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アジア・マンスリー 2017年11月号

【トピックス】
混合所有制改革は中国経済を強くするか

2017年10月24日 三浦有史


習近平政権は混合所有制改革を国有企業改革の突破口と位置付ける。しかし、混合所有制企業のパフォーマンスは国有企業に近く、改革によって企業の収益性や効率性が高まるとはいえない。

■鉱工業では8割が混合所有制
中国は2016年末の中央経済工作会議において、混合所有制改革(以下、混改とする)を国有企業改革の「突破口」と位置付けた。混改は、国有企業が民間企業の資本を受け入れることでガバナンスを刷新し、収益性と効率性を引き上げるという試みである。

政府は、現在、民間資本を受け入れるための準備作業として、国有企業を次々と株式企業に移行している。中央政府傘下の大規模国有企業もその例外ではなく、国有資産監督管理委員会は、7月、金融と文化関連を除く中央政府傘下の国有企業の9割が株式企業に移行したとしている。これらの企業が積極的に株式の譲渡や官民パートナーシップ(PPP)を推進することにより、混合所有制企業は今後も増え続けると見込まれる。

混合所有制企業は、中国経済においてどのくらいの割合を占めるのか。企業形態に従って混合所有制企業の把握を試みた浙江省統計局の調査に倣って、鉱工業における混合所有制企業の割合を算出すると、混合所有制企業は2015年時点で企業数の84.1%を、そして、主管業務収入と利潤総額の76.8%、80.3%を占める。いずれも順調に増えており、鉱工業分野では混合所有企業が支配的な地位を確立している。

■混合所有制企業の実態は国有企業に近い
中国では、国家資本と民間資本がそれぞれの強みを活かすことによって、混合所有制に移行した企業の多くで業績が改善した、とされている。その一方、国際通貨基金(IMF)は、混改に参加する民間企業が限られていること、また、国有企業における政治的影響力の排除が進んでいないことから、企業の収益性や効率性が上昇するかは不透明としている。このように混改が与える影響をどう評価するかについては、中国政府とIMFの間にかなりの隔たりがある。
 
国有企業は、混合所有制企業に変わることで業績が好転したといえるのであろうか。改めて、混合所有制企業のパフォーマンスを国有企業と私営独資企業と比較したのが次図である。ここでいう国有企業は国有持ち株企業や有限責任会社の形態をとる国有独資企業を含まない純粋な国有企業を、私営独資企業は出資者に国家資本を含まない私営企業を指す。

混合所有制企業の売上高利益率は、国有企業より高いものの、私営独資企業を下回り、両者の中間にあるといえる。その水準は低くないが、国有企業と私営企業の売上高利益率が2000年対比で上昇していることを踏まえれば、伸び悩みが顕著である。

混合所有制企業の特徴が最も顕著に現れるのが、保有する全資産でどのくらいの売上を生みだしたかを示す総資産回転率である。混合所有制企業は私営独資企業をかなり下回り、国有企業に近い。これは売上に結びつかない資産を多く抱えており、資本効率が低いことを意味する。

経営の健全性を示す資産負債率をみても、混合所有制企業は私営独資企業よりも国有企業に近い。私営企業が資産負債率を大幅に引き下げ、健全化を進めてきたのに対し、国有企業と混合所有制企業にはそうした動きがほとんどみられない。混合所有制企業は、国家資本が入ることで銀行からの融資が受けやすくなり、健全化に向けたインセンティブが働かなくなるという国有企業の悪い部分を引き継いでいる可能性が高い。

■課題は民間企業主導の経営
混合所有制企業の収益性と効率性が国有企業を大幅に上回るわけではないことから、混改によって中国経済が強くなるとはいえない。企業の収益性や効率性が上昇し、経済成長の持続性も高まる好循環が現れるようにするためには、パフォーマンスの良い民間企業が経営の主導権を握り、優れたアイデアやノウハウが経営に反映されるようにする必要がある。現在は、民間資本の受け入れに積極的とされる領域でも、国有資本の持ち株比率が他の主要株主を下回らないと規定されており、民間企業は経営を掌握できない仕組みになっている。

この問題は中国国内でも議論されており、国家資本を「普通株より優先的に配当金が受けとれる一方で、経営に参加する権利が制限される優先株」に転換することで混改を推進すべき、という意見がある。優先株の導入は、経営方針が対立し、経営支配権の争奪に発展した場合、少数株主が割を食うのではないかという不安を払拭することから、混改に対する民間企業の参加意欲を刺激すると思われる。政府は年内に国有資本の優先株への転換にかかわる制度を整備するとしており、そこで民間企業にどれだけ魅力的な提案がなされるかによって、混改の成果は大きく左右されることとなろう。

混改は、民間企業の活力を引き出す市場経済化に則した改革と位置付けられているが、実際にはそうなっていない。鉱工業分野の企業の払込資本金に占める国家資本の割合は、2011年を境にほとんどの形態の企業で上昇しており、政府は企業に対する支配力を実質的に強化している。国家資本による経営支配が維持・強化された結果、収益性と効率性が低下した、というのがこれまでの混改の姿である。習近平政権がこれを容認し続けるのか、転換するのかによって、中国経済は全く異なる方向に進むことになろう。
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