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CSRを巡る動き:短期志向是正に向けて企業に求められる行動

2017年11月01日 ESGリサーチセンター


 ESG投資の推進団体である責任投資原則(PRI)と企業のサステナビリティ活動の推進団体である国連グローバル・コンパクトは9月下旬に”Coping, Changing, Shifting 2.0”というレポートを公表しました。副題は「市場の短期志向を是正するための企業・投資家の戦略」であり、企業・投資家に求められている対処(Coping)、変更(Changing)、転換(Shifting)を計20項目にまとめています。

 副題にある「短期志向」というテーマは、日本では「伊藤レポート」で初めて明示的に取り上げられました。それ以降に作成された、企業・投資家の行動指針であるコーポレートガバナンス・コード及びスチュワードシップ・コードは「持続的」または「中長期的」という用語を用い、短期志向を牽制する内容となっています。今回公表されたレポートは、2つのコードの内容の延長線上にあり、より具体的な行動を提示しているといえます。20項目の推奨項目のなかから、特に3つをここでは取り上げたいと思います。

 1つ目は「1.投資家のニーズや利害を理解する」です。ここでは投資家を1)本質的投資家(intrinsic investors)、2)機械的投資家(mechanical investors)、3)トレーダー(trader)3つに分類しています。本質的投資家は投資先企業の理解に最大限努力を払い、その長期的価値創造能力に興味を持つ投資家としています。機械的投資家はコンピューターによる運用を行うインデックス・ファンドや売買の意思決定にコンピューターによるモデルを利用する投資家としています。この投資家分類の特徴として企業の戦略や経営の質にはあまり関心を持っていないという点を挙げています。最後にトレーダーはあくまで短期的な投資リターンを追求し、企業の収益予想の下振れ・上振れといったニュースを基に売買の意思決定をする投資家です。市場の短期志向是正という観点では本質的投資家の行動が最も推奨されるのは自明と言え、中長期的な価値創造を志向する企業は本質的投資家の行動に関心を持つべきとしています。このような投資家は経営の質に関心を示すとともに、短期的な収益の変動に対して寛大であるためです。

 2つ目は「6.報酬を長期的価値創造と関連させる」です。コーポレートガバナンス・コードでも、役員報酬の構成要素を工夫する必要性を謳っています。しかしこのレポートではより具体的な、かつ長期志向の事例を取り上げています。例えば3年の評価期間に基づいた現金報酬です。日本企業で一般的な賞与は1年の業績に基づいた現金報酬ですが、その期間をもっと長くとるべきということです。また株式報酬についてはROIC(投下資本収益率)に関連づけたものが推奨されています。日本企業で一般的なのは売上高や各利益項目の成長率、またはそれらの中期経営計画に規定された水準に対する達成度です。資金の出し手として望ましい存在の、長期志向の本質的投資家の志向に合いやすいROICを用いた方が、企業と投資家の利害の一致という観点からも望ましいというわけです。またESGに関するパフォーマンスとの関連付けも推奨されています。品質や労働安全のパフォーマンスと役員報酬を関連付けている日本企業が少数ながら存在しますが、中長期的な企業価値創造を掲げる企業において、その背後にあるESG要因と明確に紐づけた役員報酬パッケージは一考に値します。

 最後に「8.取締役会の役割と責任を再確認する」です。この項目もコーポレートガバナンス・コードで詳述されていますが、より先進的な提言がレポートではなされています。日本企業で中期経営計画の一般的な期間は3~5年ですが、レポートでは企業が「中期」や「長期」の定義を示し、自社の事業や投資サイクルと関連付けて説明すべきとしています。長期は景気循環を考慮すれば7~10年、事業戦略を考慮すれば業種によっては20年またはそれ以上となる可能性を示しています。取締役会はこのようなタイムスパンを念頭に置くことで自社の事業成長とともに、社会課題解決における自社の役割を議論すべきとしています。

企業への推奨項目
対処
1. 投資家のニーズや利害を理解する
2. 短期志向が事業戦略に与える影響を理解する
3. 求める成果を定義する
4. ESG要因が及ぼす短期的な恩恵を認識する

変更
5. 事業戦略がもたらす長期的な財務的恩恵について発信する
6. 報酬を長期的価値創造と関連させる
7. 四半期決算の価値を見直す
8. 取締役会の役割と責任を再確認する
9. 投資家と積極的にコミュニケーションを取る

転換
10. 短期志向が事業に与える影響を公表する
11. 政策担当者と関わりを持つ
12. 転換を主導する

投資家への推奨項目
対処
1. 投資戦略を公表する
2. 投資手法を説明する
3. 企業に価値創造戦略を説明するよう促す

変更
4. 投資活動に適用する
5. 具体的な行動を後押しする
6. 対話を続ける

転換
7. 長期的価値創造を後押しする証拠を拡充する
8. 公共政策を後押しする

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