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これが光ネットワーク時代を制するWDM(波長分割多重)技術だ
実は健闘している日本企業

出典:週刊エコノミスト 2000年10月24日号

 今後、あらゆるコンテンツが、電話網ではなく超広帯域光インターネット基幹網を行き来する。この基幹網整備は、21世紀の国家IT戦略に直結する。

 北米のインターネット人口は8,000万人を超え、ネット普及率では米国が3~4年ほど日本に先行。ネット上では様々な情報流通が繰り広げられている。このままでは米国にさらに水を空けられよう。現在の日米格差を技術面・戦略面で概観し、わが国が今後どう対処すべきかを考えたい。

 光インターネット基幹網の実現に有望な技術が、WDM(波長分割多重:Wavelength Division Multiplexing)だ。これは一本の光ファイバに波長の異なる複数の光信号を多重化し同時に伝送する方式で、伝送容量を飛躍的に高められる【下図】。

 現行のインターネット高速網は、複雑なルートをたどっている。ルーター(LAN同士を相互接続するための装置の一種)からの信号が、ATM装置、SONET機器と呼ばれるものによって光信号に変換されるなどし、さらにWDM機器で光多重化された後、複数のSONETを経由し、相手ルーターへと伝送される。この簡素化が一つのポイントとなる。

通信網をシンプルにして高速化、低コスト化に貢献

 今後、あらゆるコンテンツが、電話網ではなく超広帯域光インターネット基幹網を行き来する。この基幹網整備は、21世紀の国家IT戦略に直結する。

 長距離の高速基幹網には高密度WDMが、そして都市部の需要にはメトロWDMが開発されている【下図中央部分】。

 前者では毎秒40ギガビット(1ギガビット毎秒は1,024メガビット毎秒。1ギガビット毎秒ならDVDの2時間映像を1分程度でダウンロードできる)の伝送力を、部品等の高速化により同160ギガビットへと飛躍させる。

 後者は情報流通が狭い地域に集中する都市部向け。エンドユーザーと長距離通信網を結ぶメトロポリタン網のボトルネックを解決する。メトロWDMは将来、毎秒十ギガビット領域に達すると予想される。

 光信号は電子信号と異なり、簡単にスィッチングできないため、旧来の幹線網では、複雑な階層構造をもつATMやSONETを中心に光ファイバーを環状構造にして、相互接続点で結びつき、光信号の入出力機器と接続切替機器により信号の授受を行う。接続点増加にともない幹線網の容量は激増するため、環状構造では限界がある。そこに「IP over WDM方式」を導入すれば階層構造を簡素化し、高速化と低コスト化が図れる。

 また米シスコシステムズなどの大型ルーターでは、いまやSONETやATMを経由せず、WDM装置へ直結できる「IP over GLASS方式」を用いて、さらなる簡素化が可能となってきた。これは光交換機や光入出力機器の高性能化による。WDMに加えこれら技術がネット高速通信網の発展性を左右する。

 高密度WDM伝送では、ICや光部品技術等によりNTTは光多重化(19チャネル)技術を駆使し、1999年2月、実験レベルで最高記録の毎秒3テラビット(1テラは1,024ギガ)超高速伝送を成功させた。

 また、小池康博・慶応大教授ら開発の特殊プラスチック光ファイバーは、従来の石英グラスファイバが芯径10ミクロン程度に対し、同50ミクロンという大口径を実現し、ファイバー同士をつなげるため、大幅なコスト削減効果を生んでいる。また芯部分の中心屈折率を低めることで高速化とパルス波形(光ファイバーの中を伝わる波の基本形)の安定化を実現した。

 そのほか、日本板硝子の光通信用マイクロレンズ、住友電気工業の光通信機器部品などは米国よりも優位であろう。

 店頭企業では、シグマ光機の精密加工用自動調芯装置(光ファイバーの芯同士を精密に接続する装置)、駿河精機の光学実験用機器等が注目。部品・デバイス技術は日本のお家芸だ。

 わが国では幹線網の光化完了後も家庭向け光ファイバ網の整備に投資し、1999年度末全世帯の36%とほぼ直結、光ファイバ敷設率でも世界最先端にある。しかし、これは当面の需要に応える第一世代のものだ。

 では次世代(5年後)の超広帯域光インターネット基幹網構築には何が不可欠か。まずは現実の産業インフラとしての経済性。次にインフラとして通信需要をさらに刺激できるかだ。

 次世代基幹網の実現には、従来にはない設計思想が不可欠である。刻々と変わる通信需要に柔軟に即応し、かつネットの機能と構成をダイナミックに進化させる自律的な適応力である。 

●次世代光ネットに向け革新進む日本技術陣

 わが国ではNTTが「適応型ネットワーク」の検証実験を進めている。IPやATMなどの様々な伝送フォーマットを異なる伝送波長に割当てて伝送階層を簡素化することで、今後の通信需要に応じ基幹網の容量を柔軟に拡張できる。

 通信需要の喚起は、ラストワンマイル問題への解決と裏腹の関係にある。ユーザーの利便性を満たす様々なアクセス手段は、電力会社やベンチャー等の新興勢力の参入、CATV会社の大規模連携、低廉なDSL(高速銅線網)導入等で、一層の現実味を帯びてきた。

 あとは米国並みの安価な定額・使い放題の常時接続サービス(月20ドル程度)の登場を待つのみ。

 そして企業にとっての新たなビジネスインフラである、毎秒100メガビットクラスの光ファイバー利用が前提のデータセンターなどの普及だ。これらの早期実現により、わが国の通信需要は間違い無く飛躍する。

 前述の通り、WDMなど基幹網技術戦略としての個別技術等のどれをとっても、わが国は米国に見劣りするものはない。

 では通信分野等の企業の経営戦略はどうか。NTTグループ各社をはじめ多数の企業が海外展開を積極化しているものの、実際の相手国市場への参入度合いの点で米国勢には見劣りがする。

 海外からAT&Tのほか、汎用幹線網構築を得意とするMCIワールドコムやクウェストなどの新興キャリアーが、データセンター建設などのビジネスで機を逃さない構えだ。米国企業のビジネスの速度は凄まじい。昨年末のシスコによる伊ピレリの光通信部門買収で、WDM技術がシスコ製品群に加わった。

 日本企業を後押しするには、政府に基本IT戦略が必要だ。森喜朗首相が提唱する「日本新生プラン」では、産業新生会議を創設し新たな規制改革三カ年計画策定を行うようだ。しかし今ごろ計画策定では遅い。いまだに具体化案が見えないことと、その取組みスピードが遅いのが気がかりだ。

【図表】 WDMによる超広帯域光インターネット基幹網への拡がり
 

(出所)日本総合研究所 ネット事業戦略クラスター

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