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「医療技術の普及度」による中国省別類型

2018年06月19日 川崎真規



 筆者は「自社日中間での中国医療機器/消耗材市場に対する認識ギャップの有無を計る3つの指標」(2016年11月17日掲載)で、中国医療機器/消耗材市場に関する日中法人間の認識ギャップに焦点をあて、中国医療機器/消耗材事業に関して検証するべき以下3つの指標を提言した。
《検証指標》
 ①日本と中国の医療機器/消耗材市場規模は同等であっても、「医療技術の普及度」が異なるため、自社製品の特性に応じて「医療技術の普及度」を計る指標が日中間で共通して設定されているか。
 ②中国の省・直轄市(*1)単位(以降、省と記載)の「医療技術の普及度」の違いを評価すべく、日中法人間で、中国の省・直轄市単位の分類が共通認識化されており、毎年更新/評価されているか。
 ③自社の事業戦略や製品特性、人的要因なども踏まえ、中国医療事業を他国事業と同様に横並びで管理するか、それとも中国リージョンとして管理するか、判断できているか。

 本稿では、「医療技術の普及度」を測る指標として「省別人口10万人当たり年間手術数」を取り上げたうえで2014年と2016年の変化に着目し、「医療技術の普及度」の省別状況差が拡大したのか、その差異の背景要因を分析すると共に中国省別類型を示す。

1.「医療技術の普及度」の変化

 2014年の「省別人口10万人当たり年間手術数」では、5,000件を超えた地域は、上海市と北京市の2カ所であったが、2016年では、広東省が加わり3地域となった。特に、上海市は2014年の6,638件から年平均11.3%で増加し、2016年では8,226件となり、2014年同様に全国で最も多い(図1、図2)。

図1:省別人口10万人当たり年間手術数と省別人口分布(2016年)


(出典:「中国衛生統計年鑑」を基に筆者作成)


図2:省別人口10万人当たり年間手術数の年平均増加率(2014年→2016年)


(出典:「中国衛生統計年鑑」を基に筆者作成)


 次に、(図1横軸)省別人口の省ごとのばらつきの度合いと、(図1縦軸)省別人口10万人当たり年間手術数の省ごとのばらつきの度合いについて、2014年から2016年の変化に関して、変動係数を用いて表1に記載した。省別人口の省ごとのばらつきの度合いは、年平均増加率は0.2%とほぼ変化はなかったが、省別人口10万人当たり年間手術数の省ごとのばらつきの度合いは4.4%増加した。

 省別人口10万人あたり年間手術数の変動係数が年平均4.4%増加し、『医療技術の普及度』の省ごとのばらつきの度合いが拡大した。このことから、省別で医療事業環境分析や課題設定を検討・検証する必要性はより増したといえる。

表1:省別人口と省別10万人あたり年間手術数のばらつきの変化(変動係数)



2.「医療技術の普及度」の背景要因

 ここまで、省別人口10万人当たり年間手術数の全体的な動向を示した。本章では、省別人口10万人当たり年間手術数の2014年から2016年の増減要因ごとに各省を分類する。

 例えば、省別人口10万人あたり年間手術数が増加していても、年間総手術数が減少しそれ以上に人口が減少している場合もある。これらのパターンを整理すべく、横軸に省別年間人口増加率、縦軸に省別年間総手術数増加率を置き、省別年間人口増加率と省別年間総手術数増加率の増加率が同じとなる箇所に線(45度線)を引き、増減要因を分類した。

 すると、省別人口10万人当たり年間手術数の増減要因のうち、類型「増-1」に該当する「人口増加率プラス、かつそれ以上に手術数増加率が高い地域」は25あり全体の80.8%。類型「増-2」である「人口増加率マイナス、手術数増加率プラスの地域」は4つで12.9%。また、省別人口10万人当たり年間手術数の減少した地域は「宇夏」と「河北」の2地域であった(図3)。

図3:省別人口10万人当たり年間手術数の増減要因分類(2014年→2016年)


(出典:「中国衛生統計年鑑」を基に筆者作成)


3.「医療技術の普及度」での省別類型

 さらに、省別人口10万人当たり年間手術数、年平均増加率、省類型、省別人口を指標として、省の類型化を行った。その結果、省別人口10万人当たり年間手術数が多く(表2:L5,L4)、かつ年平均成長率もプラス成長している“上海市、広東省、北京市”は、中国を代表する3省といえ、これら省の重要度は引き続き高いといえる。
 次に、これら3省に続く省としては、省別人口10万人当たり年間手術数が平均より多い省(表2:L3)が挙げられ、さらにこの類型は2つに分類できる。1つが、年平均成長率が相対的に高い“湖北省、江蘇省、四川省、雲南省、陕西省”、もう1つが、年平均成長率が相対的に低い“浙江省、新疆維吾尔自治区、重慶市、天津市、宁夏回族自治区”になる。
 また、省別人口10万人当たり年間手術数が低い省においては、医療機器/消耗材の販売力強化以上に学術貢献など手技や検査技術の普及活動が長期的視点で重要な活動となり得る可能性があり、自社リソース/製品特性/競争環境/製品ライフサイクルなどに応じて省別販売施策を検討することが有用と考える。

表2:省の類型化(2014年→2016年)



 さらに、省別の詳細検討を進める場合は、診療報酬項目、診療報酬価格、省別医療機器経営品質管理規範の要求事項、医療消耗材省別高値集中購買(陽光購買)結果、省別医療消耗材二票制政策の状況、省別代理店と自社販売力の相対的競争優位性評価、顧客シェア評価などもあわせて検討するのがよい。

参考:「医療技術の普及度」と他指標の相関

 最後に参考までに、2016年の「省別人口10万人当たり年間手術数」と同一年の他指標との間の相関係数の分析結果を示す。対象指標として、SDGs(*2)の「大目標3:すべての人に健康と福祉を」の詳細目標と関連する指標、および筆者独自の視点を踏まえ57指標を選定した。(表3)

表3:相関関係を調べる対象とした57指標



 「省別人口10万人当たり年間手術数」と相関係数0.7以上のものは、「省別医師の診療人数/日(#31,#32)」、「省別平均入院費(#33,#34)」」、「省別一人当たり名目GDP(#44)」の5つである。(図4)

図4:省別人口10万人当たり年間手術数との相関係数(2016年)


(出典:「中国衛生統計年鑑」を基に筆者作成)


(*1) 北京市・天津市・上海市・重慶市
(*2) Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標): 2016年~2030年で達成するために掲げた国連サミットで採択された目標。17の大目標があり、大目標ごとに詳細目標がある。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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