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Business & Economic Review 2008年02月号STUDIES

サブプライム問題発生のメカニズムとアメリカ経済・金融への影響

2007年12月24日 調査部 金融ビジネス調査グループ 研究員 李立栄



要約

  1. アメリカを震源地とする「サブプライム問題」が世界中を揺るがせている。サブプライムローンは
    本来自らの所得の範囲内では元本も金利も返済できないような信用力の低い層への貸出である。サブ
    プライム向け住宅ローン残高は、アメリカ住宅ローン市場の規模10兆ドルの14%を占めるに過ぎない。
    近年では、サブプライム以外にも、プライムとサブプライムの中間に位置するAlt-A(同11%)や、
    GSE(政府支援企業)保証適用外のジャンボと呼ばれる住宅ローンも拡大している。サブプライム
    ローンが急拡大した背景として、a.グローバルインバランスの拡大に伴う世界的な過剰流動性、b.国
    際資金のアメリカへの大量流入、c.世界的な資産インフレの発生、d.アメリカにおける住宅供給・需
    要両サイドの要因が指摘できる。

  2. サブプライムローンは、MBS(資産担保証券)の形で証券化され(RMBS、住宅ローン担保証券)、
    世界中の多様な投資家に販売されてきた。サブプライムローンを原資産とする証券は、2006年末時点
    で8,500億ドルと、MBS市場全体(5.7兆ドル)の15%を占めている。こうした証券化商品は、主とし
    てアメリカ大手証券会社によって住宅ローンの組成から証券化、アセット・マネジメント、傘下のヘ
    ッジファンドを通じた投資に至る、あらゆるプロセスを自社グループ内で完結する「垂直統合型」と
    も言うべきビジネスモデルによって拡大してきた。さらに、近年ではこれらRMBSを複数束ねた優先
    劣後構造(シニア、メザニン、エクイティ)を持つCDO(資産担保証券)という複雑な再証券化商
    品が現れ、ヘッジファンドも含めて世界中の投資家の投資対象となっている。

  3. 最近の流動性危機は、グローバル・クレジット・クランチとも言うべき金融システム危機発生のリ
    スクを高めている。まず、2006年末から2007年春にかけての第1ステージでは、住宅金融専門会社の
    破綻と、変動金利型サブプライムローンを中心とする延滞率・差し押さえ率の上昇が大きくクローズ
    アップされたが、夏場の第2ステージでは、大手証券会社傘下のヘッジファンドの破綻を契機に、
    RMBSやCDOの格下げラッシュと証券化商品の価格急落の悪循環を招き、その資金調達手段であっ
    たABCP(資産担保CP)市場の機能不全、さらには短期金融市場における流動性危機を招くことと
    なった。さらに、秋口以降の第3ステージでは、欧米大手金融機関の決算において巨額のサブプライ
    ム関連の損失が次々と明るみに出て、流動性危機は金融システム危機の様相を呈している。欧米大手
    銀行は、condiutやSIVsと呼ばれる連結対象外の子会社を投資Vehicleとして使い、RMBSやCDOなど
    の証券化商品に積極的に投資してきたが、これら証券化商品の価格急落が損失を拡大させている。

  4. サブプライム問題のマクロ経済への影響を考えると、a.関連産業の雇用減少、b.需要減少と在庫増
    加による住宅市場の調整長期化、c.住宅価格下落による逆資産効果とキャッシュアウト効果の剥落を
    通じた個人消費への影響、など様々なルートを通じてアメリカ経済を下押しすると見込まれる。今後
    を展望しても、a.サブプライムでのデフォルト率のさらなる上昇、b.サブプライムからAlt-Aやジャ
    ンボ市場への影響波及、c.2009年にかけてのARMの金利リセットの大量到来など様々なリスクに注
    意する必要がある。一方、サブプライム問題の金融資本市場への影響としては、a.商業用不動産ロー
    ンを含めた金融機関の貸出基準のさらなる厳格化、b.クレジットカードの延滞、デフォルト率上昇
    c.投資家の「質への逃避」が続くことによるクレジット市場混乱、d.ABCP市場の収縮と短期金融市
    場における流動性不足などが指摘できる。今後のリスク要因として、a.サブプライム関連損失の拡大
    によって経営難に陥る金融機関の増加、b.モノライン金融保証専門会社など他の金融業態の経営悪化、
    c.LBOの減少によるM&A市場の縮小に注意する必要がある。

