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アジア・マンスリー 2017年7月号

【トピックス】
一帯一路フォーラムの開催で存在感を増す中国

2017年06月21日 佐野淳也


5月の一帯一路フォーラムは、世界各国の高い関心を反映するものであった。習近平政権はそれに応えるべく推進策を表明したが、一方でくすぶるさまざまな懸念の払しょくは容易ではない。

■100を超える国や国際機関が代表団を派遣
5月14~15日、中国政府は初の一帯一路国際協力ハイレベルフォーラム(以下、フォーラム)を開催した。29カ国が首相・大統領級、100余りの国が政府高官や与党幹部をトップとする代表団を派遣するとともに、70以上の国際機関もフォーラムに参加した。出席者の顔ぶれから、一帯一路に対する海外の高い関心がうかがえる。

関心の対象は主として、以下の2点に大別できる。

第1に、アジアにおいて活発化するインフラ整備向け資金の提供である。アジア開発銀行(ADB)の試算によると、アジア・大洋州25カ国の年平均インフラ需要額(2016~20年)に対して、現時点のインフラ投資額では十分賄い切れず、公共部門の追加支出に加え、さまざまなルートから資金をさらに呼び込まなければならない。一方、中国は一帯一路構想でユーラシア大陸をまたぐインフラ整備の推進を重視する方針を打ち出しており、資金ギャップを埋めるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立において主導的な役割を果たした。こうした動きを受け、多くの国が自国のインフラ整備資金の確保にプラスになると判断し、フォーラムに参加したとみられる。

第2に、インフラ関係以外の分野における中国経済との紐帯強化への期待である。一帯一路圏外の国も、中国との貿易や海外直接投資の拡大を経済成長や自国企業のビジネスチャンスに結び付けたいとの意向を有している。また、世界第2位の経済大国である中国が自由な貿易や直接投資の拡大方針を堅持するとともに、さまざまな国々と通商関係における結び付きを強めていくことは、世界経済全体の成長持続に資するものである。一帯一路圏外の国々や国際機関が多数参加したのはこうした事情を反映したものであろう。

■追加出資などを打ち出した経済的背景
フォーラム終了後に公表された成果リストのなかで、中国は自ら設置したシルクロード基金(アジアのインフラ整備・産業協力に資金を供与)への追加出資、援助の増加を表明した。加えて、フォーラム期間中の一連の国際会議では、中国による一帯一路沿線諸国からの輸入および対外投資の拡大ペースに関する数値見通しが示された。

習近平政権が追加出資など、中国の負担を増やしてでも一帯一路構想の実現を目指す理由として、対外的なプレゼンス向上や政権の基盤固めなど、政治的要因もあるかもしれないが、最大の理由は、国内経済の課題克服策として活用するためと推察される。

例えば、今般のフォーラムでは、中露間の経済開発に充当する目的で「中露地域協力発展投資基金」を立ち上げることが決まった。対象である中国の東北地域は近年、経済の低迷や常住人口の減少傾向に直面している。一帯一路で重視されるアジアおよび欧州各地を結ぶ貨物鉄道輸送網の拡充は、主要な拠点となる中国西部地域の経済発展へのプラス効果が期待される。こうした状況から、一帯一路構想は、中国の国内地域振興策としての役割を有していると判断できる。

中国の産業(企業)競争力の強化という面でも、一帯一路の推進は有益と考えられる。フォーラム開催前に中国政府が出した各種の産業政策関連文書によると、中国と沿線諸国の国際産業協力の推進が一帯一路の重点項目として盛り込まれたが、その中心に位置付けられたのは、鉄鋼などの過剰生産業種であった。また、沿線諸国でのインフラプロジェクトの執行は、当該国のメリットになるのみならず、中国製品の受入能力や工事受注機会の増大というかたちで中国の地場産業の国際競争力の向上に資するであろう。

■構想実現にはさまざまな懸念への対応が必要
中国国内経済への恩恵を見込めることから、習近平政権はフォーラムで言及した追加出資等の推進策を実施するのみならず、沿線からの輸入や沿線諸国への投資拡大に本腰で取り組むと想定される。ただし5年間で2兆ドルという目標達成には、足元で縮小している一帯一路沿線諸国からの年間輸入額を2014年のピーク時の8割程度の水準まで戻し、それを5年間続ける必要がある。近年の貿易伸び悩み傾向、保護貿易主義の台頭で先行きがなお不透明なことを勘案すると、それは決して容易ではない。

今後5年間で1,500億ドルとされる一帯一路沿線向けの対外投資では、政策的な判断で海外への資金流出の防止を優先させた場合、中国企業による一帯一路諸国での事業展開を妨げることになりかねない。さらに、インフラプロジェクトの入札をめぐっては、企業間の公平な競争が保たれるかどうかについての懸念が海外から指摘されている。

習近平政権にとっては、一帯一路構想が既存の国際経済秩序と対立するものではないことを繰り返し説明して理解を得つつ、指摘されるさまざまな懸念要因を1つひとつ丁寧に払しょくしていくことが構想の実現に欠かせない取り組みとなろう。
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