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高齢者の「自分らしい暮らし」を応援する商品・サービスを提供しよう②
満足や楽しさにつながる商品・サービスの拡充を

2015年09月07日 齊木乃里子


それぞれの「自分らしい暮らし」を見つめて
 前稿①において、自らの暮らしに合わせて「消費を楽しむ」シニアの存在について言及した。これからのシニアビジネスの展開においては、「シニア自身が“自分らしい暮らしを続ける“ニーズを積極的に表現する”という目線」が欠かせない。このことは、高齢者特有の「お困りごと」にのみ着目するのではなく、むしろ、「自分らしさ」「積極性」の支援といった点を盛り込むことで、より良い社会形成につなげることを目指している。しかし、「言うは易し、行うは難し」である。本稿では、その手がかりについて考えてみたい。
 すでに見たように、1カ月当たりの消費支出は、50代をピークに年齢につれて小さくなることが分かる(前稿①参照)。この理由について、シニアビジネスに詳しい村田裕之氏(東北大学特任教授・エイジング社会研究センター代表理事)は、シニアが一般的に、保有資産ではなく、フロー(毎月の収入)の中で日々の生活費をまかなっているからだと指摘している(『成功するシニアビジネスの教科書』日本経済新聞出版社、2014年)。シニア世帯では、自分たちの収入に見合った消費を、楽しみながら工夫しながら行っているのである。
 それでは、シニア層が他の年代と比較して、楽しんでいるものとは何であろうか。理美容サービスが高い(前稿①参照)のに加え、国内パック旅行では、60代で年間41,416円、70歳以上で40,304円となっており、40代24,685円、50代26,923円を大きく引き離している。同様に、交際費は年齢が上がるごとに大きくなる傾向が見られ、40代11万1,735円、50代15万6,495円と比較し、60代18万1,617円、70代18万9,418円である(総務省統計局『2014年版家計調査』品目分類第3表「一世帯当たり年間の品目別支出金額、購入数量および平均価格(二人以上の世帯)」)。
 さて、重要なのはここからである。なぜシニアが旅行や食事、衣服、理美容などにお金を使っているのか、どういったシーンで誰と過ごしているのか、ということに思いをはせて商品・サービスを検討・企画しなければ、厳しい選択眼を持つ(今後もっと厳しくなるであろう)シニアの支持を得ることはできない。
 前述したように、シニアは、人生経験・消費経験が豊富な分、年下の世代よりも暮らしが多様化している。したがって、上記のようなカテゴリーでお金を使っているということが総体として分かってはいても、その背景となる理由や、使い方・中身は大きく異なっている。しかしその実態は他の年代と比較して、よく知られていない。各種調査をしても、なかなかこの世代の本音は出てこない(気を回して、調査実施側が喜ぶような回答をする傾向がある)。身近でじっくりニーズを確認できる相手として「自分の親や親戚はどうだ」というと、それも面はゆく、また客観視できないのが実際のところである。
 だからこそ、シニアビジネスに取り組むならば、まずその多様性を、事実として知るということが必要である。それには、観察と洞察力を磨くことが欠かせない。観察により、できるだけさまざまなエピソードを集めると共に、「なぜそういう行動をとるのか」に関して、1つ2つの想定解で臨まない姿勢(むしろ、自分たちには考えが及ばないのかもしれないという前提に立つ姿勢)が重要である。顧客接点を持っている企業であれば、その“場”に入り込んでいく。
 高齢者や共働き世帯向けに宅配事業や通販事業が大きく伸びているが、それを手がけている企業の多くは、配送を外注している。しかし、セブン・イレブンは、各店舗の従業員が配送を行うことで好調に推移している。配送自体が、顧客とじかに接する重要な機会であることを認識し、次の展開に生かそうとしている点で、非常に注目すべきである。顧客接点において、すべての事実を受け止め、受け入れる。すべてはそこから始まるといっても過言ではない。
 
