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第14回 重要な欠陥の判断-補完統制を有効活用 【下野 雄介】(2009/02/05)

2009年02月05日 下野雄介


1.補完統制とは

 J-SOX本番年度も残すところ2ヶ月程度となった。対応の現場では、いよいよ本年度末の内部統制報告書作成に向けて、重要な欠陥の有無を確認するため、各統制分野における不備の集計に着手された頃だろう。
 重要な欠陥の有無は、抽出されたそれぞれの不備、もしくは不備の間の関連性について、金額的、質的な重要性の多寡で判断する事になると思われる。この過程で、例えば、以下に記載するような、重要な欠陥と判断せざるを得ない不備が残る可能性もあるだろう。

 売上計上に係るサブプロセスで、計上時のダブルチェックが機能していないという不備において、金額的影響は、そのサブプロセスで計上する(年間売上金額)×(発生可能性)が一定の金額基準(例えば連結税引前利益の5%)を超えている。また、質的影響についても、統制の有効性(機能の有無)に影響すると判断でき、重要な欠陥と判断せざるを得ない。

 改善余裕が残されていない、あるいは改善できない可能性が高い不備で、このように重要な欠陥に該当するものは、内部統制報告書に掲載しなければいけない状況となり、実務担当者を悩ませる事になるのは想像に難くない。そもそも、財務報告の信頼性に重要な影響を与える可能性があるかという観点で、評価対象を絞っている事を勘案すれば、それぞれの不備は、重要な欠陥と認識せざるを得ない可能性が高いと考えられる。

 このような場合に検討頂きたいのが「補完統制」である。この補完統制は、2009年1月23日付で日本公認会計士協会より改正が発表された「監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」(注)の11(4)に、新しいトピックとして追加されている。要約すると「重要な欠陥がもたらす潜在的な影響額又は発生可能性を低減している内部統制」となる。
 本稿では、補完統制の具体的な活用方法について、特に業務プロセス統制に絞り、具体的な例示をもって述べるともに、検討に際しての留意点について記載する。

2.補完統制の例

 1.の売上計上に関する不備を、重要な欠陥ではないと判断するために、例えば、下記のような補完統制と、その判定における活用方法が考えられる。但し、会社によって、リスクの特徴や程度が異なる為、活用に際しては、下記はあくまで参考事例として、状況に応じて検討頂きたい。

■売掛債権に関する残高確認
 売掛債権に関する残高確認は、確認時点での売掛債権の実在性を確保する事ができる統制である。例えば、3月決算の会社で、残高確認実施時点が2月末であった場合、少なくとも2月末時点までの売上高は、全権発送・回収・差異照合される前提が満たされれば、残高差異の原因に応じて補正されると考えられる。したがって、残った3月時点での売上への金額的影響のみを考慮すればよい等、金額的影響に対する補正が考えられる。このような補正による最終的な金額的影響が金額基準を下回れば、売上計上に関する不備は重要な欠陥ではないと判断できるのではないだろうか。

■前月当月の期末売上高比較と要因分析
 例えば、販売部門で月次試算表に基づいて、売上高の増減について要因分析を行っているとする。こういった異常値チェックを内部統制として認識している(文書化している)企業も少なくはないと推測される。
 この比較結果の要因分析をどの程度詳細に行っているかによって、低減できる金額的影響は異なるが、例えば、業種柄、季節要因がなく、10百万円以上の増減は異常と捉えて要因を解析している場合、同程度まで金額的影響を低減することは可能ではないだろうか。

3.検討に際しての留意点

 以上に述べてきた補完統制を検討する際、まず、補完統制自体が有効であることが必要となる点に留意したい。補完統制自体が有効でない場合、リスクの低減は見込まれないからである。ということは、補完統制として取り扱う事ができるのは、文書化対象となっている統制に限られる可能性が高いと思われる。文書化対象外の統制を抽出し、補完統制とした場合は、その統制の有効性について保証することができない。
 また、事実として、財務諸表の虚偽記載に繋がる事象が発見された場合は、補完統制の活用は困難である。例えば、「売上計上の漏れが事実100百万円あった」という事実がある限り、金額的影響を低減することは不可能と考えられるからである。特に、期末の業務プロセスに係る決算財務報告プロセス上で発見されたミス、不正については補完統制の設定が困難であり、決算財務報告プロセスが重要な欠陥に該当する可能性を最も内包していることを考えると、期末におけるミス、不正を十分防ぐ内部統制の検討が必要になると思われる。

 残り少ない時間で、すでに認識されている不備を改善し、評価を行うことが実務上困難であることは想像に難くない。しかし、本稿が、自社の重要な欠陥の存在に悩む実務担当者の皆様の一助となれば幸いである。



(注) 日本公認会計士協会
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