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アジア・マンスリー 2005年5月号

東アジアで加速する少子化

2005年05月01日 大泉啓一郎


近年、東アジア全体で少子化と労働力の熟年化が進んでおり、経済への影響が懸念され始めている。東アジアの持続的な経済発展の観点から少子化への地域レベルでの取り組みが求められている。

■東アジアの出生率は発展途上国レベルから先進国レベルへ低下2005年3月に国連が発表した人口推計によると、世界人口は2000年の61億人から2050年に91億人へ増加する。ただし人口増加率は、1950年から2000年の年平均1.8%に対して、2000年から2050年は同0.8%へ低下する。これは世界的な少子化を考慮したもので、合計特殊出生率(一人の女性が生涯を通じて出産する子供の数)は1995~2000年の2.79から2045~2050年には2.05へ低下する。

もちろん少子化のトレンドは地域によって異なる。たとえば欧州の合計特殊出生率は、1950~55年の2.66から1995~2000年には1.40へ低下した。他方、アフリカは同期間に6.72から5.26へ低下したものの水準はいまだ高く、低下率も小さい。そのなかで東アジア(日本、韓国、香港、シンガポール、中国、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア)は、同期間に4.90から2.08へと大幅に低下した。

■東アジアでの少子化の加速
東アジアの国・地域別に合計特殊出生率をみると、香港が0.94、韓国が1.19、シンガポールが1.26と日本の1.29を下回っている。さらにタイや中国でも、それぞれ1.8、1.9と人口が安定的に推移するとされる2.1(人口置き換え水準)より低い。

国連推計によれば、東アジアの人口は2000年の18億2,800万人から2050年には20億8,900万人に増えるものの、増加率は年平均0.3%と世界平均を大きく下回る。これにより、全世界に占める東アジアの人口のシェアは2000年の30.0%から2050年には23.0%へ低下する。

今後も少子化に歯止めがかからなければ、東アジアは急速に高齢社会に向かうことになる。東アジアの高齢化率(65歳以上の人口のシェア)は現在世界平均付近(7%程度)にあるものの、2025年には13.7%、2050年には23.0%へ急上昇する。高齢化のスピードを、高齢化社会(高齢化率7%以上)から高齢社会(同14%以上)に到るまでに要する期間でみると、韓国やシンガポールがそれぞれ18年、16年と、日本の24年よりも短い。この推計では韓国の場合、合計特殊出生率が2000年~2005年の1.23から2045~2050年には1.77へ上昇することを前提としており、少子化に改善がみられない場合には事態はより深刻化する。また中国についてみると、例えば上海市では、一人っ子政策が進められてきたため、合計特殊出生率は長期間日本よりも低い水準にある。その結果、2003年の同市の高齢化率は16.4%と日本とほぼ同水準となっている。これに対し、2003年12月に上海市人民代表大会常務委員会は「人口および家族計画に関する条例」を発布し、条件付きで第2子の出産を認めた(2004年4月15日から施行)。しかし、中国のように強制的な人口抑制策がなくとも、東アジア全体で出生率が急速に低下している現状を考えると、条件付き緩和策だけで少子化に歯止めがかかるとは考えにくい。

■少子化が東アジアの労働力に与える影響
少子化は労働力の質と量の両面に影響を及ぼし始めている。前に定義した東アジアの生産年齢人口(15歳~64歳)は、2000年の12億3,600万人から2025年には14億3,041万人に増えるが、伸び率はすでに低下傾向にある。日本の生産年齢人口はすでに減少に転じており、今後、2010年から2015年にアジアNIEsと中国が、2025年から2030年にASEAN4が減少に向かう。

他方、生産年齢人口の構成が変わるという質への影響がある。生産年齢人口を15~29歳の若年労働、30~59歳の熟年労働、60歳以上の高齢労働に区分すると、1985年に全体の46.0%を占めた若年労働は2000年に37.6%に、2025年には28.0%に低下する。他方、熟練労働のシェアは同期間に49.5%から57.4%、63.1%へ上昇する。すなわちアジアの労働力は熟年労働中心にシフトすることになる。

このような労働力の量と質の変化に対処するためには、教育制度の見直しや企業の研究開発の促進を通じた生産性の向上に加え、高齢者の就業機会の拡大、女性の社会進出の促進を図ることが必要となる。他方、熟年労働者の経験と知識を生かせるような制度作りと経営改革が求められよう。また、労働者が生涯にわたって技術レベルを高められるような支援制度も現段階から構築する必要がある。

とはいえ、労働力の熟年化・高齢化の抜本的解決には、加速する少子化への対処が不可欠である。いまや少子化は東アジア諸国が共通して直面する課題であり、また解決策を見出せていない課題である。少子化は、エネルギー、環境、食糧問題と同様に東アジア諸国が協力して取り組むべき課題となっているといえよう。「平成16年度少子化社会白書」で示されたような「安心して子供を生み育て、子育てに喜びを感じることができるように、あるいは子供の出生や子育てにメリットがあると実感できる施策」は、東アジア全体で求められている政策である。少子化対策を政策課題としていち早く取り組んできた日本にはリーダー的役割が期待される。