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CLMVの成長を取り込み、中国進出を狙う

2017年10月10日 七澤安希子


 成長を続けるASEANは、海外売上高の拡大を目指す日本企業にとって今後も重要な投資先の一つだ。世界銀行によれば、ASEAN経済圏域の平均GDP成長率は2016年も約5%の伸びを示し、世界経済の牽引役として、その影響力は拡大し続けている。
 ただし、海外からの直接投資等を背景に経済成長を続けてきたASEANで、構成国の成長過程に大きな差が出てきており、いわゆる中進国以上とされるシンガポール、マレーシア、タイでは、人件費の高騰等を背景に日本企業の投資が一巡する状況となってきた。特に、タイでは、一般工の労働賃金が、ASEANの後発新興国と位置づけられるCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)と比べ2倍近くまで上昇した結果、自動車産業を筆頭に生産拠点の統廃合の動きが加速している。

 反対に、ASEAN圏域における次なる投資有望国となりつつあるのが、CLMVである。CLMVは以前から注目されてはきたものの、これまでは政情、質の高い労働者の確保、電力等のインフラへの不安等が大きく、一部の先進企業が進出するにとどまっていた。しかし、近年は堅調な経済成長を背景にこれらの課題が解消されつつあり、多くの日系企業にとって、有望な投資先となり得る環境が整い始めてきた。
 そこで、今後新たな投資先として拡大が予想されるCLMVの投資先としての「価値」について、改めて考察したい。その価値とは、以下の2つであろう。

1)中間所得層が成長しマーケットとしての魅力が高まりつつある
 CLMVは6~7%のGDP成長率と約1.6億人の人口規模を背景に、ASEANの成長を牽引している。また、特に都市部では富裕層が出現し、将来にわたる消費市場拡大の期待が高まっている。例えば、米国スターバックス社やASEANのタイビバレッジグループ等の大手グローバル消費財関連企業がここ1、2年でCLMVへの進出を発表している。今後もこのような動きは加速していくと考えられる。

2)今後高品質な大規模工業団地が開発される
 ASEANの優良現地企業は AEC(ASEAN経済共同体)の設立を好機と捉え、自国で蓄積した事業の成功ノウハウを広域展開することを目指しており、AECを牽引するプレーヤーとなりつつある。例えばタイの工業団地最大手デベロッパーのヘマラート社やアマタコーポーレーションは、CLMVへの展開をビジョンに掲げ、ベトナム、ミャンマーへと段階的に事業拡大を進めている。生産拠点に求められるクオリティの重要性をよく知る彼らのCLMVへの進出は、日本企業にとってCLMV進出に対する安心材料の一つになるだろう。

 このようなASEAN自体の環境変化から捉えた投資有望性のほかに、世界第二位の経済大国・中国への進出を見据えた視点も考えてみたい。

 日本企業は、これまで多くの企業が中国市場に参入してきた。なかには中国企業との合弁等により、戦略的に「現地化」を進め、現地市場において受け入れられている事例もあるが、多くの企業は歴史的・政治的問題を背景に、豊富な労働力と巨大マーケットを有する中国市場でのビジネス環境に依然として不安を抱えている。結果として、投資に踏み切れない企業や、撤退を選択する企業も後を絶たない。

 このような中国市場に対し、戦略的に進出するための一つの重要な橋頭保となり得るのが、「CLMV」への直接投資となるのではないか。

 タイは、これまで多くの日本企業が進出し、ビジネスを成功させてきた。背景にあったのが、安価で一定の質の労働力、交通や電力インフラの整備、物流拠点としてのアクセスの良さ、仏教を中心とした相互理解の容易さ等である。CLMVは今、労働者の質的向上、交通インフラの整備が進み、「かつてのタイ」と類似する環境となりつつある。巨大市場である「中国への参入の足がかり」として、投資環境が整いつつあるCLMVを活用し、中国市場に向けた生産・物流の拠点として位置づけるという戦略が、今後の日本企業の選択肢になり得る。

 私自身、5年ほどASEAN各国の動きを現場で見てきているが、上記のような視点でCLMVを捉える現地の不動産デベロッパーが少なからず見受けられるようになった。ASEANの成長力を取り込み海外売上の拡大を狙うには、CLMVに対する戦略的投資が重要となってくると考える。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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