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パリ協定が企業に及ぼす影響
米国の不透明さ内包もCOP22で着実に前進

2016年12月01日 三木優


パリ協定を後押しするCOP22
 国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)が11月7日から18日にかけて、モロッコの世界遺産都市マラケシュで開催された。COP22は、直前の11月4日に発効したパリ協定への祝福ムードの中で幕を開けたが、パリ協定からの脱退や気候変動問題は中国の陰謀などと主張するトランプ氏の次期米大統領への就任が8日に決まるとその雰囲気は一転して重苦しいものになった。しかし、既にパリ協定が発効していること、温暖化防止に向けた世界的な潮流は米国にも止められないこと、島嶼国など実際に危機に瀕する国々があることなどから、各国の交渉官は落ち着いて議論を進め、予定通りの成果を上げてCOP22は閉会した。
 COP22の成果を簡単にまとめると以下の通り。
・パリ協定の実施指針等を2018年までに策定することとし、そのための具体的なスケジュールを決定
・COP22で同時開催したパリ協定第1回締約国会合を中断し、全ての批准国が参加する形で2018年に同会合を再開し、実施指針等を採択することを決定

パリ協定の発効が意味するもの
 COP22は、パリ協定(温室効果ガス排出削減の枠組みとしては1997年採択の京都議定書以来)採択の翌年であったこともあり、大きな論点や決定が必要な事柄は少なかった。そのため、パリ協定の実施指針等の策定手続きを中心とした今回の成果には物足りなさを感じるかもしれない。
 しかし、近年の温暖化防止への取り組みは非常に加速している。実際、京都議定書は採択から発効まで7年半を要したが、パリ協定は1年弱で発効しており、2020年からの開始に向けた取り組みもCOP22によって推進力を高めている。今後、パリ協定は、各国の環境・エネルギー政策を通じ産業界に比較的早期に影響を及ぼしてくると考えられる。
 例えば、COP22後にカナダ、英国、フランスが発表した、2023~2030年までに国内の石炭火力発電所を全廃する政策目標は、石炭火力発電所建設をインフラ輸出の主力とする日本企業に大きな衝撃を与えた。総発電量のうち原子力発電の占める割合が80%近くに上るフランスは別として、石炭火力発電が総発電量に占める割合がそれぞれ約10%(カナダ)と30%(英国)については簡単な目標ではないが、意欲的な政策が示されたことで、取り組みの加速が見込まれる。
 パリ協定は、各国が自ら温室効果ガス排出削減の目標を設定し、削減を進める枠組みである。そのため、緩い目標を設定することが可能にも見える。しかし、パリ協定では世界共通の目標として産業革命以来の気温上昇を2度未満とすること(2度目標)をはじめ、目標や取り組み状況の妥当性を確認する仕組みが盛り込まれている。2度目標との整合性や他国との比較、経済力等を踏まえた検証から目標が評価されるため、緩い目標の設定は実質的には難しい。
 また、特に温室効果ガスの累積排出量が多い先進国は、途上国から率先行動を求められており、日本を含め大半の先進国は高い目標を設定している。さらに、この目標は5年ごとに見直され、その際には一層の取り組み強化が必要となる。結局、米国の動向にかかわらず、先進国では温室効果ガスの大幅な排出削減を、パリ協定の目標年である2025~2030年に向けて早期に始めなければならない。

巨大な再・省エネ市場の出現と企業への影響
 いずれ温暖化対策の強化に迫られるのであれば、早期に再生可能エネルギーや省エネに関する技術・ノウハウを蓄積し、ビジネスチャンスに変えるべきである。IEAが先日発表した2016年版世界エネルギー見通しでは、2度目標が達成されるシナリオとして、2040年までの累積投資額は化石燃料関連の1,900兆円に対し、再生可能エネルギーは1,400兆円、省エネは3,850兆円とされており、再・省エネの市場規模は化石燃料関連の2.5倍に上るとしている。米国が気候変動対策に後ろ向きになる不透明さが残るのも事実ではあるが、今後、10年程度の間にこの大きな市場を目指し、投資や技術開発が進む可能性は大きい。これは環境・エネルギー関連企業だけでなく、直接には関係のない企業も省エネ投資や電力料金など様々な形・経路で影響を受けることになる。COP22が順調に終わったことは、このような未来が近づいていることを教えてくれているのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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