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アジア・マンスリー 2010年10月号

【トピックス】
アジアの消費拡大を支える3つの市場

2010年10月01日 大泉啓一郎


近年、アジアの消費市場に注目が集まっている。多様な市場は、「富裕層」、「ボリュームゾーン(中間所得層)」「低所得層」に区分され、日本企業にはそれぞれの特徴を踏まえた市場開拓が求められる。

■関心高まるアジアの消費市場
近年、わが国では、少子高齢化と人口減少により、国内市場に大幅な拡大を見込むことは困難であり、アジアの市場を取り込むことが、国レベルでも企業レベルでも重要な課題と認識されるようになってきた。このようなアジアへの期待は、世界金融危機から先進国の景気回復が遅れるなかで、アジア諸国の景気がいち早く持ち直したこともあって、より一層の高まりをみせている。
名目GDPの規模を単純に市場規模とみなせば、アジアの市場は2005年に追い越したことになる。その差が次第に拡大していることを考えれば、日本企業がアジアの市場開拓に乗り出すのは自然の選択といえる。ただしアジアにおいて消費市場が一様に広がっているわけではない。アジアは広大であり、かつ所得格差が大きい地域であることを勘案すれば、市場細分化(セグメンテーション)の視点が求められる。経済産業省は「通商白書2009」のなかで、年間収入が5,001~35,000ドルの世帯人口が2000年の1.9億人から2008年には8.8億人に増加していることに着目し、「ボリュームゾーン(中間所得層)」と名付け、日本企業はこの市場開拓に乗り出すべきだとした。もっともアジアの消費市場の魅力は「ボリュームゾーン」だけにあるのではなく、「富裕層」や「低所得層」の市場にも向けられるべきであろう。以下、「富裕層」、「ボリュームゾーン」、「低所得層」の3つの市場を概観したい。

■異なる3つの市場の特徴
アジアにおいて年間所得が35,000ドル以上の富裕世帯人口は2000年の3,400万人から2008年には7,400万人へ倍増した。国・地域別にみるとNIEsが3,500万人と圧倒的に多い。同所得層がNIEsの人口の42.1%を占めているのに対して、中国やASEAN5(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム)、インドの富裕層の人口比率は、それぞれ1.4%、1.8%、0.7%と低く、その多くは大都市に集中していると考えられる。ただし、35,000ドルという基準は、中国やASEAN5、インドの富裕層の規模を過小評価している可能性がある。これらの国では衣食住のコストが低いため、同水準の所得であっても日本やNIEsより耐久消費財やサービスに向けられる所得が多いからである。この点を勘案し、次にみるボリュームゾーンの「上位中間所得層(15,001~35,000ドル)」以上の世帯を「富裕層」と再定義すれば、中国が7,800万人(人口の5.9%)、ASEAN5が3,700万人(同7.3%)、インドが2,400万人(同2. 1%)となる。経済産業省が行ったアジアの大都市における意識調査では、この購買層が日本製品について「品質がよい」、「信頼できる」に加え、「技術力がある」、「デザインがよい」などと高く評価している。これら富裕層市場の開拓に求められるのは、日本製品のブランド力強化、イメージアップを図る広告やマーケティングの徹底であろう。
次に、近年最も注目を集めている「ボリュームゾーン市場」であるが、この所得層は「上位中間所得層(15,001~35,000ドル)」と「下位中間所得層(5,001~15,000ドル)」に区分される。内訳では「下位中間所得層」が圧倒的に多く、2008年は全体の85%を占めた。この下限である5,001ドルは、中国のケースでいえば、エンゲル係数が50%から40%台へ急速に低下し、耐久消費財を購入する余裕が出始める水準である。ちなみに、わが国でエンゲル係数が40%になったのは高度成長期の1960年代で、耐久消費財が急速に普及した時期であった。ただし所得水準がそれほど高くないため、同市場開拓には、製品の部品数の見直しや機能の簡素化によるコストダウン、販売網の開拓などが重要になる。またコストダウンの観点では、アジア域内FTA(自由貿易協定)が進展してきたことから、ASEANの生産拠点から中国市場への輸出、またその逆といった日本を介さない生産ネットワークの活用が今後有効となろう。
最後に、年間所得が5,000ドル以下の「低所得層」の市場に目を向けよう。同世帯人口は2000年の25億6,000万人から21億1,000万人へ減少しており、とくに1,000ドル以下の世帯人口が急速に減少している。他方、1,001~5,000ドルの世帯人口が18億5,600万人と依然多いが、この貧困ラインを脱した所得層は、「BOP(Base of Pyramid)ビジネス」の市場として近年注目を集めている。BOPビジネスは、低所得者を対象とするものの、欧州企業「ユニリーバ」のように、洗剤やシャンプーを小袋に詰め替え、農村の女性たちを販売員とすることで販路を広げた成功例がある。同市場の開拓では、日本企業は出遅れているとの印象があるが、調味料メーカー「味の素」はすでに中国や東南アジアの奥地まで販路を広げているし、衣料大手メーカー「ユニクロ」もグラミン銀行と提携し、BOPビジネスに参入するなどの新しい動きも出てきた。BOPビジネスではボリュームゾーン以上にいかに販路を開拓するかが重要な戦略となる。
経済産業省は2009年に「BOPビジネス政策研究会」を立ち上げ、2010年2月に公表した報告書のなかでは、市場開拓支援のためのプラットフォームを創設し、広く情報発信することが提案された。多様なアジアの市場開拓には細分化された情報が不可欠であり、政府には、BOPに限らず、他の市場を含めた市場情報の発信を期待したい。
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