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日本総研ニュースレター 2016年7月号

成長が期待される公的保険外サービス
~「自助」に向け厚労省・農水省・経産省も注力~

2016年07月01日 紀伊信之


「自助」への政策的期待 三省連名によるガイドブック発行
 団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けて、介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らし続けるための「地域包括ケアシステム」の構築が喫緊の課題となっている。その実現に向けた大きなポイントの一つは、「自助」すなわち、保険外サービスの普及・充実だ。財源が厳しさを増すなか、介護保険サービスが今より充実するとは考えにくく、また、(特に都市部では)善意に基づくNPOやボランティアによる「互助」への過大な期待も現実的ではないためだ。
 政府も保険外サービスの普及・拡大のため、各種の取り組みを進めている。厚生労働省、農林水産省、経済産業省が連名で2016年3月末に発行した「地域包括ケアシステム構築に向けた公的保険外サービスの参考事例集(以下「ガイドブック」)は、その指針となるものだ。保険外サービスの充実を期待する厚労省のほか、新しい介護食品「スマイルケア食」の普及を狙う農水省、ヘルスケアビジネスの産業化を推進する経産省の三省の思惑が合致した形だ。
 ガイドブックには、介護保険でカバーできない生活援助、食事宅配、運動・介護予防、見守り、外出支援、理美容、交流、自費の看護やリハビリ等多岐にわたる分野の39の先駆的事例が取り上げられている。地域のNPO法人や介護専業大手をはじめ、クラブツーリズム、資生堂ジャパン、日本郵便、コナミスポーツクラブ、ダスキン、東急不動産といった大手企業のシニア向けのサービスが固有名詞入りで紹介されるなど、政府、特に厚労省が発行するものとしては異例の踏み込んだ内容となっている。

「ビジネスチャンス」としての公的保険外サービス
 「日本再興戦略2016」では、「世界最先端の健康立国」を目指す施策として「公的保険外サービスの活用促進」が掲げられた。ここでは「介護を支える保険外サービス市場の創出・育成・見える化」の取り組みとして、ガイドブックを活用しながら、地域において自治体と民間事業者の連携を図ることが明記されている。民間の、特に保険外のサービスを住民に紹介することに消極的なことが多い自治体が住民サービス向上に官民連携を積極的に活用する方針に切り替わっていけば、民間事業者にとっては、サービス利用者である高齢者や家族へのコンタクトという難しい課題が解消され、サービスの開発や提供が大きく前進することが期待できる。

保険外サービスにおいては独自性・質の追求が必須
 1~2割の自己負担で利用できる介護保険サービスと違い、全額自己負担となる保険外サービスの品質に対する消費者の目は非常に厳しい。従って、介護保険サービスの延長に留まらない独自性の高い魅力あるサービスを企画し、サービスの質・付加価値を高める努力が欠かせない。
 例えば、異常を感じた高齢者が端末を操作すると、全国各地で24時間365日緊急対処員が駆け付けるセコムの「セコム・マイドクタープラス」では、駆け付け理由の多くを占める「転倒」に対応する教育に力を入れる。介護関連の子会社およびグループの提携病院との連携によって開発された独自マニュアルによる訓練を行うことで、数千人に及ぶ緊急対処員が、転倒時のベッドや車イスへの移乗といった転倒介助をすることができる。
 日本交通のサポートタクシーサービスでは、時間制の料金体系で、身近な通院、買い物、墓参りなど、高齢者の外出を幅広く支援している。このサービスを担う「エキスパートドライバー」と呼ばれる厳選されたドライバーは、全員が介護職員初任者研修を受講し、高齢者介助の知識・スキルを身に付ける。一般的な外出支援のほか、航空会社と提携して空港の搭乗口まで送迎したり、日本橋三越本店との提携で送迎から店内での付き添いまで一貫して行ったりするなどユニークなサービスも提供している。
 また、担当コミュニケーターの定期的な電話による「会話型見守りサービス」を提供する株式会社こころみでは、担当者の「傾聴スキル」を強みとしており、顧問として大学の心理学教授や認知症専門医、俳優を迎えた独自のプログラムによる教育を徹底している。結果として、料金は入会金1万円、週2回の電話で月8,000円と高額ながらも高齢者本人や子供世帯の満足度は高いという。
 今後、政策の後押しを受けて、保険外分野に参入する動きが加速することが予測される。激しくなる競争の中で、消費者に選ばれるためには、付加価値を認めてもらえる魅力的なサービスを企画し、その質を担保する知恵と能力が求められると言えるだろう。



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません