コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

「塩漬け土地」の抜本的解消を
~土地開発公社問題の解決に向けて~

2009年05月11日 小長井由隆


土地開発公社問題とは

 土地開発公社とは、地方自治体が必要とする土地を先行的に取得する目的で設立された公社であり、その役割は、近い将来自治体が必要とする土地を自治体の代わりに取得し、実際に必要になった時点で、取得時の価格に取得後の経費や金利を上乗せして自治体に売却するというものである。土地開発公社が先行的に土地を取得することで、議会の議決等を経ずに、地価が安価な時に機動的に土地が取得できるというメリットがあった。
 このスキームは、自治体の事業計画が順調に実行され、かつ地価が上昇しつづける状況下では有効に機能した。しかし、バブル崩壊とそれに伴う自治体財政の逼迫と公共事業縮小の影響により、土地開発公社が先行取得した土地に利用予定のないものが含まれるようになってしまった。それらの土地は、地方自治体の要請により公社が取得したものであるため、最終的には自治体によって買い取られる必要があるが、土地価格が下落したため、購入時の価格で自治体が買い取ると損が出てしまうことや、土地開発公社が保有する土地には固定資産税が課税されないため、更地で保有するだけではほとんど維持費がかからず、処分する動機が自治体に働かないことなどから、自治体が土地を買い取らなくなっているのである。
 土地開発公社の中には、5年以上保有している土地の総額が、当該自治体の標準財政規模の50%以上となっているところもある。通常、公社が取得してから2~3年で自治体が買い取ることが前提であるため、5年以上の保有地が存在するということは、自治体が買い取り機会を逸した「塩漬け土地」と考えてよい。

「長期保有土地」のデメリット

 全国の土地開発公社の保有土地の状況を見ると、保有土地の総量は、取得金額ベース、面積ベースともに減少している。しかし、10年以上保有している土地は、2005年度末時点で、金額ベースで一旦減少したものの、その後再び増加に転じている。ここ数年の土地開発公社経営健全化に対する、地方自治体の努力と国の支援策(注1)がある程度実を結んできているが、長期保有土地の解消という抜本的な解決には至っていないことが読み取れる。


長期保有土地のデメリットは、以下の3点に集約されると考える。

(1)簿価への金利分の積み増し
 土地開発公社の土地取得原資は、主に金融機関からの借入金であるため、取得価格に金利分と維持コストを上乗せした金額(簿価)で自治体に土地を買い取ってもらい、その買い取り代金を返済に充てる必要がある。長期保有土地の場合は、借り換えを行うことで返済期限を延ばしているが、借入期間中の金利は土地の取得費用として簿価に積み増されている。ほとんどの自治体は、無利子融資や補助金などの形で金利分を土地開発公社に対し支出しており、土地保有に伴う自治体の財政負担は大きくなっているのである。

(2)含み損拡大のリスク
 (1)でも述べたとおり、自治体が土地開発公社から土地を購入する場合は簿価で購入する必要がある。したがって、取得時より地価が下落している場合、土地開発公社の保有土地には含み損が存在している。バブル崩壊以来下落を続けていた地価は、近年回復傾向にあったが(グラフ参照)、昨年秋以降の金融危機の影響で、全国的に地価は再び下落している(注2)。今後の土地価格の動向は不明であるが、含み損がさらに拡大するというリスクは存在する。



(3)未利用地による機会損失
 土地開発公社が保有している土地の多くは、利用されずに更地のままである。駐車場や倉庫などの用途に利用されている場合もあるが、あくまで売却されるまでの仮の活用であり、当該用地の本来の価値に見合った活用は少ない。未利用地の中には、住宅地や商業地として活用可能なポテンシャルを持っているにも関わらず、未利用であるため地域の経済活動を妨げてしまうような土地も存在すると考えられる。こうした機会損失は自治体にとっても大きな問題である。

長期保有のデメリット解消に向けて自治体は情報公開を

 上記の問題が起こっているにもかかわらず、処理が進んでいない土地開発公社が多く存在する。これには土地を買い取るべき自治体側に以下の理由があるためと考えられる。

(a)土地開発公社から土地を買い取り、地方自治体の一般会計に多額の歳出を計上するよりも、長期保有をして土地開発公社に金利分だけを補助した方が問題が顕在化しない。
(b)取得時に比べて地価が低下している場合、含み損が発生するため、購入に対し議会や住民の同意が得られにくい。
(c)公共利用の予定がない土地は、買い取り後に民間売却をしたいが、売却可能性を見きわめられず、買い取りの意思決定ができない。

 しかし、利用の予定がない長期保有土地については、土地開発公社が保有する期間分だけ金利分が増えていくため、買い取り価格は上昇し続ける。したがって、土地開発公社および自治体は、解決に向けた取り組みを早期に進めるべきであり、そのために、保有土地の資産価値、売却できる土地の見通し、最終的な自治体の財政負担などの試算を情報公開し、議会や住民と議論を進めることが必要である。その際、当該土地の先行取得の目的、自治体が買い取りを行わなかった理由についても、明らかにしていくことが重要である。

