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コラム「研究員のココロ」

マクドナルド判決と残業マネジメント力

2008年03月24日 西條收


1.反響が大きいマクドナルド裁判の判決

 マクドナルド店長が労働基準法第41条2号に定める「監督もしくは管理の地位にある者」といえるのかどうかを争う裁判について1月28日東京地裁判決は、「店長は監督もしくは管理の地位にある者(以下管理監督者)とはいえず」とした。この判決は各企業の現場に大きな反響を呼んでいる。ここではその内容を整理し、経営的にそこから学ぶべき点について考えていきたい。

2.判決の要点整理

 管理監督者であるかどうかの判断基準は、以下の3点からみた総合判断とされている。

 <1>権限の有無⇒経営と一体的立場にあったといえるだけの権限があるか
 <2>勤務態様⇒労働時間の自由裁量性があるか
 <3>処遇の高さ⇒非管理監督者に比して十分な処遇であるか

 今回の判決では、上記の各判断基準について要約すれば下記の通りであった。
 <1>の権限の有無に関しては、権限がクルーと呼ばれるアルバイト社員への人事権等はあるが、正社員にはほとんどないこと、店舗運営に際してメニュー開発や商品価格の決定、企業全体の経営方針の決定等に関与している実態がないこと、などを理由に「経営と一体的立場にあったとはいえない」とした。
 <2>の勤務態様に関しては、時間帯ごとのシフト勤務でシフトマネージャーがいないときはその任にあたらねばならないことや、店長固有の業務遂行上長時間勤務が必要などの状況から、「労働時間の自由裁量性があったとはいえない」とした。
 <3>処遇の優位性についても、評価の低い店長の年収は、非管理監督者とされているファーストアシスタントマネージャーの残業を含めた年収より低いことから「非管理監督者に比して十分な処遇であったとはいえない」とした。

3.各企業の現場で議論となっている理由

(1)企業の管理監督者の実態と判決が求める管理監督者との乖離

 今回は日本マクドナルドという有名企業を巻き込んだ裁判であり、話題性があったという面もあるが、各企業の現場に大きな反響を呼んでいる理由は、本判決が要求している「管理監督者」と現在の企業の管理監督者の実態に比して大きな乖離があるという点であろう。現在多くの企業で管理監督者としているのは、概ね「課長以上」である(むろん名称に関わらず実態を見て判断する訳であるが)。この多くの企業の「課長以上」が、今回示された「事業全体」を「経営者と一体的立場で遂行する」「企業全体の経営方針の決定等に関与している」といった権限を持っている実態にあるかどうか疑問があるからである。また役職定年で役職を退いた者などを、処遇だけは優位性を確保しながら、上記の権限を与えないまま管理監督者として取り扱っているというケースなども考えられる。そうした現場の実態に今回の判決は警鐘を鳴らすものとなったところに、大きな理由がある。

(2)人件費増の懸念

 今回の判決の基準では、今までの多くのいわゆる「グレーゾーンの管理監督者」に残業手当を付与しなければならない、ということになる。それは今後どういう結果をもたらすのだろうか? 従来どおりの仕事のやり方を続けていった場合には、多くの場合(支給されるようになった場合の残業手当)>(従来の管理職手当等処遇の優位分)となる、すなわち人件費増になるものと考えられる。この層は企業の中でもいわゆる「油の乗り切った最も多忙な層」であり、残業も多い。人件費増も相当程度大きなものになるものと思われる。管理職扱いされなくなると、一般論としては本人のモラールダウンにつながりかねない等のメンタルな問題も考えられるが、企業の本音としては、この人件費増にどう対応するかが最も大きな問題であり、懸念される点なのである。

4.「残業マネジメント力」を再点検する

今回の判決を契機にここでは、前項の人件費増の懸念への対応として、次の通り「残業マネジメント力」の再点検を提案したい。

(1)「グレーゾーン管理監督者の残業の多さ」が問題

 仮に「グレーゾーン管理監督者」が管理監督者ではない、とされ残業をつけるという事態になっても、実質的な残業時間が少なければ、残業手当の大きな負担増の問題は発生しない。従来この層の「実質的な残業が多かった」というケースに人件費増が問題となるのである。マクドナルドの場合も、店長は月間39.28時間であったという。残業手当も相当の金額になるものと考えられる。残業を少なくする、ということが対応策として考えなれねばならないだろう。さて貴社の相当の層の実質残業時間はどうなっているだろうか?

