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アジア・マンスリー 2017年11月号

【トピックス】
アジアにおけるインフラ整備の推進と債券市場の役割

2017年10月24日 清水聡


アジアにおいてインフラ整備を推進するためには民間部門、特に機関投資家の資金を活用することが重要であり、プロジェクト・ボンドやグリーン・ボンドの発行を促進することが求められる。

■アジアにおけるインフラ整備の現状
近年、アジアでは他の途上国地域に比較してより多くのインフラが整備されているが、先進国に比較すると依然としてインフラの量・質ともに下回っている。また、国ごとの格差も大きい。

分野別の整備状況をみると、第1に、2001~2010年に途上国アジアの道路網は年率平均5%で伸長した。これは他の途上国やOECD諸国を上回るペースであるが、世界経済フォーラムが7段階評価した道路の質をみると、途上国アジアの平均は4をやや上回る程度である。これは、他の途上国地域は上回るものの、OECD諸国の平均を1ポイント下回っている。

第2に、鉄道の整備は遅れ気味であり、先進国に比較しても伸びが遅い。ベトナムやインドネシアでは、線路の整備よりも老朽化が速く進んでいる。

第3に、一人当たりの発電能力は2000~2012年に年率平均7.4%で拡大したが、OECD諸国に比較するとはるかに低いレベルにとどまっている。域内の技術格差も大きく、ネパールやカンボジアなど、作り出された電気の30%を失っている国もある(途上国アジアの平均は8%程度)。また、南アジア諸国では現在も停電が頻発している。加えて、アジア地域は石炭火力発電への依存度が2013年に66%と、他の途上国地域の14%やOECD諸国の32%に比較して大幅に高い。

第4に、水供給は他の途上国地域より優れているが、国ごとの格差は大きく、特に農村部で清潔な水へのアクセスに関して遅れを取っている国がある。なお、アジアでは今後都市化が大規模に進むと考えられるため、水道・衛生関連の都市インフラ整備が重要性を増すことになる。

■アジア開発銀行は必要投資額を15年間で26.2兆ドルと推計
本年2月、アジア開発銀行(ADB)はMeeting Asia’s Infrastructure Needsと題する報告書を発表し、加盟45カ国の2016~30年におけるインフラ整備の必要投資額を推計した。これは、各国ごとにインフラのストックと主要な経済・人口変数の関係を過去のデータによって推計した後、各説明変数の予測値を用いて将来のインフラ需要を算出した上で金額ベースに換算したものであり、維持・修理に必要な金額も含まれている。

この方法は変数間の過去の関係によっているため、試算値は将来発生する構造変化を反映しない。こうした要因として、報告書は気候変動を特別に取り上げている。具体的には、気候変動の抑制(二酸化炭素の排出量を減らすインフラへの投資)および気候変動への適応(気候変動の影響を受けにくいインフラの建設)に要するコストを、既存の研究に基づいて算出している。
推計結果は左表の通りである。気候変動要因考慮前の必要投資額は約22.6兆ドル(1.5兆ドル/年、対GDP比率5.1%)、考慮後は約26.2兆ドル(1.7兆ドル/年、同5.9%)となっている。金額増加分の多くは、気候変動抑制のために電力分野に追加される部分である。考慮後の必要投資額の内訳は電力が56.3%、運輸が31.9%となり、両者で全体の88.2%を占めている。

■インフラ・ファイナンスの拡大と債券市場への期待
ADBの報告書では、官民の資金を総動員する必要性を指摘している。従来、平均すれば必要投資額の約9割が公的部門から調達されているため、今後は民間部門からの調達の拡大に注力しなければならない。同報告書が中国を除く24カ国を対象に2016~20年の5年間に関して行った試算では、民間資金は現在の約4倍に増やす必要がある。

従来、民間資金の中心となってきた銀行融資に加えて機関投資家の投資を増やすことが重要であり、そのために、①バンカブル(民間資金の提供が可能)なプロジェクトの増加などによるインフラ投資の資産クラスとしての確立、②投資家育成や投資環境整備への注力、③プロジェクト・ボンドやグリーン・ボンドなどの投資家ニーズに応える手段の拡充、などが求められる。

プロジェクト・ボンドはプロジェクトから生じるキャッシュ・フローのみを返済原資とするプロジェクト・ファイナンスの一形態であるが、途上国、特にアジアでは発行が少ない。プロジェクト・ファイナンスにおける債券発行の比率をみても、アジア太平洋と中東・アフリカはそれ以外の地域に比較して大幅に低くなっている。発行体・格付け機関・投資家のプロジェクト・ボンドに対する専門性の向上などにより、発行を促進することが求められる。

一方、グリーン・ボンド(環境債)とは、発行代金が環境改善に関連した用途に用いられることを明示した債券である。2007年ごろから国際機関を中心とした公的機関(欧州投資銀行、国際金融公社、世界銀行など)により発行されるようになり、2013年以降は企業や銀行も発行するようになった。OECDによれば、発行額は2011年の30億ドルから2015年には480億ドル、2016年には中国の発行体(主に上位国有銀行)が参入して950億ドルとなった。資金使途は、再生可能エネルギー関連が最も多い。

グリーン・ボンド市場は揺籃期にあり多くの課題が残るものの、需要の強さによって発行は世界的に広がりつつあり、一層の拡大が期待される。気候変動関連のプロジェクトの資金調達手段として大きな可能性を持つといえよう。グリーン・ボンドのメリットとしては、以下の点があげられる。①債券の発行により、発行体は期間のミスマッチを回避できる。②発行体の環境戦略が明らかになることで、組織としての評価が高まる。③今後、投資家の拡大や発行手続きの簡略化・迅速化が期待され、発行コストが低下する可能性がある。④これらのメリットを受け、必ずしも環境戦略に熱心でなかった分野の企業がグリーン・ボンドの発行を契機に環境改善に貢献するようになる可能性がある。⑤環境改善への貢献を目指す投資家が投資機会を見出すことが容易となる。発行体からみれば、投資家の多様化を通じて資金調達リスクを軽減できる。

以上のようなメリットを持つプロジェクト・ボンドやグリーン・ボンドをインフラ整備に活用することは、アジア債券市場の発展を促す観点からも有効と考えられる。このような取り組みに協力することは、結果的に日本のインフラ輸出戦略の推進にも資することとなろう。
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