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【社会的課題の解決に向けたPFSの活用】
第1回 PFSの基礎知識・活用のメリット

2022年03月31日 高橋光進大内亘


1.成果連動型民間委託契約方式(PFS)とは
 高齢化の進行に伴い、高齢者のフレイル、介護の重度化、在宅医療へのニーズの高まり、深刻化する社会的な孤立・孤独、認知症のある高齢者の増加、8050問題 など社会課題は多様化、複雑化している。これらの課題に対して、行政主導の従来型の仕様書に基づく業務委託事業(以下、「従来型事業」という。)は限界を迎えている。そのような中、新しい官民連携のあり方として、成果連動型民間委託契約方式(Pay For Success以下、「PFS」という。)を採用した取り組みが注目されている。
 PFSを端的にいうと、自治体等が民間事業者に事業委託する際に、サービスの成果(アウトカム、アウトプット)に基づいて、報酬額を変動させる仕組みである。従来型事業は、事業において実施したイベントへの市民や企業の参加数など、事業活動により産出される「アウトプット」に基づき事業を評価するものが多い。一方、PFSでは、その活動が最終的にどのような効果・変化をもたらしたかという観点で、主に「最終アウトカム(インパクト)」の創出・最大化を図り、それに対しての評価を行うことが特徴である。



2.PFSを活用するメリット
 民間事業者がPFSを活用する主なメリットは次の3点である。



①実験的、試行的な事業やアイデアの行政への提案が可能
 新規性の高い事業の立ち上げ等に際して、実験的、試行的な取り組みを自治体と連携して実施し、実績やノウハウの蓄積を行いたいと考えている企業は多いが、従来型事業では確実な成果創出や他自治体での成功事例を提案時に行政から求められることが多い。しかし、PFSを活用する場合、成果を創出した場合にのみ対価が支払われるため、行政側のリスクを最小限にすることが可能になる。一定のリスクを民間事業者側が負うことにより、従来型事業では行政からの委託を受けて実施することが困難であった実験的、試行的な事業やアイデアの行政への提案が可能になる。

②民間事業者の事業推進における裁量が大きい
 PFSにおいては、行政は創出・最大化したい「成果」を発注することになる。これにより、民間事業者は、成果を創出・最大化する手法(=仕様)を自ら決めて実行することになるため、成果創出の責任を負うのは民間事業者となる。つまり、PFSでは、民間事業者が「成果の上がる公共サービス」を自らの資金とノウハウによって提供し、そのサービスを行政が購入するイメージといえる。
 そのため、原則として、PFSでは成果指標のみが示され、達成に向けた手法は民間事業者の裁量に任せられる。そのため、従来型の事業よりも民間事業者が自由に創意工夫をして事業を推進することが可能になる。

③PFSを導入するための自治体向けの各種支援制度の活用が可能
 PFSの導入を内閣府が中心となり推進しており、事業費に活用できる補助・助成、事業実施の財政的インセンティブになる制度が充実している。このような助成等を踏まえた提案をすることで行政側にメリットをより一層感じてもらうことが可能になる。

また、行政がPFSを活用する主なメリットは次の4点である。



①事業の費用対効果の向上
 成果を創出した場合にのみ対価が支払われ、また、成果が創出されるほど対価が大きくなることから、民間事業者側に成果創出のインセンティブが働き、事業の費用対効果が向上する。

②新しい行政サービス(新規事業)の試験的導入
 民間事業者や資金提供者にリスクを移転することができる仕組みとして PFSを活用することにより、行政側は最小限のリスクで新規事業の試験的導入を行うことができる。

③既存事業の効果検証
 従来の委託事業では事業効果を確かめる方法がなかったが、成果指標の設定・評価の実施というプロセスを経ることにより、事業の効果を明確に測定できるようになる。

④内容のマンネリ化の改善
 PFSでは事業内容を民間事業者に任せることになるため、従来の委託事業と比較して、民間事業者ならではの多様なアイデア、ノウハウ、コンテンツの新規性をより活用することができる。