  5. サブプライム問題の悪化による金融機関の損失拡大の可能性については、様々な議論・試算がある。
    その幅は様々ながら、いずれも巨額の追加損失が今後発生すると予測している。本稿では、サブプラ
    イム問題の最悪シナリオとして、二つの試算を行った。最悪シナリオa.では、30%がデフォルト(回
    収率70%と想定)との前提で、証券化商品の損失と証券化されていない住宅ローンに発生する損失を
    合わせて、総額1,420億ドルの追加損失が発生すると試算される。試算の対象をサブプライムだけでな
    く、Alt-A/Alt-B、シンセティックCDOに拡大した最悪シナリオb.では、グローバルなサブプライム関
    連の損失は合計で4,636億ドルに達すると試算される。

  6. 今回のサブプライム問題発生の原因として証券化技術の問題が指摘されている。確かに、複雑な証
    券化の仕組みがリスクの所在と規模を不明確にしたことが、家計、銀行、証券会社、格付け会社、投
    資家など様々な金融主体のリスク評価に緩みをもたらし、規律の低下を招いたことは否めない。しか
    し、問題の根因は、グローバルインバランスが生み出した過剰流動性にある。この過剰流動性の源と
    なっているのが、オイルダラーやアジア中央銀行、ヘッジファンド、プライベート・エクイティファ
    ンドの四つのニューパワーブローカーの存在である。過剰流動性は、インフレまたは資産価格の暴落
    という形で、いずれは収縮に向かう。この四つのパワーブローカーは、今後予想される過剰流動性収
    縮局面でも大きな役割を果たすこととなろう。

  7. 現下のサブプライム問題に対して、欧米金融機関は様々な解決の道を探ろうとしている。シティグ
    ループをはじめとするアメリカ大手3行が提案したサブプライム証券化商品の買取基金であるMLEC
    は、日欧金融機関の協力が得られず創設を断念した。しかし、各銀行はSWF(ソブリン・ウェ
    ルス・ファンド)と呼ばれる中東マネーやアジアマネーの出資を受けて増資に踏み切り、連結対象外
    となっているSIVsのオンバランス化に踏み切った。オンバランス化は、情報開示を通じて経営の透
    明性を高めるメリットがある一方、サブプライム証券化商品の価格下落に歯止めがかからない場合に
    は、直接自己資本を毀損するリスクを高めるものであり、まさに「両刃の剣」である。

  8. 各国当局は、流動性危機に対応するため、2007年夏場に続いて12月にも協調して大規模な資金供給
    に踏み切った。またサブプライム問題の震源地であるアメリカではFRBによる果断な利下げに加えて、
    ブッシュ政権による金利変更5年間凍結を含む「サブプライム救済策」が打ち出された。現時点で、
    これらの施策がどこまで有効性を持ちえるかは不透明だが、問題の本質は「流動性の危機」にあるわ
    けではない。住宅市場の調整や金融資本市場における自律的な「リスク・リプライシング」という厳
    しい調整を経ることなしに解決は容易ではないとみておく必要があろう。

  9. 今回の問題で最後に残った重要な課題は、会計上の問題である。2007年11月に導入されたアメリカ
    の新会計基準(FAS157)では、CDOなど金融機関間でほとんど取引のないレベル3資産について、
    市場データを使って評価するよう求められ、これが大幅な損失計上につながった。また、SIVsを連
    結対象外として活用したビジネスモデルを許容したことに会計上問題がなかったのかどうか、改めて
    吟味し対応していく必要があろう。今回の問題の教訓として、国際金融市場における証券化技術の活
    用が真に効率的な資源配分とリスク配分の実現を可能とするためには、銀行規制・監督の在り方や、
    国際会計基準のルール作りも含めて、市場環境を整備していくことが求められよう。