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コラム「研究員のココロ」

現実となった税金のクレジットカード納付

2006年05月08日 高村 茂


1.ようやく取り組めることとなった税のクレジットカード納付

 わが国のクレジットカードの市場は順調に拡大を続け、一般の店舗はもちろんオンラインショップの主要な決済手段としても定着しているところである。
 一方で、公共マーケットに目を転じると、水道料金に代表される「料」や自動車税に代表される「税」については、クレジットカード決済が全く利用できない状態が続いていた。諸外国では、官民の分け隔てなく、また、対面であってもオンラインであってもクレジットカードが利用できることを考えると、遅れている感は拭えなかったところである。
 しかし、後述するように、税のクレジットカード納付については実施できることが明確となり、具体的な活動も始まったところである。
 ここでは、まず税金のクレジットカード納付の基本的な考え方とメリット等を中心に述べておきたい。


2.クレジットカード納付の法的根拠と相応しい税目

 構造改革特区の募集に対し、大阪府とJCBが「料のクレジットカード納付を特区で行いたい」との提案を行った際、国が出した見解は「料は法律上できないが、税については現行法制度上可能である」というものであった。
 この根拠は、「地方税については、地方税法第20条の6に『第三者納付』が規定されていることから、立替払方式であれば、クレジットカードを使って納付を行うことは、現行制度上可能である」とされている。
 なお、税納付については国民の義務であり、その徴収に当たっては公的権力を執行できる位置づけにあることから、債権譲渡という概念はなじまないとされる。
 また、公共の料については、第164国会において、クレジットカード納付ができるように地方税法の改正案が提出されているところであり、まもなく料についてもクレジットカード決済が導入できることになると考えられる。
 次に、対象とすべき税目であるが、わが国では給与所得者が多く、税の源泉徴収も進んでいるので、所得税や市町村税はクレジットカード納付の対象とはなりにくい(将来的には可能性あり)。
 したがって、税のクレジットカード納付を導入するに当たっては、毎年納税通知書が住民の手元に送付されてくるタイプの税、具体的には、都道府県税としての「自動車税」、市町村税としての「軽自動車税」「固定資産税」が適当であると考えられる。


3.市民側のニーズ
 図1をご覧いただきたい。これらは毎年住民に対して納付書が送付される税の支払いチャネルを示したものである。

税の納付方法
図1 税の納付方法
出典:ビザ・インターナショナル調査


 銀行や郵便局、コンビ二などの窓口まで出向いて支払っている人の割合は、自動車税では全体の80%以上、軽自動車税では75%以上となっている。口座振替率の高い固定資産税でもその割合は半分以下であり、多くの納付者が手元に比較的多額の現金を準備し、わざわざ出向いて納付していることがわかる。
 これらの回答者に対して、税金がクレジットカードで納付できるようになったら利用したいかという意向を尋ねてみると(図2)、「是非クレジットカードを利用したい」と「たぶん」という前向きな回答まで含めると、6割程度が税金のクレジットカード納付に肯定的であることが分かる。

クレジットカードによる税の納付意向
図2 クレジットカードによる税の納付意向
出典:ビザ・インターナショナル調査


 すなわち、納税者側のクレジットカード納付のニーズは十分にあるということである。


4.クレジットカード納付の方法

現時点では、次の4つの納付方法が考えられる。
  1. 申込書による事前登録による納付

  2. インターネット上の納付サイトによる納付

  3. 電話の自動応答による納付(IVR)

  4. 市役所窓口等のクレジットカード端末による納付

 a については、口座振替の申し込みと同様の手続である。b 及び c については、各自治体で構築する方法と、中立的な民間企業が運営するものをASPで活用する方法が考えられる。
 そして、我々は b 及び c の二種類を推薦している。なぜならば、クレジットカードの活用は、オンライン決済のチャネルとして確立させることにメリットがあると考えているからである。
 c の窓口に端末を置いてクレジットカード払いを実現する方法もあるのではないかと思っている向きも少なくないと思われるが、この場合は結局窓口まで住民は行かなければならないデメリットがある。また、今まで役所の中に存在しなかったクレジットカード決済のオペレーションを職員が新たに行わなければならない。さらに、端末から出てくるレシートには住民のカード情報が記載されており、個人情報として管理・保管しなければならないことになる。
 このような種々の条件を勘案し、我々は窓口納付についてはお勧めしていない。


