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住み替え・移住促進によるコンパクトな福祉社会形成への挑戦

2015年10月26日 前田直之


 国土交通省の「国土のグランドデザイン2050」で示されている基本戦略の一つである「コンパクトな拠点とネットワークの構築」は、人口減少・超高齢化を迎え、成熟化したわが国において、中長期的に実現しなければならない都市構造の変革である。

 従来のわが国の都市計画は、「線引き」と呼ばれる「都市化を進めてもいいところ」と「都市化を抑制するところ」を分けることから始めるのが一般的であった。つまり、右肩上がりの拡大基調のなかで一部を抑制させながら計画を策定していた。
 一方で都市のコンパクトシティ化とは、上記と対照的に、機能の集約化や縮小を前提とした持続可能な都市構造への変革・誘導を行うものである。ここでは、①一定の都市密度を維持することによる地域経済の維持、②社会基盤等の維持管理・更新コストの合理化、③ユニバーサルサービスコストの合理化、といった効果の獲得が目的となる。

 国土交通省が中心となって進めるコンパクトシティ化の政策は、主に「公有地等を活用した都市機能の段階的集約化」と「公共交通によるネットワーク化の形成」である。しかしながら、「人が住む場所」については、居住誘導区域などの設定はできるが、居住の自由が憲法で定められている以上、効果は限定的である。結果的には交通インフラや公共施設などの都市機能の集約化によって誘導されることを待つほかない。

 一方、超高齢化社会を迎えるわが国では、肥大化する社会保障費を抑制していくことが国家財政を持続させる必要条件となっている。需要が増え続ける福祉サービスは、利用者と施設、利用者と介護事業者の物理的な距離の短縮により、生産性を向上させることが不可欠である。
 福祉分野で議論されている地域包括ケアやCCRC(Continuing Care Retirement Community=継続する介護サービスが付随した高齢者コミュニティ)などの一定の地域における介護・医療の複合的サービス提供の概念は、特に「高齢者の住む場所の集約化(コンパクト化)」と「サービスの複合化」を一体的に実現しようとする施策である。これらの取り組みは、超高齢化するわが国において必然的な社会要請に基づくものであり、将来の都市構造を考える上での前提といえる。

 精力的な事例として、財政破綻した北海道夕張市の取り組みが注目される。炭鉱単位で集落が形成されていた同市では、炭鉱閉山後の急激な人口減少によって、広大な市域の中に低密度の集落が点在する状態になってしまっており、それぞれの集落の生活環境の維持が困難な状況に陥っている。そこで、同市は北海道大学の瀬戸口教授らとともに、閉山後の炭鉱エリアに居住する高齢者等のニーズを綿密に聞き取り、生活の利便性や地域への愛着等を大事にしながら移住の合意形成を図る方法で、段階的に市の中心部へ「住む場所」の集約化を進めている。これは、財政規模の縮小に合わせて公共サービスを合理化させる一方、集住を進めることで市民が享受できる福祉、医療、交通等の生活支援サービスの質を維持・向上させることを目的とするものである。

 このような地道な取り組みは、多大な時間と労力を要するが、都市機能や住民の居住地を集約化することの必要性・合理性に基づき、住民の合意を得た上でソフトランディングする正攻法である。これは、その地域を持続させることをミッションとする自治体と、その地域を愛する住民、さらには客観的な必要性を裏付け、説明をする専門家が一体とならなければ実現し得ない。

 成熟社会では、都市の中で活動する市民生活やサービスのあり方(ソフト)をデザインすることで、都市構造の適正な規模・形態が規定されてくる。そこで描かれた将来像に向けて、段階的にインフラやハードを適正化していくことが、真に持続可能な都市を構築し、市民が生活し続けられる場にするために求められているのである。
以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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