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アジア・マンスリー 2017年12月号

総じて堅調な成長が続く2018年のアジア経済

2017年11月28日 佐野淳也


2018年のアジア経済は、外需の回復持続に加え、内需の底堅い推移も期待される。中国経済の減速等で全体の成長率は若干低下するものの、景気は腰折れせず、総じて堅調な成長が続く見通しである。

1.景気は持ち直し基調
2017年のアジア経済は、前年後半からの景気の持ち直し基調が続いている。一部で一服感は出ているものの、4~6月期の実質GDP成長率(前年同期比)がマレーシアで9四半期ぶり、タイでは17四半期ぶりの高成長となったことに加え、7~9月期も韓国、台湾、ベトナム、タイで成長が前期より加速した。その背景として、以下の三つの要因を指摘できる。

第1に、輸出の増加である。個人消費にけん引された米国経済の回復や資源国経済が最悪期を脱したことを背景に、アジアの輸出は14年末頃からはじまった減少傾向を脱し、16年末頃から拡大に転じた。さらに、スマートフォンなどにけん引された世界的な電子部品需要の回復が、韓国や台湾の関連品目を中心に、輸出の伸びを加速させた。

第2に、内需の持ち直しである。例えば、ASEAN各国では、目先の景気対策にとどまらず、対内直接投資の拡大も目的として大規模なインフラ整備計画が発表され、徐々にではあるが実行に移されている。インドネシアなどでの直近の投資の拡大は、こうした公共事業の執行に伴うものとみられる。

インフレの低位安定も、内需持ち直しに寄与している。原油や農作物といった一次産品の価格は17年入り後、概ね落ち着いた動きを示している。世界的な低インフレ環境のなか、アジア各国・地域の消費者物価上昇率は総じて鈍化した。このような物価の安定が実質的な購買力を高め、民間消費を下支えしている。また、米国の金融政策正常化が緩やかなペースにとどまったことから、前回(16年12月)の見通しでリスク要因として挙げた海外への資本流出は短期かつ軽微で収束した。16年11月の米大統領選挙後からの通貨安進行に歯止めがかかったことから、通貨防衛やインフレ予防のための利上げは実施されず、当局は総じて金融緩和スタンスを維持している。インドネシア、ベトナム、インドでは、景気回復を確固たるものとするため、利下げが実施された。

第3に、中国景気の持ち直しである。インフラ投資の拡大を柱とする政府の景気刺激策の効果が発現したところに、民間部門の底入れが重なり、17年は政府目標(+6.5%前後)を上回るペースの経済成長が持続している。中国は、経済規模が突出(16年の購買力平価ベースではアジア全体の53%が中国)しており、その復調は、アジア経済全体に大きく寄与する。
なお、持ち直しが続いているにもかかわらず、2017年のアジア全体の成長率は前年比+6.1%と、16年並みの水準となる見通しである。総じて良好な経済環境のなかで成長率が伸び悩むのは、高額紙幣の廃止に伴う混乱やGST導入前の買い控えという一時的な特殊要因により、インドの成長率が前年を大幅に下回り、アジア全体の成長率に対する下押し圧力となることが主因である。

2.2018年は四つの要因に支えられ、堅調な成長
18年のアジア経済を展望すると、一部の国や地域の成長率は、政策効果の一巡などによる反動で17年を下回るものの、景気の失速には至らない見通しである。全体としてみれば、①外需の回復持続、②内需の底堅い推移、③国際的なマネーフローの安定、④中国経済の安定成長、の4点が景気の下支え要因になると見込まれる。以下では、これらの要因を個別に考察する。

(1)外需の回復持続
まず、外需は、世界景気の緩やかな回復傾向を背景に、18年も拡大が続く見通しである。もっとも、直近の輸出回復の勢いが強かった反動もあって、輸出の大幅な伸びは期待しにくい。

国別では、とりわけ米国経済の自律的な回復傾向を背景に、対米輸出の堅調が期待される。アジアにとって、米国は主要輸出相手の一つであることから、米国の堅調な成長持続はアジア景気にプラスに作用しよう。

品目別では、IT関連需要の動向が注目される。世界の携帯電話・スマートフォンの契約数は、18年以降も緩やかなペースで拡大が続くと予測されている(総務省『平成29年版情報通信白書』)。他にも、データセンターの設備増強、自動運転や物流分野での情報機器活用事例の増加のように、IT関連需要の中長期的な拡大持続に資する動きも顕在化しつつある。

もっとも、スマートフォン需要に関しては、普及率の上昇や買い替えサイクルの長期化を背景に、これまでのような急拡大は期待しにくい。より高性能なスマートフォンが販売されることを見越して、既存モデルへの切り替えを見送る動きも、一部でみられるようになった。これらを踏まえると、18年のIT関連需要は拡大の持続が見込まれるものの、そのペースは鈍化する可能性が高い。アジアでのIT関連製品・部品の輸出および生産は増勢を維持するものの、2017年ほどの力強さは期待できないであろう。

