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Business & Economic Review 2009年10月号

【特集 環境制約下での新しい経済・社会】
低炭素型交通システム構築に向け貨物鉄道利用を推進せよ

2009年09月25日 創発戦略センター 主任研究員 石田直美、創発戦略センター 副主任研究員 安納剛志


要約

  1. ガソリン車から環境配慮車への切替えにより、確かに一定の二酸化炭素排出量の抑制が期待できる。しかし、輸送手段の転換なしに技術開発だけで2050年までに1990年対比80%削減するという目標を達成することはできない。電気自動車よりもさらに低炭素型の交通手段の一つとして、鉄道を再評価すべきである。

  2. 日本は諸外国と比較して、貨物鉄道利用が進んでいない。貨物輸送の中心であるトラック輸送には今のところ電気自動車が登場する動きはないことを考慮すると、貨物輸送における鉄道へのシフトは旅客輸送以上に重要といえる。

  3. 自動車部門の二酸化炭素排出量を民生部門と同程度の2分の1まで低減するとした場合、自家用車の8割を電気自動車に転換し、貨物自動車の4割を鉄道部門と内航海運にシフトする必要がある。このとき、貨物鉄道の輸送分担率は現状の2倍の約8%となる。鉄道による輸送量を拡大するには、他の輸送機関との距離帯別の分担に留意して、計画的なシフトを行う必要があり、ひとつの目安として、まず300km超の距離で貨物鉄道の割合を高めることが考えられる。

  4. 戦後の産業構造の変化等に伴い、貨物鉄道は主役の座をトラックに奪われた。貨物鉄道の利用を再興するためには、環境面における優位性をアピールするだけでなく、利便性の面での課題を克服する必要がある。そのためには、第1に貨物鉄道線路の整備を促進すること、第2に貨物車両等の技術開発を進め、他の輸送機関に対する競争力を向上させること、第3に他の輸送機関との連携機能を強化する必要がある。

  5. 第1の点については、国鉄民営化に伴い発生した歪んだ上下分離方式を是正する必要がある。国鉄民営化により採算性の高い旅客事業が推進され、債務返済が進んだ点では一定の評価ができる。しかし、一方で貨物鉄道についてはJR旅客とJR貨物という民間事業者同士の上下分離となることで、自らの裁量で使える線路を持たない民営貨物事業が事業展開上の足枷を背負うことにもなった。こうした問題の解決のためには、公共主導により線路整備を行い、公共が資産を所有する上下分離方式に移行していく方法やJR旅客の線路運行に一定のルールを設け、貨物の優先度を高め得る線路利用の仕組みを原則公共主導で構築する方法等が考えられる。

  6. 地球環境問題意識の高まりも加わり、市場にすべてをゆだねる考え方から、前向きな意味での新しい官民協働を模索する流れに世の中は向かっている。こうしたなか、公共には、低炭素型交通システムの整備に向けて中長期的な視野に立った交通インフラのビジョンづくりとそれに基づいた具体的な施策づくりが求められる。平成19年に施行された「地域公共交通の活性化および再生に関する法律」では衰退する地域の鉄道への公的救済支援だけでなく、目線を低炭素型交通システム整備に上げ、全体最適化を推進する役割を期待したい。民間事業者には、こうした枠組みのなかで、個別の交通機能にとどまらず複数交通間を跨いだ利用者の便益性向上に向けた提案が望まれる。

  7. 高度成長期の時代に大量整備されたインフラは今後、更新の時期を迎える。低炭素型交通システムの構築等、公共性の高いインフラへの要請は時代とともに変遷する。官一辺倒、民一辺倒ではなく、新たに生まれてくる価値観に対応できることこそ、望ましい公共インフラの事業形態である。交通システムの長期的なビジョンのもと、適切な官民協働の仕組みを構築し、21世紀初頭という時代の要請に柔軟に応えることが重要である。
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