コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

ソフトウェア型思考回路の若者と一緒に未来を見に行こう

2017年12月15日 小林幹基


多様性を重要視する未来洞察ワークショップ
 通常、未来デザイン・ラボが提供している「未来洞察ワークショップ」(*1)は「4~6人/1チーム×3~5チーム」で実施する。そこに、ファシリテーターとして未来デザイン・ラボのメンバーが入り込む。
 チーム構成として、多様性を重要視している。基本的には年齢・性別・国籍・所属・役職などが異なるメンバーでチームを構成する。また、プロジェクトによっては、事前のテストで参加者の内的動機(無意識の行動の源泉)を測り、内的動機の差異を考慮してチームを編成することもある。
 多様性を重要視する理由は、「アイデアは『情報A+解釈』×『情報B+解釈』から生まれるとの認識がベースとなっており、“異なる” 『情報+解釈』を保有しているメンバー(=多様性を確保したメンバー)が議論することで良質なアウトプットにつながる」と考えているからである。
 しかし時として、多様性を考慮してチームを構成しても、その効果が発揮されないことがある。顕著な例が、年齢(≒役職)による力関係が強力に作用した場合である。年配者が絶対であり、若手は意見すら言えない会社も未だにちらほら存在する。これでは、未来洞察ワークショップの期待効果をスタート段階で下げてしまっているに等しい。そうではなく、「年齢」による多様性の効果を理解した上で、未来洞察ワークショップに挑んでもらいたいと思う次第である。そこで、本コラムでは、特にシニア・ミドルに向けて、「年齢」による多様性の効果について記載したい。

ソフトウェア型思考回路のデジタルネイティブ
 「デジタルネイティブ」という言葉が流行って久しい。インターネットの商用利用が始まった1990年代前半に生まれたデジタルネイティブ世代(*2)も、すでに20歳代半ばに差し掛かっている。つまり、企業にはすでに多くのデジタルネイティブ世代が存在していることになる。
 筆者は過去のワークショップを通じて、デジタルネイティブ世代とそれ以前の世代(以降は、「シニア・ミドル」と記す)では、物事、特に、情報に対する捉え方・考え方が大きく異なっていることを実感している。当然といえばそれまでだが、この事実を受け入れられないシニア・ミドルも多い。卑近な例でいうと、一昔前の出会い系サイトといえば悪いイメージが先行しており敬遠されがちであった。しかし、デジタルネイティブ世代にとっては、出会い系サイトで彼氏・彼女を見つけることは珍しいことではない(*3)。つまり、あらゆる情報に対して恐怖心を抱くことなく受け入れることができるのである。
 これは、思考における情報処理のプロセスが変わってきていることを意味しているのではないだろうか。一般に、シニア・ミドルは、ゼロの状態から必要な情報を駆けずり回って集め、そこから時間をかけて慎重に解釈した上で、最終的なアウトプットにつなげるという情報処理のプロセスをたどる。一方で、デジタルネイティブ世代は大量の情報ありきで、そこから必要な情報をピックアップし、時間をかけて解釈することなく、まずはアウトプットを出してみる。アウトプットが良くないと判断すれば、また別の情報をピックアップするといった感じで、次のサイクルに移行する。「インプット⇒スループット⇒アウトプット」のサイクルが、シニア・ミドルと比べて極端に早いのだ。
 先の出会い系サイトの例で言うと、大量の登録者の中から気に入った相手をピックアップし、実際に会ってみて、良ければ付き合うし、そうでなければ、また新たな相手をピックアップする、といったプロセスになる。これは、短サイクルでアウトプットを更新し続けるソフトウェアの開発に通じるものがある(そのため、以降は、デジタルネイティブ世代の思考回路を「『ソフトウェア型』思考回路」と呼ぶこととする)。こうした「ソフトウェア型」思考回路の是非はともかくとして、その変化についてはシニア・ミドルも認識しておく必要がある。

若者と一緒に未来を見に行こう
 話を未来洞察に戻す。通常、企業が考える未来は、「あるべき未来」(=世の中の潮流、専門家の予測など)、または、「ありたい未来」(=企業理念、中期目標など)に限定される。しかし、未来にはもう一つ、「あり得る未来」(=非連続な変化)が存在する。「インターネットで水や野菜を買う」世界も、「男性が化粧する」世界も、15年前は「あり得る未来」であった。すなわち、「あり得る未来」に対してどのように構え、どのように創造していくかによって、15年後の企業価値が大きく変わる。そのため、未来洞察では「あり得る未来」にフォーカスしている。
 未来洞察は「未来イシュー」と呼ぶ「情報+解釈」と「社会変化仮説」と呼ぶ「情報+解釈」の掛け算(「強制発想」と呼ぶ)でアイデアを創造するフレームワークである。つまり、“異なる”「情報+解釈」を掛け合わせて「あり得る未来」を強制的に複数発想する。ソフトウェア型思考回路のデジタルネイティブ世代には、この点に長けている者が多い。思考の特性を活かし、大量の情報から必要な情報をピックアップして複数の未来を発想することを得意とするのだ。とはいえ、デジタルネイティブ世代の「解釈」には短絡的なものも多い。そこで、豊富な知識・経験をもつシニア・ミドルが威力を発揮する。デジタルネイティブ世代の見つめる未来に対して、シニア・ミドルの「解釈」を織り交ぜて、洗練されたアイデアを創出していくのである。これこそが、「年齢」による多様性が未来洞察のプロセスに有効に作用する所以である。
 次世代を担うのはデジタルネイティブ世代の若者である。流行を創りだすのも同様(もしくは、さらに下の世代)である。企業の発展を望むのであれば、若者を傍観しているだけでは済まされない。せっかく同じ組織に若者がいるのであれば、若者を理解し、若者が見つめる未来を、シニア・ミドルも恐れずに一緒に見に行くべきである。その時、未来洞察は有効なツールとなるだろう。


(*1):未来洞察ワークショップの概要については、「サービスおよびネットワーク」・「アプリケーションと事例紹介」を参照ください。
(*2):デジタルネイティブ世代の定義は明確になっておらず、1980年前後以降に生まれた世代とすることもある。
(*3):Mobile Marketing Data Labo.(MMD研究所)の調査によると、スマートフォンを所有する20~30代独身の男女のうち、マッチングサービス・アプリ(出会い系サイト)の利用者は8.7%


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