(2)内需の底堅い推移
内需についても、各国・地域で消費、投資、いずれも堅調な拡大が続く見通しである。

消費は、所得水準の上昇持続が拡大のけん引役となる。アジア諸国の1人当たりGDPは、依然として高めの伸びを続け、マクロの所得水準は着実に改善している。物価も、景気の持ち直しによる若干の上昇は想定されるものの、資源価格の安定や世界的な製品供給過剰の残存などを背景に、落ち着いた状況が維持される。所得増と低インフレの下、実質購買力が一段と高まり、消費の堅調な拡大に結び付くという構図は、18年も多くの国や地域で続くとみられる。

投資では、需要に対してインフラ整備が追い付いていない現状を受け、インフラ投資の堅調な拡大が期待される。例えば、インドネシアやフィリピンでは、前述した整備計画に基づく工事が徐々に進展し、成長押し上げに寄与していくと想定される。インドも17年10月に、道路建設を含む包括的な景気対策を発表したが、これが18年以降の投資の拡大、さらには経済成長の押し上げ要因となろう。

(3)国際的なマネーフローの安定
しばしばアジア各国・地域の弱点とされてきた国際的なマネーフローも、当面、経済のマイナスにはならない見込みである。最大の不安定化要因として懸念される欧米の金融政策正常化は、低インフレの持続および中央銀行の慎重姿勢により緩やかなペースで進むと想定されるため、マネーフローの混乱は掃除にくい。

また、アジア通貨危機を教訓に、アジア各国は外貨準備を積み増すなど、資金流出対策を強化しており、通貨危機へと至るリスクは低下している。前述の通り、16年の米大統領選挙以降に起きた通貨安の進行は一時的な動きにとどまり、直近(17年11月)では安定的に推移している。こうした状況は、貿易や消費、さらには対内直接投資の拡大にも追い風となるため、アジア経済の底堅い成長につながる動きといえる。

(4)中国経済の安定成長
中国が安定成長を続けられるか否かは、18年以降のアジア経済を展望するうえでの重要ポイントの一つである。結論を先取りすれば、中国経済は減速が避けられないものの、失速には至らない見通しである。中国政府は、住宅市場の過熱抑制、過剰生産・過剰債務の削減を柱とする構造調整に取り組むべく、政策スタンスを引き締め方向に移している(詳細は「中国」参照)。こうしたなか、当面、一連の引き締め策の効果を見極め、追加策を講じる可能性は低い。景気に想定を上回る下振れの兆しが現れた際には、財政出動等の対策を講じて、失速を回避すると考えられる。このように、政府のコントロール下で、中国経済は失速を回避しつつ、緩やかな減速に向かう見通しである。安定成長への軟着陸に成功するというメインシナリオの下、中国以外のアジア経済にマイナス影響は及ばない見通しである。

以上の点を総合すると、2018年のアジア経済は、前年と同程度の成長が期待できる。中国経済は+6.4%と、緩やかな低下が想定される。それ以外の国や地域では、外需の回復持続や内需の堅調な底堅い推移などで景気は腰折れせず、総じて堅調な成長が続くとみられる。インド経済は、政策的な下振れ要因のはく落もあって、+7%台への加速が見込まれる。これらの結果、アジア全体の成長率は+6.1%と、前年並みとなる見通しである。19年も、基本的な回復の構図は変わらない。中国は緩やかに減速するものの、その他アジア諸国が堅調を維持するため、全体で+6.0%の成長が予想される。

3.下振れリスク
内外需ともに、総じて堅調な成長が続くというメインシナリオに対し、下振れリスクとして次の3点が挙げられる。
第1に、中国経済の失速である。17年秋の党大会で一段と強まった習近平総書記への権力集中は、改革推進の原動力として期待される半面、政権内部でのチェック機能の低下などで経済政策の失敗をもたらすリスクもはらんでいる。

第2に、米国とアジアの通商摩擦である。トランプ政権は、米韓FTAの見直し交渉を開始し、中国以外のアジアとの間の貿易不均衡是正にも乗り出している。米国がアジア各国との貿易で軒並み赤字を計上するなか、中国・韓国以外に矛先が向く展開もあり得る。そうなれば、当該国は対米輸出の落ち込みなど、マイナスの影響が避けられそうにない。とりわけ、輸出に占める米国向けの割合が高いベトナムにとっては、経済全体に深刻な影響をもたらしかねない。

第3に、世界的な電子部品需要の一巡である。スマートフォン需要のピークアウト等でIT関連需要が世界的に減少に転じた場合、電子部品への依存度の高い韓国、台湾へのマイナス影響が大きく顕在化する。

多くのアジア諸国にとって、これらの下振れリスクは外生的な要因であり、リスク低減策の選択肢は多くない。産業競争力の強化や消費の持続的拡大などに資する政策措置を通じて、外的ショックに耐え得る内需基盤を作ることが各国・地域に共通する課題である。
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