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豊後大野市分散型エネルギーインフラプロジェクトのご紹介

2017年04月26日 松井英章

 日本総研は、地域に眠る再生可能エネルギーの活用を通じた地域内資金循環を目指し、地域エネルギー事業の推進を数年前より提唱しているが、そのコンセプトを具現化するものとして、総務省が推進する「分散型エネルギーインフラプロジェクト・マスタープラン策定事業」に取り組む多数の自治体を支援してきた。関与した事業は、まちの中にジェネレーションを設置し面的に電力・熱を有効利用するもの、積雪の多い地域に熱導管を敷設することで重労働の融雪を不要にして住みやすいまちづくりを目指すもの、地域の再エネ資源を活用して観光業にも役立たせるものなど、数多くのタイプがある。今回ご紹介するのは2016年度に支援した、大分県豊後大野市の分散型エネルギーインフラプロジェクトマスタープラン策定事業である。まず豊後大野市と事業の概要について述べたい。
 豊後大野市は、2005年3月に5町2村が合併して誕生した。本市の人口は36,584人(2015年国勢調査)で、2010年の前回調査から2,868人減少し、人口減少や少子高齢化が進行している。こうした中、第2次豊後大野市総合計画(2016~2025年)においては本市の将来像を「人も自然もシアワセなまち」として人と自然のより良い折り合いをつけた暮らしを追求し、里地里山の環境保全、地域資源を生かした産業で雇用を創出するなど魅力あるまちづくりを進めて人口減を抑制する取り組みを目指すとした。
 これを具現化する手段として注目されたのが、地域エネルギー資源を活用したエネルギー事業である。その一環として、民間企業による木質バイオマス発電所(18,000kW)を大分県と協力で誘致しており、既に稼働中である。豊後大野市は、この発電所の排熱を利用した各種事業を模索することとした。当初に想定した第一の事業コンセプトは、新たに設立する地域エネルギーが木質バイオマス発電所から排熱を譲り受けて近隣に誘致する熱需要施設に熱供給を行い、第二に、発電所の排熱を使って木質チップを乾燥させ、遠隔地の公共施設等に設置する小型のオンサイト型木質バイオマスガス化発電施設に供給する、というものである(下図)。


豊後大野市分散型エネルギーインフラプロジェクトの当初の事業コンセプト

 しかしながら、既に運営している木質バイオマス発電所の状況を精査すると、想定よりも排熱温度が低いことが分かった。発電所の方が先に完成していたため、少しでも発電効率が良くなるように施設全体がチューニングされており、当初の想定よりも熱供給力が少なくなる見通しとなった。特に、高温排熱を利用できないことから、前述の排熱を利用したチップ乾燥というアイデアは採用できなくなった。融資を受けた金融機関の意向も踏まえると、排熱利用のために発電事業への影響を与える形でシステム改変や運転条件変更を行うことは許されない。こうした現実の状況下で、どのように排熱利用システムを組むかということが本事業検討の第一のポイントとなった。本事業にて詳細な熱供給力ならびに想定される熱需要を精査したところ、過熱のため補助的なヒートポンプの設置が余儀なくされることになったが、適切なバッファとなる貯湯槽を設けて需要に関係なく定常的な熱供給を受けるようにすることで、ヒートポンプに要求される出力容量を小さくし、初期投資・運営コスト両面で低コスト化を図ることで事業が成立する目途を立てた。排熱を利用した熱事業を行うというコンセプトながら一部補助的な電力を活用することにはなってしまったが、それでも地下水や上水を温めるため全て重油や電力で賄ったりすることに比べればはるかに採算性はよく、CO2排出量も少ない。当初描いていた完全な理想像は実現できなくなる中で、諦めずにどう果実を搾り出すか、その工夫が事業検討の上で重要である。
 また本事業検討で重要な第二のポイントは、排熱を利用する熱需要施設のあり方である。電力と異なり利用場所が限定される熱事業は、需要先を自由に選ぶことができないという制約がある。本事業においては、発電施設の周囲は耕作放棄地であり、既存の大きな熱需要施設は存在しなかった。そのため新たな熱需要施設を誘致するしかないが、地域活性化を考える上では、地域エネルギー事業それ自身だけではなく、需要施設による事業創生も含めて経済波及効果を狙いたい。そこで注目したのが豊後大野市の特性である。豊後大野市は大分県内では珍しく温泉を有しない自治体であり温浴施設の設置を求める市民の声が大きかったため、まずは温浴事業をベースとした。次に考えたのが施設園芸であるが、農業経営の中で熱コストの大きなもの、単位面積当たりの収穫高が大きいもの、地域としてのストーリー性があるもの(かつて土地の名産だったものなど)等を比較して検討した。さらに、近隣の漁業組合からシラスの提供を受けられることもあり、高い収益性を見込める陸上養殖(養鰻)を検討した。ただ、大切なのは個々の熱需要施設単体だけではなく、それらの集積による相乗効果である。農業・養殖施設の生産物と温浴施設を連携させた6次産業をいかに構成して市内外の利用客が継続的に集まる施設を目指していくか、という点が鍵になる。市としてまずはトータルの戦略を考える必要があるとして6次産業化の構想策定を行い、その後、本構想に賛同してくれる事業者を誘致することにした。今後、実際の需要家を集める過程の中で、関心のある事業者と議論を重ねながら、単なる個々の熱需要施設の集合ではなく、一つの“まち”として構成するため、そのビジョンを実現するコーディネートが大切になってくる。
 これから先は本事業を推進するために、近隣の耕作放棄地の買い取り・農地転用交渉、需要施設の事業者誘致のための公募要件の詳細設定といった実務が進んでいく。その際、上述のコーディネートをしながらコンセプトを具現化する施設の中身を事業者と詰めていくことになるが、その際、何をやるか(=事業コンテンツ)ということだけでなく、採算性を確保できる形でどのように運営するか(=事業スキーム)、という点も大切になる。公共が関与する本事業における熱需要施設の運営については、施設全体を事業者が所有・運営するパターンや、土地と建物躯体は市が保有し、その活用は民間に委ねるパターンなど、様々な官民連携スキームが考えられる。スキームのオプションを挙げ、事業採算を考慮しながら比較検討する中で選択していく作業が求められる。
 このように、地域エネルギー事業の実現には3つのポイントがある。第一にまちづくりを見越した需要創生のあり方が大切であり、それにはしばしば「熱源施設が人里離れており周辺に熱需要がない」という課題を克服することが求められる。そのためには、誘致する需要施設単体のあり方だけでなく、それらの組み合わせによる相乗効果を狙う、という方法がまず考えられる。第二に現実を見越した供給のあり方を考えることが重要である。既存の熱源施設に対して後から手を入れられない、ということは起こりがちであるが、需要と供給の間のバッファとなる施設を設けて調節するといった工夫が大切である。そして第三に、構成した需給を適切に運営するための、官民連携の事業スキームのあり方をトータルに検討して行くことが求められる。
以上
                                                   

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