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コラム「研究員のココロ」

サービス業社長への提言:最近サボっていませんか?

2009年01月09日 平康 慶浩


サービス業はハコもの商売。だから不労所得がうまれやすい。だから・・・サボる?

 サービス業を営まれている皆さまにはご理解いただけると思うが、サービス業の特徴を一言で言ってみれば、「キャッシュを生むハコをどれだけ作るか」ということに尽きる。このハコというのは、実態としての店舗の形態をとることもあれば、特定個人をさす場合もある。ただ、製造業が一連のプロセスによってキャッシュを得るのに対して、サービス業では対面でのやりとりでキャッシュが生まれてくる点が大きく異なる。つまり、対面の単位がハコということである。

 さて、このハコが増えてくると、社長の手元には不労所得がどんどん増えることになる。あくまでも私個人的な感覚だが、サービス業の社長は、会社の売上のおよそ10%程度を自分のものと思っておられるように感じる。例えば売上10億円なら1億円、50億円なら5億円、300億円なら30億円といった具合に。もちろん、報酬としてはその10%~50%程度とされているだろうが、各種経費、不動産購入、親族役員をあわせるとおおよそそれくらいになる。社長の趣味の事業を始めることなどもここに含めて考えれば実感していただけるのではないだろうか。

 そして、不労所得が増えてくるこのタイミングで、多くの社長は「サボり」に入ることが多いように思う。
 典型的な例は、夜の付き合いの増加、それに伴う出社時間の遅れ、ちょっと抜け出しての私用の頻発、社外の付き合いの拡大等である。

 ご自身を振り返って、後ろめたくなる方がいらっしゃったら、ぜひ続きを読んでみていただきたい。


社長がサボるきっかけは『疲れ』と『自己矛盾』

 社長がサボり始めるきっかけを直接伺ってみると、多くの場合、プライドと不安がないまぜになった時期であることが多い。例えば売上の成長が踊り場にさしかかったタイミングなどである。
実はこのタイミングで、二つの気持ちが社長の心に生じている。

 第一の気持ちは、『疲れ』である。
 売上を上げる努力というものは、あるタイミングで必ず踊り場にくる。この踊り場をどう乗り越えて次の成長へ向かうかが本来の社長業の醍醐味なわけだが、この踊り場は厳しい自己批判を社長に強いてくる。過去の成功体験の否定から始まり、ビジョンの欠落、マネジメント力の不足、ずさんな資金計画など、見たくなかったところが浮き彫りになってくる。また、そういった触れてほしくないところをずかずかと指摘してくる金融機関や税理士等がうっとうしくもなってくる。つまり、社長として走り続けることに、少し疲れてしまうわけだ。

 第二の気持ちは、『自己矛盾』である。
 企業としてみれば、10億~100億円の売上高の会社はゴマンとある。しかし、年収1億円以上を稼ぐ人物といえば、サラリーマンではほとんどいない。このギャップが社長の中の矛盾として発生する。"成功者としての一個人"と"どこにでもいる社長"の矛盾である。

 結果として、ゴマンといる平凡な社長である自分から、年収1億以上を稼ぐ非凡な自分に逃げ込む社長が多くなる。そして本業以外に打ち込む結果、本業ではサボってしまうように見えてしまう。

もし貴方が疲れや自己矛盾を感じているなら、今サボっていないとしても、黄色の信号が点滅している状態だと思っていただきたい。


運転資金を融資に頼るようになる前に、サボりはやめたほうがよい

 さて、このとき、ハコがきっちりと稼いでくれていれば問題はまだ軽くすむ。
 例えばハコが稼いでいて、社長が自分を非凡な存在、として行動し始めると、「カリスマ社長」という肩書きを求めだしたり、「自伝」をゴーストライターに書かせたりし始める。従業員に対しては、過度に厳しくあたるか、あるいは干渉しなくなるか、極端なことが多い。
 しかしこれらの行動は、逆にブランド力に貢献してくれる場合もある。社長ご自身もそのことをわかった上で、あえてそのように行動されている方もいらっしゃるようだ。