活用可能性が懸念される「第三セクター等改革推進債」

 今国会(第171通常国会)で「第三セクター等改革推進債」(以下「推進債」)の創設が決まった(地方財政法の改正)。これは、第三セクターや地方公社の抜本的な処理改革のために必要な経費を、地方債で充当することを可能にするものであり、2009年度から5ヵ年の期限付きの制度である。自治体はこの地方債を活用し、土地の再取得または売却等の処分により、借入金が返済される見込みのあるもの以外のすべての土地を買い取ることができ、土地開発公社で「塩漬け」となった土地の処分が可能となる(償還年限は基本的に10年以内、資金の調達は市場公募または銀行引き受け)。
 過去においても、総務省の土地開発公社経営健全化対策の対象団体に指定されれば、土地買い取りに関する地方債措置が可能であった。しかし、地方債措置に一定の制限が付いていたこと、同団体の指定を受けるには5年以内に健全化目標を達成する義務が課せられていたことなどから、保有土地が多く処理に伴う負担が大きい自治体は活用が困難であった。
 推進債は、土地開発公社経営健全化対策の対象にならなかった自治体も活用できることが期待されるが、現在の厳しい財政事情の中で、果たしてどれだけの自治体が推進債を活用できるのだろうか。
 筆者は、東京近郊の複数の自治体のデータを元に検証したところ、実質公債費比率の上限を超えるか危険な水準になる可能性があるため、起債をためらう自治体も少なくないと見ている(詳細は後述「参考」を参照)。
 推進債の償還年限は、10年以内が基本で「必要に応じ」10年を超える償還年限を設定できるとなっているが、財政状況が厳しい地方自治体では20年程度の償還期間の設定(注3)をしなければ、推進債の活用は進まないのではないだろうか。

買い取り後の土地活用のビジョンが必要

 仮に、推進債を活用して土地開発公社の保有土地を解消したとしても、それは土地開発公社問題の一部(金利分の簿価上昇、含み損リスク)の解決であり、未利用地による機会損失の問題は解決していない。自治体が土地を買い取るだけでは、塩漬け土地の所有が移転しただけなのである。もちろん、山間部の道路予定地など、他の用途での利用が不可能な土地は引き続き保有し続ける必要があるが、その他の未利用地については、民間への売却をできる限り進めるべきである。
 多くの自治体では、公売やインターネットオークションも活用し売却の努力をしているが、なかなか売却が進まないのが現状だ。昨今の不動産市況の冷え込みも影響していると思われるが、そもそも土地の市場価値やマーケット状況を自治体が正確に把握していないことも原因と思われる。土地売却を促進するためには、地方自治体だけで検討するのではなく、不動産事業者など外部の民間事業者のノウハウを活用するなど、官民の連携により解決することが必要である。
 推進債の活用が可能な自治体については、土地開発公社の問題は解決の方向に向かうと思われる。しかし、塩漬け土地を買い取った後、どのように活用または売却していくか。出口を見据えた自治体の資産活用戦略が問われている。


(注1)土地開発公社経営健全化対策(総務省)。平成17年度または18年度から5年間で経営健全化を達成するため、地方債措置や特別交付税措置などの支援策を講じるもの。自治体の申請により経営健全化団体に指定されれば支援の対象となる。
(注2)「主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~」(国土交通省 2009年2月24日)によると、平成20年第4四半期(10/1~1/1)の主要都市の高度利用地の地価動向は、ほぼ全ての地区(調査した150地区のうち148地区(98.6%))で下落したと報告されている。
(注3)土地開発公社のための地方債創設の提言は過去に存在する。例えば三菱総合研究所客員研究員赤川彰彦氏は、20年償還の政府保証債の発行を提言している(「財政再建策:塩漬け用地の処方箋『土地開発公社健全化債の創設』提言」『自治体チャンネル』101号)。筆者も地方自治体の財政状況を鑑みると償還期間は20年程度が妥当であると考える。


(参考)第三セクター等改革推進債の起債可能性の検証
(東京近郊の複数の自治体のデータをもとに検証)



X市における土地開発公社の土地保有額の合計は250億円で、そのうちの9割以上の240億円が5年以上保有土地、8割の200億円が10年以上保有土地である。土地の先行取得のスキームから考えて、5年以上保有している土地は、買い取り、売却の目処が立っていない土地と考え、5年以上保有土地の簿価240億円の買い取り資金を推進債で調達すると仮定する。推進債を2009年から5ヵ年48億円ずつ発行、それぞれ10年償還元利均等払いと仮定すると、2014年から2019年まで毎年24億円の公債費が発生し、標準財政規模の4%分公債費が増額することになる。地方自治体の財政健全化指標の一つである、実質公債費比率(公債費元利償還金の標準財政規模に対する比率)は、3ヵ年の平均が18%以上となると地方債発行が許可制となり、25%以上になると早期健全化団体となってしまう。標準財政規模の4%といえば少ない金額に思えるかもしれないが、すでに発行している地方債の償還をあわせると、実質公債費比率が基準を超えてしまう(超えないまでも危険な水準になる)可能性がある。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