(2) 「残業の多さ」を全社的問題として認識する

 グレーゾーン管理監督者だけの残業を問題にして解決策が見つかる訳ではない。その層が多いということは全社的にも残業が多いという場合が多い。「上になると部下が仕事をしているのに自分だけ帰ることはできないことが一般的であるからだ。近年ワークライフバランスに脚光が当てられているが、その観点からも部下も含めた全社的な残業時間削減に焦点を当てて考えていくべきだろう。

(3)残業削減は「残業マネジメント力」の強化から

 各企業でお話を聞くと、例えば
【1】残業の指示・命令が明確に行われていない
【2】形式上指示・命令があった形にはなっているが、実質は放任
【3】管理監督者は残業を具体的な自部門コストとして意識していない
【4】「お客様の都合」や「取引相手の都合」が「残業は減らせないものだ」という言い訳理由になっている
【5】まだ「残業している社員が忠誠心のある社員」と考えている
【6】「当社の社員は「残業を厭わない=残業記録をつけない」良い社員だ」と考えている経営者がいることがある
【7】仕事範囲が狭く限定され、担当者のやっていることに口が挟めない
【8】残業の原因となる仕事そのものの見直しが行われていない

 等の要因のため残業が本来必要な以上に増えているケースが少なくない。「真に必要な残業を必要なだけ実施するようにコントロールする組織的対応力」を「残業マネジメント力」と呼ぶことにすると、まずこうした要因の解決=残業マネジメント力の強化を行うべきであろう。「残業マネジメント力」の強化を図ってもなお残業が多い、ということならば、それは「仕事量に比して人が足りない」ということであり、人を増やすことにより解決しなければならないのである。こうした「残業マネジメント力」のレベルは自社の場合どの水準にあるのか、この「残業マネジメント力」強化によって相当程度の残業削減が可能となるだろう。

(4)自社で「残業マネジメント力」強化に取り組む

 ではどのように、「残業マネジメント力」強化に取り組んだら良いか。

1)自社の残業要因を分析

「残業マネジメント力」の強化は、まず自社の残業が必要以上に多いのか、その要因を分析することから始める必要がある。前項に幾つか要因を掲げたが、自社の場合そのどれに該当するのか、をヒアリングやアンケート調査により掴むことが良いだろう。多くの場合、その要因は複合的であり、各企業によってそのウェイトは違うが、大きく意識の問題、残業管理方法の問題、仕事の体制そのものの問題などに区分することができる。それらの問題解決に一つ一つ取り組んでいくことが大切である。

2)残業要因別対策例

 ここでは、上記の要因別対策の例について考えてみよう。

(イ)意識の改革・・・管理者、従業員とも残業に対する意識を変えてもらう必要があるが、最も影響度が大きいのはトップの残業に対する意識であり、トップ自身が時間外勤務をしない、率先して時間外勤務者に対して関心を示す、等の具体的アクションがとれるかどうかが重要である。
(ロ)残業管理の改革・・・・事前申告・承認の徹底、目標時間外時間の設定、承認権限の再検討、部門経費としての目標設定等々の手法により、残業管理方法を見直していくようにすべきである。
(ハ)仕事の改革・・・・生産・業務計画の効率的設定、管理職のマネジメントレベル向上、業務手順の見直し、要員管理の徹底等々の方法により、仕事そのものを改革していくことが大切だ。

 以上、マクドナルド裁判の判決から、「残業マネジメント力」強化の必要性と対策について述べてきた。今一度本判決を貴社の問題として捉えなおし、「残業マネジメント力」の強化に取り組んでみられたらいかがだろうか?
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