3.介護・健康増進分野におけるPFSの事業テーマ例
 PFSについては、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(2019年6月21日閣議決定)や「成長戦略実行計画」(2019年6月21日閣議決定)等において、政府としてその普及促進に取り組む方針が打ち出されている。さらに、「成長戦略実行計画」に基づき、先進的に取り組んでいる地方公共団体、民間事業者、評価専門家等の幅広い意見を踏まえ、医療・健康、介護および再犯防止の3分野を重点分野として、2022年度までの関係府省庁の取り組み事項等を取りまとめた「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」が2020年3月27日付けで策定された。2020年度以降は、このアクションプランに沿って、関係府省庁が連携し、成果連動型民間委託契約方式の普及促進を強力に推し進めていくこととなっている。
 このようにPFSを活用した取り組みを政府が積極的に推進しており、介護・健康増進分野において既に以下のようなテーマでPFSを活用した取り組みが進んでいる。



4.事業事例紹介:介護予防「あ・し・た」プロジェクト(大阪府堺市)
 ここでは健康づくり・介護予防分野におけるPFSを活用した事業事例として、大阪府堺市の『介護予防「あ・し・た」プロジェクト』を紹介する。

■介護予防「あ・し・た」プロジェクトの概要
 本事業は、介護給付費の適正化を目指し、「あるく」、「しゃべる」、「たべる」というフレイル予防に有効な要素を取り入れた介護予防プログラムを実施する事業であり、対象者は、市内在住のおおむね65歳以上の高齢者のうち、主に要介護認定を受けていない人となっている。堺市の場合には無関心層の取り込みという点が前提の課題認識としてあったため、特に、普段介護予防の取り組みを行っていない、または介護予防の取り組みに無関心な人をターゲットとして想定している。
 サービス提供者は参加者を拡大するための「気づきの場プログラム」、多様な興味関心に対応し、地域課題も踏まえた本格的な「学びの場プログラム」、活動を披露する機会となる「活躍の場プログラム」を組み合わせ、日常生活の中で継続して介護予防につながる行動を促すプログラムを提供する。
 本事業の成果指標は、事業参加者総数、継続参加人数、要介護状態進行遅延人数となっている。事業期間は2020年11月から2022年3月までの3年間であり、契約金額は3年間総額で最大4,430万円となっている。このうち全事業費の40%を最低保証額とし、残りの60%である2,658万円は成果に連動して支払われる。

■PFSを活用した効果
 民間事業者ならではの多様なアイデア、ノウハウ、コンテンツの新規性を活用することにより、従来の介護予防事業で顕在化していた社会資源不足、マンネリ化、参加者の偏り等の課題を解決し、住民に対して多様かつ魅力的な介護予防メニューの提示が可能となっている。市では、これまで無関心層の介護予防事業への取り込みが特に課題となっていたが、従来の行政主体の介護予防事業とは異なった魅力的な取り組みを用意することにより、無関心層にもアプローチができている。
 実際に教室の参加者を見ると、6~8割がこれまで介護予防事業に参加していなかった方であり、参加者層がこれまでの事業と大きく異なっている。例えば、周知用のパンフレットやチラシについても民間事業者の集客ノウハウを活用してもらうことで、非常に魅力的なものになっている。
 成果連動型の仕組みを導入することにより、事業者が達成すべき成果が明確になり、事業者の本気度も高まり、事業の成果自体が向上している。また、事業者が事業終了後に商業ベースでメニュー展開を行うことで、民間主導の通いの場が整備されることも期待されている。

5.おわりに
 PFSの導入について、新しい官民連携のあり方として注目をしつつも、「なんとなく難しそう」、「よくわからない」と諦めている民間事業者や自治体職員も少なくないと考えられる。今回整理したように、PFSは民間事業者、自治体の双方にメリットがある仕組みであり、多様化、複雑化する社会課題の解決に貢献し得るものである。一見すると複雑な印象を抱くかもしれないが、基本的なプロセス・フローや先進事例の整備が進んでおり、既存事例を参考にすることで、導入のハードルは非常に低くなると考えられる。
 また、PFSについては、「経済財政運営と改革の基本方針2019」や「成長戦略実行計画」等において、政府としてその普及促進に取り組む方針が打ち出されており、PFSに取り組む自治体に対する内閣府をはじめとした関係省庁からの支援も充実しつつある。
 このように、PFSの導入のための環境整備は急速に進んでおり、多くの民間事業者や自治体にとって、PFSの導入は新しい官民連携のあり方の選択肢の一つとして考えることができるだろう。民間事業者や自治体が積極的にPFSを活用し、実験的、試行的な事業やアイデアの実践を通じて、超高齢社会に関連する課題解決に向けた取り組みを推進することが期待される。
 本稿以降、引き続き「社会的課題の解決に向けたPFSの活用」と題し、自治体や民間事業者等でのPFSの実践に向けた情報を連続で発信していく。
以上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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