重要なのは、シニアにとっての3つのリアリティ
 その上で、自分たちの商品やサービスを購入・利用してくれる人を具体的に想定できるまでブレイクダウンすることが必要である。リアリティのない商品・サービスに顧客がつかないのは、シニアビジネスに限ったことではない。ただし、シニアにおけるリアリティは次の3点が非常に重要である。
①確かに「自分ごと」として考えられること
②誰かとつながっている感じがすること
③大前提として「分かりやすい」こと
 リアリティという点では、①は非常に重要である。シニアにとって、「ご近所さんや知り合いでこんなことがあった」「最近こういうことをよく耳にする」「それだったら自分でもできるかもしれない」といった感触・感覚が持てないものは手を出しにくい。次に②であるが、理美容、旅行、交際費、食といったキーワードに共通するのが、「誰かと一緒に楽しむ」という点である。コミュニケーションが伴う、参加できる、役立っている感じがするといったコンセプトを盛り込むことで、シニアの暮らしぶりに寄り添うことが求められる。③については、いうまでもないことだが、①②がシニアの(中でも、自分たちが顧客になってもらいたいと思っている人たちの)“言語”で表現されており、かつ押し付けではない、シニアの立場にたったベネフィット(商品・サービスが実現する良い状態)が、分かりやすく提示・提供されることである。いくら良い機能を持った商品・サービスであっても、ことさら説明が必要なものであれば、そもそもリーチがかなわないということである。「大人向け」と称して、過度に高級すぎてめったに利用できない商品・サービス、逆に大々的に「シニア向け」を訴求しすぎて、「私たちはまだそんなものにお世話になる必要はない」と敬遠されるケースは、これらの3点を見つめなおしてみると良い。
 その点で、シダックスがカラオケ店で提供している「雅御膳」は、上記の3点を満たした好事例といえる。メニューとしては少し高いが、ことさら「食べやすさ」や「栄養価」をうたったもの(=押し付け)ではなく、著名な料理人監修(=分かりやすさ)のメニューであり、時間制なども分かりやすく、「よく知っていて、敷居が高すぎない店で、おいしいものを食べながら、友達と(=人とのつながり)個室でゆったり楽しく過ごしたい」というニーズをうまく捉えている。実際、2008年には8.8%であった60歳以上の割合が2013年には15.9%に伸び、今後もシニアへのサービス提供を強化していくという(「「ゆっくり集まれる場所が欲しい!」に応えるシダックスのランチサービスとは!?」『販促会議』2014年7月)。

必要なのは「お困りごとの解消」だけではない
 これまで述べてきたことは、旅、理美容、衣服、食といった、いわゆる「現時点でシニアがお金をかけている」業種に限ったことではない。消費経験が豊富であるからこそ、自分が気に入った商品・サービスに対しては、喜んで対価を払ってくれるはずである。ただ、現時点でのさまざまなシニアビジネスの展開を見ていると、決まったように「お困りごとの解消」という言葉が出てくる。それを否定するわけではないが、そのキーワードを用いることで、何かしら「型にはまった」シニア像を想定しているように思えてならない。
 不満を解消することは、重要ではあるが、実は満足につながらない。レストランの例を思い浮かべると分かりやすいが、汚かったトイレがきれいになった(不満の解消)ところで、自分の好きなメニューがなければ、満足しないため利用しなくなる。しかし、自分が好きで定期的に食べたくなるメニューが提供されている店は、多少トイレが汚かろうが通ってしまうものである。いいたいのは、今の生活をプラスに持っていくような、つまり、より満足したり、新しい発見・体験があったり、自分が誰かとつながっている、誰かの役に立っていると感じられるような要因を提供するという視点が重要である。すでに、要支援・要介護状態になっても、ヘアメイクやネイルアートが楽しめる訪問美容サービスや、地域でさまざまな世代が交流するカフェなど、生活に潤いをもたらすニーズに対した動きは出てきている。

図 満足要因と不満要因に対応する商品・サービス

 
出所:日本総研作成


 シニアは、今も、そしてこれからもっと、「自分らしい」ライフスタイルを創造していく。不満や困りごとを解消する商品・サービスも、プラスの要因を提供する商品・サービスも、ともにシニアのライフスタイルを応援するものであってほしい。そのような商品・サービスが多くの企業から提供されることによって、シニアも利用する顧客として、マーケットで大きな役割を果たす機会が与えられるのである。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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