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アジア・マンスリー 2017年5月号

【トピックス】
中国からの資本流出の抑制には経済構造改革が不可欠

2017年04月19日 清水聡


中国が資本流出や人民元の減価を抑制し、長期的に資本取引の自由化や人民元の国際化を推進するためには、経済構造改革を加速して国内外の投資家の信認を改善することが不可欠である。

■資本流出の拡大と求められる経済構造改革の加速
中国では、資本流出が続いている。3月に発表された国際収支統計によると、外貨準備以外の金融収支は、2015年の▲4,345億ドル(流出超過)の後、2016年にはほぼ同水準の▲4,170億ドルとなった。また、その一部が資本流出を示すと考えられる誤差脱漏も前年とほぼ同水準であった。一方で経常収支黒字が輸出の減少を主因に前年比▲1,078億ドルの減少となったため、外貨準備は前年よりも減少幅が拡大した(2015年3,429億ドル、2016年4,437億ドル)。

投資の種類別にみると、まず直接投資では、対外投資が前年比で428億ドル増加する一方、対内投資は同▲719億ドル減少した。対外投資の増加、対内投資の減少はともに近年の傾向であるが、2016年の対内投資の減少は大幅であった。次に、証券投資では、対外・対内債券投資がともに増加した。さらに、その他投資では、前年に比較して対外投資が大きく増加する一方、対内投資はプラスに転じた。対外投資の増加は、銀行による対外融資の増加や、輸出企業が受領した外貨を人民元に転換することなく外貨預金に存置する傾向を反映しており、対内投資の増加は企業による対外債務の返済の減少を反映しているとみられる。

前述の通り、外貨準備以外の金融収支は前年とほぼ同水準の流出超過であったが、その直下の「流出」(対外投資)に注目すると2014年の▲4,629億ドル、2015年の▲3,335億ドルに対して2016年は▲6,611億ドルとなっており、国内経済主体による資本流出が拡大している。

近年の資本流出拡大の背景としては、①長期的に資本取引規制の緩和が進み、様々な形の対外投資が拡大していること、②国内金融市場が未整備で投資対象が少ないこと、③全般的な中国経済の不調や人民元の減価が続く中で、海外投資家が資金を引き揚げるとともに国内投資家が資本逃避的な動きを拡大していること、などがあげられる。これらはいずれも短期間で解消できる要因ではないため、資本流出は当面持続する可能性が高い。
一方、人民元の減価傾向の要因としては、①米国景気の好調および利上げ、②資本流出の拡大、③外貨準備の減少、④減価が持続するという根強い相場観、などがあげられる。

2017年入り後、人民元の対ドルレートはほぼ横這いとなっているが、CFETS RMB Index(通貨バスケットに対するレート)は約2%減価している。昨年後半、同インデックスは安定的に推移していたが、現時点では、当局は通貨バスケットに対する緩やかな減価を政策目標としているようにもみえる。いずれにせよ、米国が利上げを継続する中では、ドル高基調や、市場参加者が重視する人民元の対ドルレートの減価が今後も続く可能性がある。また、米中間の貿易摩擦や北朝鮮・南シナ海などを巡る地政学的な問題の成り行きも人民元相場に影響を与えると考えられることから、中国当局の為替政策運営は予断を許さない状況が続こう。

資本流出の拡大と人民元の減価という悪循環を解消するために、当局は資本流出規制の強化と流入規制の緩和が現時点でとりうる最善の策であると判断しているとみられる。一時的にせよ資本流出を抑制できれば、人民元の減価の抑制につながる可能性があるためである。これに対し人民元の減価局面における市場介入は必ずしも有効ではなく、外貨準備を減少させるのみであった。

しかし、このような流出規制を永久に続けることはできない。その有効性は長期的には抜け道の利用によって低下する可能性が高く、また、内外経済主体の利便性を損なうことから経済成長や海外投資家の信認に悪影響を及ぼすことも予想される。したがって、規制を続ける一方で金融改革をはじめとする経済構造改革の実施を急ぎ、国内からの資本逃避的な動きを食い止めることが不可欠であろう。

■金融システムの市場化・自由化・対外開放に向けた道のり
資本流出の拡大や為替レートの減価を受けて人民元に対する信認が揺らいでいるため、その国際化に向けた動きは後退している。2016年末の世界の外貨準備に占める人民元の比率は1.07%(845億ドル、世界第7位)にとどまり、SDR入りしたにも拘らず、IMFがサーベイを実施した2015年(人民元の比率は1%未満)からほとんど上昇していないことが判明した。

中国は、資本取引を自由化し人民元の国際化を推進する目標を放棄したわけではない。これを達成するには為替政策の柔軟化、金融政策の市場化、金利の実質的な自由化などの実現が前提となり、また、これらに伴って生じる為替・金利・信用リスクの増大に耐えうる強固な金融システムの構築も求められる。一連の改革は金融システムが市場化・自由化・対外開放に向かうことを意味し、深刻化する企業債務の増加、資本流出の拡大、人民元の減価などの諸問題の根本的な解決を図るためにも不可欠と考えられる。ただし、多様なリスクの増大に対する備えを整えなければならないため、拙速には行えない。企業債務の削減による景気への短期的な悪影響にも配慮しながら、緩やかに前進することが唯一の解決策になるといえよう。

例えば、債券市場についてみると、昨年2月に海外の民間機関投資家による銀行間債券市場への投資を認める方針が示され、対外開放が緩やかに進んでいる。今年3月には、李克強首相が香港・中国本土間の相互債券取引を年内に開始する方針を示した。これに先立ち、2月には海外の機関投資家が国内為替デリバティブ市場を債券投資のヘッジ目的で利用することを認めることも発表されている。これらの規制緩和により対内投資の増加が期待されるが、ここでも市場整備が不可欠となる。理財商品を通じて集められた資金がレバレッジを拡大した形で急激に流入したことから債券市場の変動が増幅されており、昨年12月には短期金利の上昇などをきっかけに国債価格が急落した。こうした問題に対処することなく市場開放を加速すれば、市場が混乱した場合に急激な資金流出が発生するリスクが大きくなると考えられる。
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