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働き方改革に連動した 「デジタル化構想」の重要性

2017年08月01日 中瀬健一


働き方改革に取り組む企業の課題
 政府の働き方改革の実行計画が2017年3月末に公表された。改革には長時間労働の是正、在宅勤務の推進、職場環境整備など多くの課題が挙がるが、企業にとって最も大きな狙いは組織の生産性向上にある。働き方改革は、人口減少と少子化による働き手不足、働き方に制約のある社員の増加が見込まれるという、社会の構造的変化に対応する契機として推進するものだからである。既に重要施策の一つとして取り組みを始めた企業も現れており、例えば日本電産では、生産性2倍を目標に掲げ、2020年まで1,000億円という大規模な投資を働き方改革に行うことを宣言した。

本社のコミットによるデジタル環境整備が不可欠
 ただし「生産性向上」という目標自体は働き方改革の前から存在し、これまでも各企業で取り組まれてきた。従って、働き方改革といっても活動内容は従前と同様であり、新たな成果は望みにくい。特に社員一人ひとりの取り組みには限界があり、今後は本社による大胆なコミットが欠かせない。
 本社の主な役割は、全社的視点によるデジタル化をはじめとした設備投資と部門間の利害関係の調整、そして成果を見える化する仕組みづくりである。例えば、成果の定量・定性の評価項目を全社で統一化し、そのデータを収集・集計できるデジタル環境を整備することである。
 今のところ、店舗など作業現場内の社員の動線、パソコンでの書類作成やメール利用等の作業ログ、オフィス内のコミュニケーション履歴などの行動データの活用は、技術やコストの問題があり、まだ一般的ではない。しかしウェアラブル端末の発達によって、社員の行動のほか、睡眠やストレス状態の変化まで比較的容易に測定可能となった。行動データの活用によって働き方の改善効果を多面的に捉えるとともに、改善策の検討に役立てる環境が整いつつある。
 さらに、これまでヒトでしか解決できなかった業務課題も、最新のデジタル技術によって、費用対効果の高い解決が可能となってきた。例えば、RPA(Robotic Process Automation)を活用すれば、ヒトの定型的な作業の自動化が実現できる。複数の部門が表計算ソフトに入力したデータを自動集計し定型レポートへ自動的に反映させる、申請された交通費の経路と費用を外部ウェブの路線検索結果と突合・検証を自動化させる、といったことなどが可能となる。
 AI(機械学習)も実用化に向けた実証実験が活発化している。ある住宅・不動産企業では、ナレッジ登録時の識別・分類化を自動化し、また利用者の業務シーンに最適なナレッジをレコメンドできるナレッジマネジメントシステムの構築を進める。誰もがナレッジを利活用できる環境を整備し、社員の知識・経験のバラつきによる業務の非効率さを解消する。

「デジタル化構想」で働き方改革とデジタルをつなぐ
 AIの判断の良しあしはモデル(コンピュータが一定のアルゴリズムに基づいてデータから導き出すもの)の精度に依存し、モデルの精度はインプットとなるデータの質・量に大きく依存する。しかし、社内外に存在する有用なデータの全体像を把握し、利活用できるデジタル環境を持つ企業は少ない。それ以前に、所有するデータが不足・不正確であったり、また各所にデータが散在して統合的に活用できなかったりする企業も多い。例えば、既存システムのほかにクラウドサービスが部門ごとに乱立していると、必要なデータの抽出・加工に時間とコストが非常にかかり、AI導入の足枷となる。
 働き方改革の推進は、こうした非効率なデジタル環境の解消が大前提といえる。そこで、働き方改革で実現することを経営レベルで定義したうえで、必要なデジタル環境の全体像を描き、構成要素(ハード・ソフト、クラウドサービス、ネットワーク、モバイル端末、セキュリティ、運用等)の統合的な解決策と実行スケジュールを示す「デジタル化構想」の策定を行うことになる。
 AIなど最新デジタル技術適用には試行錯誤の面もある。当初計画の効果が出るまで時間がかかったり、働き方改革の内容も含めてデジタル化構想を見直したりするケースも想定される。また、「AIで全て解決可能」など過剰な期待も少なくないため、デジタル化構想の合意では解決範囲と実現性の共通理解を図ることも欠かせない。
 社会の構造的変化に対応する働き方改革の推進には、最新技術の真価を最大限活用できるデジタル環境の整備が不可欠であり、その基盤となる「デジタル化構想」は今後ますます重要となる。



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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