 しかし、ハコの稼ぎが減ってきて、金融機関に頼る運転資金の額が増えてくると問題は深刻化する。
 私が見てきた限りだと、経営状態がまずくなったとき、サボっている状態の社長は、まずすべての責任をハコに押し付ける。また、ハコを管理している営業部門や管理部門の不備を叱責する。
 たしかにハコに責任はあるし、営業や管理にも不備は多い。しかしその状態を作ってきた社長の責任に触れてほしくないので、叱責の度合いがどんどん増えていくように見える。
 また、平凡な自分に戻りたくないのか、以前ならしなかったような独断的な意思決定を乱発したり、行き過ぎた経費削減を強いたり、無軌道な改革に着手し始めることも多い。

 まずいことに、この状態が改善されるには、環境が自然によくなるのを待つしかないことが多い。どんな改革をしたところで、社長がサボっている状態にある限り、改革による改善は発生しがたいのが現実である。でもだからといって、身についた社長のサボり癖はなかなか消えない。結果として、会社は環境変化にたゆたうまま、先が見えない状態が続くだろう。
 さて、このように手厳しいことを書いたが、あなたがもし今サボっている状態で、運転資金が厳しく、そして会社をなくしたくないのなら、次の章を読むことをお勧めする。


社長のライバルを社内につくり、その成功をほめることが答えのひとつ

 社長であるあなたがサボりをやめたくない、あるいはなかなかサボり癖が抜けないのなら、お勧めしたい方法がある。それは、あなたのライバルを社内におくことだ。

 具体的には、営業と管理それぞれに新たなトップを据えることである。そして、社長であるあなたに対する報告を、その二人からだけ受ける状態にしてしまう。もちろんあなたが個別のハコを視察することはかまわないが、おそらくサボっている期間が長いほど、そんな気分にはならないだろう。だから、二人のトップになるべく権限委譲を進めてほしい。
 このときに最も注意しなければいけないのは、権限委譲した状態で二人が出した結果を社長の口から直接賞賛することである。本質的な改善結果でなかったとしても、ちょっとした改善が実現し売上やキャッシュフローに反映された時点でこれを賞賛しなくてはならない。

 この目的の一つ目は、社長であるあなた自身が悔しい思いを感じることである。だからこそ、ほめたくなくてもほめる必要がある。
 権限を委譲して、その結果他人が成功して、それを自分がほめる。これをくやしいと本当に感じたなら、あなたは自分から事業経営に戻ってきたくなるだろう。
 もしくやしくなかったら?それはそれで、社長なしで事業が回る体制が整っていくのだから特に問題はない。株式さえ押さえておけば、あなたはサボり続けることができるのだから。これが二つ目の目的である。
 ただ、任せた二人が失敗したら?そのときは本当にまずくなっているので、いやでも貴方は社長としてサボれなくなるだろう。ただ、いずれにせよあなたがサボり続ける限りその状態はやってきていたのだから、他人の責任にできるだけ気分はましだろう。
 もちろんこれ以外にも様々な対策は考えられるが、もしあなたが権限委譲なしにさぼっているのならば、大急ぎで権限委譲をすることをお勧めする。


より本質的な二つ目の対策はあなた自身にメンターを持つことだ

 さて、サボる社長、というのは矛盾を目の前にして逃げている状態である、と定義した。このサボる状態を自分で早期発見できれば、これをチャンスに変えることができる。
 なぜなら、サボるという行動をとるタイミングは、あなた自身が矛盾を感じはじめたタイミングだからだ。この矛盾に対してタイムリーに手を打つことが出来れば、矛盾を解消して、成長の踊り場を脱却しやすくなる。
 この状態で最も有効な手段は、メンターの設定である。メンターを設定するということは、自分はまだ成長する『のびしろ』があるはずだ、と信じて、今までとは違う考えを受け入れる準備をすることだ。
 メンターとしてどういう人物を設定するかは、あなた自身の性格と相性によるところが大きい。体育会系の社長ならば、同じ学校や同じスポーツ出身で、より経験の厚いメンターが適しているだろう。理論派の社長ならば、あえて感性派のデザイナーをメンターとすることも面白い。

 多くの名経営者と呼ばれる方々には、実はこのメンターがいることが多い。
だからもしあなた自身がサボっていると感じているなら、成長のチャンスが来た!と喜んでみてはいかがだろうか。
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