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コーポレート・ベンチャーキャピタルを通じた大企業とベンチャー企業の連携

2016年09月05日 桑原 優樹


要旨
●大企業内がイノベーションのパートナーとしてベンチャー企業の活力を取り込む活動を活発化させている。特に近年では、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の設立が再び増え始めている。
●CVCの取り組みを成功させるためには、①目的の明確化、②経営陣のサポートと権限委譲、③ベンチャー・コミュニティでのネットワーク構築などが重要となる。


はじめに
 大企業によるベンチャー企業との連携に関する取り組みが加速している。技術革新のさらなる加速化やユーザーニーズの多様化に伴って、全てを自前主義で行ってきた従来の大企業のビジネスモデルが成り立ちにくくなっていることから、ベンチャー企業の持つ技術や知見を上手く取り込むことによって新たなイノベーションを実現しようと考えているためである。経団連も、オープンイノベーションのパートナーとしてベンチャー企業の重要性が増していることを踏まえ「今後、大企業の中に“ベンチャー企業との連携”という選択肢を実質化させていくことが重要」(※1)と提言するなど、ベンチャー企業との連携はわが国の大企業が取り組むべき課題の一つとなっている。
 そこで、本稿では大企業とベンチャー企業との連携の代表的な手法の一つであるコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)について要点を説明したい。

CVCとは何か
 端的に言うと、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)とは投資会社ではない大企業(以下、「大企業」)が社外のベンチャー企業に対して投資を行う活動のことである。CVCには様々な形態があるが、大企業が資金を拠出してCVCファンドを組成して、自社の投資部門や投資子会社が運用を行う形態が基本である。
 わが国においては2000年代のベンチャー・ブーム時に大手電機メーカーを中心としてCVCの設立が相次いだが、投資先として魅力のあるベンチャー企業が少なかったことや、投資する側のノウハウ不足等が原因で撤退や縮小が相次いだ。しかしながら、2011年頃からIT系の企業や通信・放送系の企業を中心として再びCVCの設立が増えている。
 CVC設立には、大きく分けて「財務的リターン」の獲得と「戦略的リターン」の獲得の2つの目的がある。前者は投資先のベンチャー企業が株式上場(IPO)したり他社に買収されたりすることによる金銭的なリターンを獲得することであり、CVCに限らずベンチャーキャピタル全般に共通した目的である。一方、後者はベンチャー企業への投資を通じて、事業シナジーの実現によって大企業自身の戦略を達成するという目的のことである。具体的には先端技術や市場に関する情報の獲得、補完財の育成による自社製品の需要喚起、製品のクロスセルの実施等が挙げられる。財務的リターンと戦略的リターンを両立できるような投資先ベンチャー企業が多数あればよいが、現実的には両者を同時に満たすような投資先は少ない。過去の調査などではどちらかというと戦略的リターンを重視するCVCの方が多いが、それぞれの目的にどの程度の重きを置くかはCVCごとの判断となる。

CVC成功の3つのポイント
 CVCを成功に導くための様々なポイントが指摘されているが、ここでは特に重要と思われる3点について指摘したい。

①目的の明確化
 CVCには財務的リターンと戦略的リターンという2つの目的があることを先に述べたが、CVC設立にあたってはできる限り目的を具体化しておく必要がある。目的をはっきりさせておかないと、投資対象のイメージが曖昧なまま投資活動そのものが目的化してしまい、投資先は増えるが何のための投資だったのか分からないという状況に陥りかねない。戦略的リターンを重視するのであれば、具体的にどのような事業シナジーを期待するのか、事業領域はどこまでを対象範囲とするのか、投資先ベンチャーのステージはどの程度が良いのか、シナジーの発揮は数年後でも良いのかなど、検討しておくべき事項は多い。また、いくら戦略的リターンを重視するといっても、最低限必要な財務的リターンを決めておかないと、CVCとしての成果の測定やCVCに携わる人材の動機付けの両面において問題が生じやすい。

②経営陣のサポートと権限委譲
 CVCを運営していく上では、資金はもちろんのこと様々な経営資源(技術、人材、販路、設備等)を利用して投資先のベンチャー企業を長期的にサポートしていく必要がある。また、ベンチャー企業の意思決定のスピード感は大企業と比較して非常に速く、大企業側が意思決定に手間取ってしまっては投資先の足かせになりかねない。そのため、CVCが各事業部と綿密なコミュニケーションを取れるように経営陣がサポートするとともに、投資先の意思決定スピードに対応できるように経営陣はCVCに対して適切な権限委譲を行う必要がある。CVCの担当者が社内調整に手間と時間を取られ過ぎているようでは、ベンチャーと連携して事業シナジーを追求することは難しい。経営陣の強いコミットメントとCVCへの権限委譲によって、関連事業部門を巻き込んだ体制を構築して、CVCをスムーズに運営できるようにしておくことが重要である。

③ベンチャー・コミュニティでのネットワーク構築
 自社の戦略に合致した優良投資先ベンチャー企業を見いだすにあたっては、創業した企業や最新の技術に関する情報をできるだけ早く入手する必要があるが、そのような情報はベンチャーキャピタリストや起業家等のベンチャー・コミュニティに集まってくる。このような情報はどこかに公開されているわけではなく、ネットワークによって人づてに漏れ伝わるものであり、部外者が簡単に入手できるような類いのものではない。従っていかに早くこのベンチャー・コミュニティの中でネットワークを構築できるかが重要となる。そのためには、CVCの運営を民間VCと共同で行う、元ベンチャーキャピタリスト等の既にネットワークを有している人材を獲得するといった取り組みが必要である。また、ベンチャー・コミュニティから信頼を得るためには、CVCによるベンチャー企業との連携活動を長期的に継続することをコミットする姿勢も重要であると考えられる。

おわりに
 本稿では、大企業とベンチャー企業の連携方法の一つとしてCVCを紹介した。IT業界を中心として始まった近年のCVCの増加は、他業界にも広がりつつさらに拡大し、日本のベンチャー・コミュニティにおいて一定の存在感を持つまでに至っている。CVCという活動を通じて大企業とベンチャー企業、それぞれの良い面を組み合わせて双方にとってメリットのある組み方ができれば、大企業、ひいては日本経済全体の活性化を促すことにつながるであろう。

図:2011年以降の主なCVC設立事例


図:CVCを成功させるためのポイント


(※1)一般社団法人日本経済団体連合会「「新たな基幹産業の育成」に資するベンチャー企業の創出・育成に向けて」(2015年12月)

以上

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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