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【「CSV」で企業を視る】(20)多様な働き方支援と共有価値創造

2014年06月01日 ESGリサーチセンター、小崎亜依子


 本シリーズ20回目となる今回は、組織内の情報共有のためのシステムソフトウェア(グループウェア)開発会社であるサイボウズ社を取り上げる。同社は、現在国内グループウェア市場において3割強を占める。サイボウズ社は1997年に創業、2000年に東証マザーズ上場、2002年に東証二部、2006年に東証一部に上場し、急成長を遂げている企業である。

(1)多様な働き方を支援することで、大幅な離職率低下・評判向上を実現
 同社は、「より多くの人が より成長し より長く働く環境を提供する」という人事方針の下で、多様な働き方を支援するためのユニークな人事制度を導入している。特徴的なのは、「時間と場所が自由に選択できる選択的人事制度」「副業容認」「育自分休暇」の3つの制度である。
選択的人事制度においては、1時間に関係なく働くワーク重視型・2残業はしないライフ重視型・3その中間の少し残業して働く型の時間に関する3つの選択肢、.1オフィスで働く型・2自由に働く型・3その中間と働く場所に関する3つの選択肢のそれぞれ掛け算で合計9つの選択肢を提供している。柔軟な勤務制度は育児・介護事由という企業が多い中で、特に理由を限定しないという点で、国内企業では先進的な取り組みであるといえよう。
 また、一定の禁止事項は設けた上で、副業を容認している。同社は人事方針の中でうたっているように、より多くの人が成長することを支援しており、副業は個人の成長につながると考えている。実際、月曜日は他社、火曜日から金曜日はサイボウズに勤務するなど、2つの企業の社員を兼任している従業員もいるという。育自分休暇とは、退職しても6年以内なら無条件で復職できる制度である。1年半前にこの制度を導入したが、現在3人が利用中である。うち1人は、青年海外協力隊員としてボツワナに行っているという。
 同社が多様な働き方の支援を整備したのは、2005年に28%にまで上昇してしまった高い離職率がきっかけとなっている。離職率を低下させるため、選択的人事制度を導入。現在では、離職率は4%にまで低下し、採用にかかるコストも低減したという。コスト低減だけでなく、多様な働き方についての積極的な取り組みは、同社の評判にも好影響を与えている。2014年には、経済産業省主催「ダイバーシティ経営企業100選」に選出、さらにGreat Place to Work Institute Japanによる「2014年版日本における働きがいのある会社ランキング(従業員100~999名部門)」において12位に選出された。

(2)自らがユーザーとなることで、顧客ニーズを的確に把握
 同社は自社製品のクラウドのグループウェアでどこからでも仕事ができる環境を整え、多様な働き方の支援を行っている。そのため、自社で多様な働き方を支援することが、そのまま顧客ニーズの把握にもつながる。実際、短時間勤務者の声を生かした商品開発も行っている。
イノベーション研究で有名なハーバード大学のクリステンセン教授は、イノベーション創出への足がかりは、ターゲットとする顧客の「片付けるべき用事」を把握することだとする。顧客の生活には様々な「用事」がしょっちゅう発生し、それを片付ける必要がある。そして、その用事を片付ける製品やサービスが選択されるためである、としている[1]。
 同社は、自社の社員が顧客として自社製品を利用することで、顧客の「片付けるべき用事」をコストかけることなく把握している。多様な働き方を支援する人事制度の導入は、顧客企業の様々なニーズを把握することにもつながっているのだ。

 このように、サイボウズ社の多様な働き方の支援は、採用にかかるコスト低減や評判の向上に加えて、顧客ニーズの把握をも可能にし、同社の競争力向上に多分に貢献しているだろうことが想像される。まさに共有価値創造の事例といえる だろう。

参考情報
[1]クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」Harvard business school press, 2003

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