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高齢者の「自分らしい暮らし」を応援する商品・サービスを提供しよう①
いくつになっても「女子会」!消費を楽しむ女性たち

2015年08月31日 齊木乃里子


「シニアマーケット」というマーケットは存在しない
 いわゆる「シニア」マーケットが今後のビジネスにおける大きなビジネスチャンスであるといわれるようになって久しい。日本の人口構造上、今後増加するのは高齢者層であるからだが、だからといって、あたかも「良質で巨大なマーケットが、見渡す限り広がっている」ように見てよいかは、はなはだ疑問である。
 ビジネスで最も重要なことは「自分たちの顧客は誰か」を明確にすることである。1つの商品・サービスですべての人のニーズを充足することなど、ほとんど出来はしない。誰もがターゲットである商品は、往々にして「誰のための商品」なのか分からず、「私のための商品」になり切れないまま素通りされることになる。まして、「シニア」と呼ばれる人たちは人生経験が豊富な分、ニーズがバラエティに富んでいる。若くして大病にかかったことのある人と、定年までまったく医者いらずだった人とでは今後の健康に対する不安や備えは大きく違うだろうし、子供や孫がいるかいないかで生活の中身は随分と異なる。また、「60代(論者により50代も含む)になればシニア」というが、戦前・戦中生まれの人と、戦後生まれ、さらには団塊世代では、生活や価値観を形成した要因がそれぞれ大きく違う。このような人たちに対し、「自分たちのお客様はどういった人なのか」「自分たちがお客様に提供するベネフィット(=良い状態)は何か」がクリアかつ分かりやすくなっていない商品やサービスが、今後の成長市場とはいえ、顧客に支持されるはずがない。

「消費を楽しむ」シニア
 これまで、シニア世代、とりわけ60代以上は、勤労所得がなくなるため、消費自体が縮小するとの見方が多かった。実際、1カ月当たりの消費支出で見ると、40代322,987円、50代346,211円、60代295,955円、70代241,266円となっており(総務省統計局『2014年家計調査』用途分類第3-2表「世帯主の年齢階級別1世帯当たり1カ月間の収入と支出」)、50代をピークとし、年齢が高くなるにつれて小さくなることが分かる。こういった消費額の減少に加え、将来への不安の高まり(入院や介護など)から「家族や若い世代の世話になるのは忍びない」「我慢すれば何とかなる」といったシニアの発言が報道されることと相まって、高齢者が「欲望を抑え込み」、やりたいこと、欲しいものを我慢しているというイメージにつながっている。しかし一方で、このようなイメージとはうってかわった事象が芽生え始めていることに注目したい。2013年に『Advanced Style -ニューヨークで見つけた上級者のおしゃれスナップ』(アリ・セス・コーエン、大和書房)という本が発売され、大反響を呼んだ。続いて翌2014年には『OVER60 Street Snap』(MASA&MARI、主婦の友社)が出版され、さまざまなメディアに取り上げられた。両方とも、端的にいえば、おしゃれを楽しむ高齢者女性の姿がたくさん収められた写真集である(後者は被写体が日本人)。そこに写る女性たちは、他人からの評価を気にせず、自らの外見へ徹底したこだわりを持っており、その存在感に見ている側が圧倒されるほどである。
 こうした女性たちはそれほど特別な存在ではない。家計調査で品目別の平均購入価格(総務省統計局『2014年版家計調査』 品目分類第3表「一世帯当たり年間の品目別支出金額、購入数量および平均価格(二人以上の世帯)」、以下、「家計調査第3表」と表記する)を見ると、いくつかのカテゴリーにおいて、年齢が高くなるにつれて支出が大きくなるものが確認できる。例えば、スカート一枚当たりの価格は、70歳以上で6,749円と全世代平均4,347円を大きく上回る。身だしなみの観点でいえば、理美容サービスの利用価格は、年代が上がるにつれて増加(30代28,343円、50代38,259円、60代39,120円、70歳以上39,299円)する。
 食生活においても、生鮮肉100g当たりの価格が全世代平均150円に対し、70歳以上は176.9円と高くなっており、質の高いものを選んでいると見ることができる。家計調査ではあくまで全体のトレンドを確認できるにすぎないが、年齢が上がり、全体の消費が小さくなる中で、自らのこだわりに従って消費を楽しむシニアの存在が推察できる。博報堂の「新しい大人文化研究所」による『新大人研レポートⅨ 従来の“粗食高齢者”から“肉好きエルダー”へ』(2013年9月)においては、高齢になるほど食事の品数が増えることを指摘している(夕食の品数4-5品と答えた回答者が、40代28%、50代37%、60代46%)。これらから、多くの品数がテーブルに並び、好きなものを少しずつ楽しみながら食べるシニアの姿が想像できるのではないだろうか。
 これらのデータは、ニーズを口にせず消費を抑制するシニアとは違ったイメージの、「消費を楽しむ」シニアの存在を想像させる。そして、その中心となるのは、男性ではなく、女性である。「家計調査第3表」によれば、洋服にかける費用は、70歳以上において、男性9,746円に対し、女性は22,137円となっており、同じ品目としてセーターを取ってみても1着当たり平均が男性2,069円、女性は6,950円と3倍以上の開きがある。ここ最近のシニア消費について述べた記事などでは、こうした女性たちが今後の商品トレンドの中心になるとする見方が多い(『加齢?いいえ、華麗です 70代以上女子 キラキラ消費』日経MJ2015年7月12日、吉本佳生『L70を狙え!70歳以上の女性が消費の主役になる』日本経済新聞出版社、2014年など)。日経MJでは、70代の女性グループがホテルのフレンチレストランでまさに「女子会」を楽しむ様子が写真入りで報じられた(同上)。
 したがって、これからのシニアビジネス展開に際しては、とりわけ女性が、「自分らしく」「楽しむ」ことを応援するという視点が欠かせない。まして、今後、多様な文化や流行の中で生きてきた世代がシニアの仲間入りをするため、今後さらに加速すると見られる。戦前・戦中に育った世代と違い、自らのニーズにあった商品・サービスかどうか、を鋭く目利きしながら、選択・消費していくと考えられるからである。今後は、73歳や85歳といった“絶対値”としての年齢だけでは、商品・サービスを考える上で役に立たない。むしろ、何年生まれで、どういった流行や文化の土壌で思春期、青年期、中高年期を歩み、どんなライフスタイルを形成してきたのかという「世代」や「暮らしぶり」への注目が求められるであろう。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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