたらしたとも言える。

 そんな中でブロードバンドの普及は、日本産業界だけでなく、世界中の国々の産業を活性化する起爆剤になると、筆者は考えている。なぜなら、ブロードバンドには、IT(情報技術)不況に影響されないだけの潜在的な力があるからだ。例えば、通信料金が定額となるブロードバンド環境では、利用者の行動パターンがナローバンド環境に比べて活発になる。この傾向が世界の産業に良い影響を与える。

 実際、検索大手の米エキサイトアットホームが2000年10月に発表した調査結果によると、ブロードバンド利用者は、インターネットにダイヤルアップ接続しているナローバンド利用者よりも、過去に訪問したWebサイトの数が平均で1.58倍多く、インターネットに接続している時間も1.55倍長いという。こうしたアクティブな行動パターンをとるために、ブロードバンド利用者は平均で毎月1.91倍も多くインターネット接続の出費もしている。

●高速接続サービスが花盛り

 一口にブロードバンドと言っても、その実体である高速なインターネット接続サービスは多種多様である【表1】。しかも、ブロードバンドのインフラには、高速接続サービスだけでなく、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)やデータセンターのような新たな基盤が含まれる【図1】。
 
 

【表1】 ブロードバンド向け接続サービスである
FTTH、ADSL、CATVインターネット、無線インターネットの比較  

 
 (注)ADSL:非対称加入者線、 FTTH:ファイバ・ツー・ザ・ホーム、 ONU:光ネットワーク装置 

 

【図1】 ブロードバンドを支えるインフラの体系 
  
(注)CDN:コンテンツ配信ネットワーク ISP:インターネット・サービス・プロバイダ 

 
 現在利用できるブロードバンド向けのインターネット接続サービスは大きく4つある。FTTH(ファイバ・ツー・ザ・ホーム)、ADSL(非対称デジタル加入者線)、CATVインターネット、無線インターネットである。これらのサービスの最大通信速度や月額料金の比較を【図2】、【図3】に示す。また参考まで、FTTH、ADSL、定額制ISDNのサービスを提供するNTT東西地域会社が、過去1~2年に実施した値下げの推移を【図4】に示す。 
 

【図2】 FTTH、ADSL、CATVインターネット、無線インターネットの最大通信速度の比較 


(注)ADSLは下り速度。参考までにISDNの通信速度も示した。 

 

【図3】 FTTH、ADSL、CATVインターネット、無線インターネットの月額料金の比較

 
(注)最低の料金から平均的な料金までの幅を記した(インターネット接続料金を含む)。 

 

【図4】 ブロードバンドサービス料金の推移

 

(注)  NTT東西地域通信会社が提供するFTTHサービス「Bフレッツ(10Mビット/秒)」、ADSLサービス「フレッツ・ADSL」、定額制ISDNサービス「フレッツ・ISDN」の料金値下がりの推移を示した。現在、BフレッツとフレッツADSLは約2倍の料金欠くさがあるが、フレッツ・ADSLとフレッツ・ISDNの料金格差は200円しかない。(フレッツ・ADSLとフレッツ・ISDNの料金は、ともに電話回線と共用する場合。 
 
 個々の接続サービスの詳細は後述するとして、ここではブロードバンドのインフラをめぐる最新動向を簡単に紹介する。

 まず、光ファイバを使った通信回線の超高速化の動きが、長距離の基幹網から中・短距離の地域網にまで広がってきている。家庭に光ファイバー・ケーブルを引き込むFTTHサービスも今年になって商用化された。通信速度は10M~100Mビット/秒と高速であり、月額料金は定額で6,000~1万6,000円となっている。
 FTTHがまだ緒についたばかりである一方で、最近になって普及が加速しているのはADSLだ。2001年6月にソフトバンク・グループが格安のADSLサービス「Yahoo! BB」を発表し、その衝撃は瞬く間に日本全国に広がった。その後2~3ヶ月で、各社のADSLサービス料金は数千円値下がりし、最大通信速度1.5M~8Mビット/秒で月額料金は2,300~4,000円までになった。いまや日本は、世界で最もADSLサービスが安い国の一つである。

 ADSLは既存の電話回線をそのまま利用できるので、手早く家庭に導入できるのが特徴だ。2001年6月末に予約受け付けを開始したYahoo! BBの場合、9月3日の本サービス開始時点で4万699人が利用を始めた。当初予定していた利用者数20万人は大きく下回ったものの、予約数は同じく9月初旬の時点で100万件を越えている。本申し込み数も49万件に達した。この数字は立派と言える。 
 
