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コラム「研究員のココロ」

「マーケティング」と「営業」の関係とは?

2007年02月26日 白石宗基


 そもそも「マーケティング」とは?

 ある時、中堅食品メーカーのD社から「今度、マーケティング部を新設することになったので相談に乗って欲しい」というご依頼を受けました。早速お伺いし、社長はじめ経営幹部の方々より詳しいお話をお聞きしました。
 D社の組織は大括りすると「製造部」と「営業部」で構成されています。新商品開発は社長と製造部が中心になって行っていました。典型的な「作って」「売る」会社です。経営幹部の皆様方は「うちは売るのがヘタだ」、「作ったモノをいかに上手く売るか」、これこそが当社の課題である。だからこの度「マーケティング部」を新設することにした、と口々におっしゃいます。ただ、社長だけは「本当にそうなのか?」と思っておられるようでした。

 マーケティング機能には、確かに「作ったモノ」を「いかに上手く売るか」という側面があるのも事実です。しかしながら、本質的には違います。メーカーがマーケティング機能を持つということは、「作って」「売る」だけから、「売れるように創って」「作って」「売る」という仕事のやり方に変えることなのです。

図表



 なぜそんなことをするのか? 「作って」「売る」では経営としての不確実性があまりに大きく、「大失敗」のリスクを負っているからです。では、「売れるように創って」「作って」「売る」に変えるとどうなるか・・・。「大ヒット」「大成功」するかどうかは分かりません。しかし「大失敗」することはなくなります。これは間違いありません。筆者は、マーケティング機能を導入、強化することで、経営体としての「大きなリスク」を低減させることができる(コントロールすることができる)と考えています。

 もう一点。D社にとって大事なのは「マーケティング部」を新設することではなく、「マーケティング機能」を導入することです。「売れるように創る」機能を、どこかが、誰かが担えばいいのです。当初は営業部門がマーケティング機能を担ってもいいし、製造部門が担っても構いません。D社の場合、最初は営業部門と製造部門の担当者数名がプロジェクトチームとしてマーケティング機能を担いました。そして1年後、正式に「マーケティング部」として組織化されました。

 消費財メーカーにみる「マーケティング」と「営業」の役割分担

 時間を少し元に戻します。D社の経営陣に「売れるように創って」「作って」「売る」ことの意味をご理解いただき、営業部門と製造部門でプロジェクトチーム(マーケティングPT)を作ろうとした頃、今度は次のような問題提起がなされました。
 「マーケティングPTのメンバーはどのような仕事をすることになるのか? 製造部門や営業部門との役割分担がもっと明確になってから正式に皆に話をしたい。特に営業部門から戸惑いの声が上がっている。」

 企業において、「営業」と「マーケティング」の関係がうまく整理されていないのはよくある話です。D社のケースで、もう少し深く考えてみましょう。
D社の流通経路は次のとおりです。「D社 ⇒ 卸 ⇒ 小売 ⇒ 消費者」という、これも我が国の消費財メーカーに典型的にみられる流通経路です。今回は話を分かりやすくするために「D社 ⇒ 小売 ⇒ 消費者」とします。

図表



 D社は食品メーカーですが、自らの製品をお客様(消費者)に直接お届けできる自前の「顧客接点」を持っていません。従って、小売業者というよそ様の「接点」に自らの製品を配荷することに懸命になります。この自らの製品を小売業者に配荷するための一連の活動を、D社では「売る」と言っていることになります。
 マーケティング機能を導入するということは、「売れるように創る」機能を企業に加えることだと申し上げましたが、この場合の「売れる」とは、小売業者という「顧客接点」に売れるということではありません。最終のお客様(消費者)に売れるように創る、つまりお客様から手に取っていただけ、買っていただけるような製品を創ることなのです。

図表



 整理しましょう。消費財メーカーにおける「営業」と「マーケティング」には、明らかな「役割の違い」があります。
「マーケティング」の役割は、お客様(消費者)との関係づくりです。この関係づくりを通じて、最終需要を創造することです。但し気を付けなければならないのは、ここでは「売れるように創った」だけであって、まだ「売れていない」という点です。つまり、マーケティングは「価値可能体」を創造する役割を担っているのです。
 一方、「営業」の役割は、小売業者など「顧客接点」との関係づくりです。「マーケティング」がいくら素晴らしく「創って」も、それは「価値可能体」に過ぎず、まだ「実現」していません。小売業者にその素晴らしさを伝えるための商談を行い、お店に配荷できて初めてお客様(消費者)の目の前に並ぶのです。「価値可能体」を「価値実現体」にすること。これが「営業」の役割です。

図表



 D社のマーケティング活動は試行錯誤を繰り返しながら、徐々に機能し始めています。マーケティング部門の人たちは、お客様(消費者)との関係づくりに七転八倒しています。ただ、お客様の生の声に晒されて、これまでになかった「手応え」や「やりがい」を感じています。営業部門の人たちは、お客様とのやり取りを通してできあがった製品を、小売業者に懸命に売り込んでいます。相変わらず商談は厳しいのですが、「お客様からの評価データ」を使った売り込みに取り組んでいます。一歩一歩ではありますが、D社は着実に変わり始めました。
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