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【ハイテク】「米IBMが新型半導体、フラッシュの代替に」


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 米IBMなど3社は11日、デジタル情報を記憶する新型の半導体を試作したと発表した。デジタルカメラなどの記憶媒体として広く普及したフラッシュメモリーと比べ、書き込み・読み出し速度が500倍、消費電力が半分になるという。
 フラッシュの用途は主に家電製品に限られたが、IBMは新型半導体が実用化すれば業務用の高性能コンピューターにも用途が広がると期待している。
(出所)NIKKEI IT PLUS(2006年12月12日)

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≪評≫浅川秀之〔研究員〕

 技術の進展、普及状況をモデル化した概念の1つに“パスディペンデンス”が有名である。日本語では“経路依存(性)”と訳されることが多い。ある技術が一度普及のパスに乗ってしまうと、容易にそこから抜け出すことはできないといった概念である。普及のパスに乗る技術は、必ずしも技術的に最も優れている必要はなく、過去の歴史などを振り返ると、偶然や運といった類の要素も少なからず影響を及ぼしている場合が多い。

 有名な事例としては、VTR技術(ベータvsVHS)がよく引き合いに出される。当時市場を席捲したVHSは必ずしもベータより技術的に優れていたとは言いきれない面もあったとされる。各関係者の思惑、戦略がせめぎ合う過程を経てVHSが勝ち残ることとなった。この淘汰される過程で重要なキーワードが「ネットワークの外部性」や「需要の相互依存性」である(詳細は省略)。

 フラッシュメモリー市場は、記憶セルを接続する構造の違いによりNAND型やNOR型が存在するものの、同市場全体の動向としては大容量化、低価格化、高速化へ向け、日々そのパスを駆け上がっている状況にあろう。

 米IBMは、「フラッシュメモリーと比べ、書き込み・読み出し速度が500倍、消費電力が半分になる新型の半導体」を開発したと発表を行った。技術的な詳細は不明であるが、ニュース記事を読む限りは、不揮発性半導体メモリという市場において、新たな“パス(経路)”を開拓した技術である可能性が考えられる。

 既存の各フラッシュメモリーメーカーは、大容量化、低価格化、高速化へ向け日々開発を進めているが、現状の各メーカーの疲労感、技術的な飽和感は否めない面もあろう。このようなタイミングでの新たなパスの出現は今後、同市場へどのような影響を及ぼすかは大変興味深い。

 過去を振り返ると、新たなパスへの乗り換えに失敗して、消えていかざるを得なくなった企業は枚挙に暇が無い。新しいパスへの乗り換えは、クリステンセン(ハーバード大)の言うところの破壊的技術とも重なるところがあり、その対応は非常に難しい。現状のパスに沿ってハイエンドの顧客を追い続けることに専念し、新たなパスへの対応を怠ることだけは避けたい。まずはこのようなパスディペンデンスの存在を知ることが第一歩である。

 このような概念を認識した上で、各企業が具体的にどうしていくかを考えねばならない。過去の成功を忘却することも時には必要であろうし、過去のパスをレバレッジにした新たなパスへの乗り換えも時には可能かもしれない。このような状況下で勝ち残るためには、各企業が、新たなパスへの乗り換えに関するノウハウや、成功・失敗の因果関係知識などを、これまでどれだけ蓄積、学習してきたかが、重要となろう。

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