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アジア・マンスリー 2018年11月号

タイのEEC開発と中国の一帯一路構想

2018年10月25日 大泉啓一郎


タイ政府は、先進国入りを目指す「タイランド4.0」の実現のためにEEC開発計画を本格化させている。そのなかで中国政府との協力、中国企業の誘致を加速させており、日本企業の対応が注目される。

■タイランド4.0とEEC開発
タイランド4.0とは、中所得国の罠を回避し、先進国入りを目指す成長戦略のビジョンである。これまでのタイの経済社会構造の変化を農村社会(タイランド1.0)から軽工業中心の工業化(タイランド2.0)、重工業中心の工業化(タイランド3.0)と区分し、こ今後目指す先端技術産業がけん引するイノベーション主導型経済をタイランド4.0と命名したのである。

そして、タイランド4.0を実現する担い手(ターゲット産業)として、①次世代自動車、②スマートエレクトロニクス、③メディカル・ツーリズム、④農業とバイオ技術、⑤食品加工、⑥ロボット、⑦物流と航空機産業、⑧バイオ燃料とバイオ化学、⑨デジタル、⑩医療機器産業を指定した。

さらに、この「タイランド4.0」を実現する場所としてバンコク東南部に位置するチョンブリ県、チャチュンサオ県、ラヨン県の3県をあげ、これを東部経済回廊(EEC)と名付けた。同地域の開発に、総額1兆7,000億バーツ(約6兆円)を投じる計画である。「EEC開発法」が2018年5月に施行され、具体的な計画を決定するEEC政策委員会(首相が委員長)と、その実行を担うEEC政策事務局からなる体制も整った。EECへの投資のなかでもとくに重要とみなされるものは、EEC政策委員会が、他の投資を管理するBOI(タイ投資委員会)の恩典を超える優遇措置を決定できることになっている。

■高まるタイ政府の中国への期待
前述した10業種の育成とEECのインフラ開発については、外国からの投資・支援に期待しているところが大きく、タイランド4.0の実現は楽観できない。ただし、タイの歴史を振り返れば、アユタヤ王朝時代から外国の力をうまく活用してきたという特徴がある。1980年代後半以降の高成長も、外資企業の進出がなければ実現は困難であっただろう。その点はタイ政府も強く認識しており、EECへの外資誘致には過去最大の優遇措置を準備することに加え、政府首脳は、海外での大規模なデモンストレーションを行っている(日本では東京と大阪で開催)。

近年は、中国政府と企業への期待を高めている。

2018年8月下旬には、中国から500人を超えるEEC視察団を招き入れた。その際に行われたキーノート・スピーチで、ソムキット副首相はタイ政府が中国の一帯一路を支援することを明言した。続いてカニットEEC政策事務局長は「一帯一路とEEC:未来に向けた連携」というタイトルのプレゼンテーションを行った。

一帯一路とは、2013年に習近平国家主席が示した対外協力戦略である。そのなかで、雲南省(昆明)からラオスを縦断し、タイのレムチャバン港へと抜ける回廊も戦略の一つに位置づけられるようになった。これはアジア開発銀行(ADB)が主導で進めてきたGMS(大メコン圏)開発に含まれる「南北経済回廊」と一致するものである。タイ側からみれば、EECは中国を経由して欧州へとつながる新しい物流網となる。すでに、中国政府の支援によるラオス縦断鉄道は2021年に完成する予定で、ラオス国境(ノンカイ)からバンコクに通じる高速鉄道の建設にも中国はタイに技術面で支援している。タイ国内を走る高速鉄道の完成には時間を要するものの、タイは自力で在来線の複線化を進めており、これによっても南北経済回廊の貨物輸送は促進されることになろう。

タイ政府の中国への期待は、一帯一路構想に基づくインフラ整備だけではない。タイランド4.0を実現する担い手育成のための中国企業の誘致にも積極的である。カニットEEC事務局長は中国の国家プロジェクトである「中国製造2025」に含まれる電気自動車やデジタル産業のタイ進出を期待すると表明し、タイ大手企業CPグループは中国企業向け工業団地をラヨン県に建設することを発表した。米中貿易摩擦が長期化すれば、その回避手段としてタイ進出が増加するかもしれない。2018年9月にはファーウェイ(華為技術)が、チョンブリ県にデータ・センターを開設し、公共クラウドサービスを提供すると発表した。いまや、タイにとって中国は輸出入ともに最大の相手国となっている。2018年にはASEAN中国FTAの枠組みのもと例外品目とされてきた「センシティブ品目」の関税率が5%以下に引き下げられたことで、関係はさらに深化する見込みである。

■注目される日本の対応
実際のところ、EEC開発は、すでに工業地帯化している東部臨海工業地帯のバージョンアップである(同地域の工業生産は全国の3割超)。この地域には日本企業の多くが活動しており、たとえば、日本企業の投資案件(BOI認可)のうちチョンブリ県、チャチュンサオ県、ラヨン県向けが4割に達している。つまり、日本企業にとってEEC開発は、タイにある生産現場の競争力強化に資する重要な政策である。

日中政府は9月25日、北京で「日中民間ビジネスの第三国展開推進に関する委員会」を開催した。この第三国における民間経済協力にタイのEEC開発が含まれるか否かは明らかではないが、タイ政府が中国政府との協力や中国企業の誘致を強力に推し進めるなかで、日本企業は、それをしたたかに自らの競争力強化に結びつけることができるように戦略を検討する必要がある。
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