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イノベーションと未来洞察

2015年10月15日 粟田恵吾


 イノベーションの必要性
 90年代以降「日本はイノベーションを興せなくなった」と言われ続けてきました。一方、2004年には米国産業界ではパルミサーノ・レポートが提示され、さらにヘンリー・チェスブロウによってオープンイノベーションが提唱されたことで、欧米企業・社会は一気にユーザードリブン・イノベーションに投資を始めました。残念ながらそれでもなお、技術革新や自前主義にこだわる日本企業の経営者はなかなかイノベーション経営へと舵を切れずにいたのではないでしょうか。
 しかし、そうした日本企業をイノベーション経営に開眼させるようなキーワードが昨今ビジネス誌でも賑わうようになりました。イノベーションファームと呼ばれる米国IDEO、イノベーション教育で有名なスタンフォード大学d.school、東京大学i.school、そして、イノベーションを加速させる方法論としてのデザイン思考や、イノベーション推進施策としてのコーポレートベンチャー、フューチャーセンター、リビングラボまで。その理解や取り組みにはまだまだ温度差はありますが、企業のみならず教育機関や自治体においても、その成長戦略を考える上では組織のリーダーこそがイノベーションを深く理解し実践していく必要性に迫られてきたと言えるでしょう。

イノベーションの源泉
 では、組織的にイノベーションに取り組む中で、そのリソースをどこに求めるべきでしょうか?「脱・現状発想で、もっと飛びのあるアイデアを!」と求められながらも、つい市場規模や実現コスト・速度で経営者を説得しようとするあまり、あるいは自社に強みのあるドメインやリソースで競争優位に立とうとするあまり、既視感のある陳腐なアイデアになっていないでしょうか。それとも、特殊なイノベーターにしかイノベーティブなアイデアは出せない、と全てアウトソースに依存するのでしょうか。
 イノベーションのアイデアが人の頭の中からしか生まれないならば、イノベーションに取り組む人や組織の中で無意識に形成されてしまっている固定観念(バイアス)に自ら気付き、意識的に壊すというプロトコルの中にこそイノベーションの源泉があると考えられないでしょうか。そして、このバイアスを壊す思考こそが「洞察/気付き」といわれるものであり、それをもっとも強力に促すのが「未来」だと考えています。なぜならば、10年以上先の未来は現在の延長線上にはないことが多く、強制的に未来の課題発見が求められるからです。これまで自社にとっては関係ないと見過ごしていた、あるいは未だ顕在化していない問題やニーズ(外部性)を先取りし、積極的にビジネスチャンスに置き換えていく活動です。

未来洞察の有効性
 Chance favors the prepared mind.
 これはパスツールの言葉です。「未来はいま自分が考えている未来とは違うかもしれない」というwhat ifの心構えを組織的につくることが、その組織ならではの独創的な未来観(パースペクティブ)を創出しイノベーティブなアイデアを生み出すことにつながることが示唆されているのではないでしょうか。
 現時点では起こるかどうか分からない未来(不確実な未来)は、短期の経営・事業にとってはノイズでしかないでしょう。しかしながら、仮に中期計画であっても短期のオペレーション遂行にフォーカスしてしまいがちだからこそ、その先の10~20年後の不確実な環境変化へ向けた構えを経営戦略オプションとして複数持つことがその企業の成長基盤になると考えられます。
 このように不確実性や不連続性に着目して未来を捉えることを未来洞察と呼んでいます。「未来洞察」という言葉は「未来予測」に比べてなじみがないかもしれませんが、欧米では90年代から注目され、企業のみならず政府・自治体などでも普通に取り扱われている概念です。旧来の未来予測はforecastと呼ばれ、現状からの積み上げによる量的予測に偏りがちでした。しかしながら、不確実性が高まった90年代以降においては現在の延長線上で予測してもあまり意味を成さなくなったため、未来洞察(foresight/backcast)として質的な未来のあり様をシナリオ(機会領域)として複数描くことの重要性が高まっていると言えます。近年ではフューチャーセンターという北欧発祥の取り組みも各所で見られるようになりましたが、異業種交流の域を出ないものもあるようです。未来洞察を積極的に自社にとっての未来課題の発見やイノベーション・コンセプトの立案に活用していくことが必要であると考えています。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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