5.クレジットカード納付のメリットと課題

(1)納税者側のメリット
  • インターネットや電話により、自宅に居ながら24時間決済が可能

  • 現金を持ち歩かなくて良い/その時にお金が無くても支払うことが出来る

  • クレジットカードの利用により、ポイントを獲得

  • リボ払い・ボーナス払い等支払いのバリエーションが増える

  • 他の家計支払い(日用品・携帯電話等)との一元管理が可能

  • など

(2)行政側のメリット
【行政サービス面】
  • 納税者に対する利便性向上の実現

【コスト面】
  • 日本中に(世界中に)決済ネットワークが張り巡らされており、公共セクターが利用するためのコストが低い

  • 公金納付の場合、納付サイトを自庁で構築する場合を除けば、クレジットカード決済はASPサービスとなり、初期コストがほとんどかからない

【業務改革面】
  • 現金及び納付書を取り扱わないことにより、事務手続きが電子化され、効率化につながる

  • 指定金融機関へ入金するまでの期間が短く、事務処理の効率化につながる

  • 新たな収納チャネルの追加により、収納率/期限内収納率の向上が期待
など

また、電子自治体を推進するという視点からすると、費用対効果、実現までの時間的効果のいずれも見込むことができると考えられる。すなわち、初期投資額が小さく、短期間で実現できるオンライン決済の方法として、魅力度は高いということである。

(3)課 題

 課題は端的に言って、手数料に尽きると考えられる。
 通常のクレジットカード決済のルールに則って、当然のことながら、税のクレジットカード納付の場合にも一件あたりの手数料が定率でかかることとなる。
 既に独立行政法人となった国立病院機構の8割以上にクレジットカード決済が導入され、手数料は病院機構負担という通常のスキームで導入されているところであるが、今地方自治体にクレジットカード納付を導入できるのは税だけである。
 現在の税の納付チャネルは、銀行・郵便局の口座振替及び窓口収納と一部自治体におけるコンビニ収納である。そして、銀行・郵便局の口座振替及び窓口収納については、手数料は限りなく0円に近く、コンビニ収納においては最大で60円/件という定額制になっている。すなわち、今回導入しようとする「定率」の手数料という概念がこれまで公共にはなかったものである。
 当然、クレジットカード決済を提供する民間企業側からすれば、この定率制という基本スキームは維持されなければならないものである。一方で、総務省は、「地方団体がクレジットカード会社に対して手数料を支払う契約とする場合は、当該手数料の水準については、他の支払手段における手数料との均衡を考えながら、当事者間で適切に決定していただくべき」という課長通知を提示しているところである。
 今後、手数料の利用者負担も含め、どのように負担先を決定していくかということが大きな課題となってくることは疑う余地がない。


7.コストメリット

 ビザ・インターナショナルが調査したA県とB市のデータに基づくコストスタディにおいては、クレジットカード納付の導入により、滞納者に対する督促コストが低減することが分かっている。
 また、自動車税と固定資産税については手数料負担が大きいため、手数料を自治体負担とした場合には自治体の持ち出し分は現状よりも大きくなるが、税額の平均額が3千円に満たない軽自動車税で考えれば、平均手数料は30円程度とコンビニ収納の手数料よりも低い金額になり、コストメリットは明瞭である。
 そして、利用者からすれば、コンビニにすら出かけなくてよいというメリットがあり、行政側にはコンビニ収納よりも指定金への入金が早いというメリットがあることを考えると、クレジットカード納付の導入は、十分合理的であると考えているところである。
 このメリットを検証するため、私どもは、藤沢市とクレジットカード決済に関連する企業とで共同研究体を組成し、藤沢市の平成18年度軽自動車税についてクレジットカード納付を行うこととした。内容については次のページを参考されたい。
2006年2月10日プレスリリースへ
クレジットカード公金収納フォーラムのページへ
この実証研究の結果については、また機会を改めて報告することと致したい。


8.クレジットカード納付の今後の展開

 この新たな仕組みが社会に受け入れられるためには、住民、自治体、クレジットカード関連企業の皆がWIN-WINになる事業スキームとなっている必要がある。
 我々はこのスキームを確立し、公金のクレジットカード納付サービスが新たな社会の仕組みとして定着するところまで、インキュベーションのお手伝いをしたいと考えているところである。
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