ブロードバンド社会を生み出す新たな政策が必要 
 
 ビジネスや産業の変革の鍵を握るブロードバンドの普及には、家庭へのアクセス網の整備だけでなく、新たな政策も欠かせない。

 民間の調査会社IDCジャパン(東京都港区)は、2001年のブロードバンドの国内利用数を260万人と推測している。このままでは政府が2000年末に発表した、「5年以内に4,000万世帯がブロードバンドを利用するようになる」(IT戦略会議の報告書)という見通しには到底届かない。ブロードバンドは一般家庭に直結して初めて大きな意味を持つため、いずれ家庭との接続部分で主役になる光ファイバ網の開放義務付けが大きなポイントになる。

●全国の光ファイバ網を開放せよ

 全国に11ある電力会社が保有する光ファイバの総延長距離は12万6,000kmに及ぶ。NTT東西地域会社が持つ約8万kmを大きく超える。これらの光ファイバ網が企業に貸し出されれば、通信ベンチャーやインターネット接続業者は回線を増強しやすくなるだろう。

 地域のインフラ整備には、従来とは異なった事業モデルも不可欠である。通信会社だけにブロードバンドの敷設を頼るのではなく、自治体などの公的機関も後押しすべきだ。

 スウェーデンには「Stokab」というブロードバンドの敷設公社がある。この公社の株式は、ストックホルム市と同郡が保有している。スウェーデンでは、同国最大手の通信会社テリアの地域網を借りていたのでは真の競争は生まれないという発想から、Stokabが設立された。複数の通信ベンチャーがブロードバンドを敷設するよりも、いっそのこと自治体がやってしまったほうが合理的と考えた。こうした事業モデルを日本でも検討してみる必要がある。

●未使用の無線周波数は返還

 日本政府は2001年9月、電力公社や鉄道会社などが保有する光ファイバ網の解放だけでなく、使用していない無線周波数の返還も求めていく方針を打ち出した。これは単に、第3世代や第4世代の携帯電話サービスでブロードバンド波の移動体通信を実現するためでけではない。希少な資源である周波数を、アクセス網の構築に生かしていこうというのがポイントだ。こうなれば、光ファイバのFTTHと、電波が補完し合って、アクセス系のボトルネックをいち早く解消できる。

 そのためには電波法の改正も必要になる。新規事業の資源の一つとなる電波のうち、例えば周波数資源が豊富な200MHzのUHF帯をオークション方式で100~200程度ばら売りすることを視野に入れるべきだ。ただし、欧州で第3世代携帯電話向けの周波数価格が高騰に、通信会社の経営に甚大な影響を与えたことを考慮して、ベンチャー企業も購入の機会に参加できる方策が必要だろう。

 ADSLの加入者数は急伸しているが、現時点でブロードバンド・サービスの最大勢力といえるのは、CATV(ケーブル・テレビ)を使ったCATVインターネットである。2001年6月末時点でのCATVインターネット利用者数は約97万人と、日本のブロードバンドをリードしている。通信速度は最大10Mビット/秒程度で、料金は月額5,000円前後が相場である。

 ただし、今後はCATVインターネットが苦戦を強いられる状況も考えられる。ADSLが急追しているだけでなく、放送業界は地上波の本格的なデジタル化の時代を迎えて、大規模な再編を余儀なくされるからだ。CATV運営会社は、今まで以上にインターネット戦略を明確にしていかなければならない。

 携帯電話やPHS、無線LANなどを利用する無線インターネットは、家庭や企業にケーブルを引き込まずにインターネット・アクセスを可能にする。通信速度は無線LANを使ったサービスの場合で1M~数Mビット/秒、月額料金は3,500~6,000円となっている。

 最近は、P‐MP(ポイント・ツー・マルチポイント)と呼ばれる技術によって、一つの無線基地局から多数のユーザーをLANのイメージで接続できるようになった。これにより、膨大な数の家庭を結ぶことが可能な加入者系の無線アクセス網を実現している。2.5kmの範囲で無線が届くので、ブロードバンド・インフラのアクセス網としては今後の注目株と言える。

●新しい基盤として定着するCDN

 ブロードバンドの普及とともに登場したCDNは、ストリーミング技術を使った大容量コンテンツの配信基盤である。インターネット上に分散配置したサーバーを使って、同一のコンテンツを高速にストリーミング配信する。一つのサーバーに利用者からのアクセスが集中するのを避け、負荷分散や可用性を向上する。

 CDNは、放送会社以外の企業が本格的に映像情報を配信したいときに威力を発揮する。すでに米国では、放送会社や通信会社とは一線を画す、新興のCDN事業者の勢いが増してきている。米アカマイ・テクノロジーズや米インクトゥミなどがその代表格だ。今後は日本でも、CDNは確実に定着していくと見られる。

 調査会社の米ニールセンネットレイティングスによれば、ストリーミング配信されるコンテンツを再生可能なソフトを使って映像や音楽などを楽しんでいる視聴者は、2000年11月時点で前年比65%増の3,470万人に上った。2001年も同じ伸びで推移すると、2001年末には6,000万人弱が利用することになる。つまり、米国のインターネット利用者の半分がストリーミング配信サービスを利用する計算になる。

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