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日本総研ニュースレター 2016年4月号

攻めのガバナンス実現に向けた社外取締役の活用

2016年04月01日 上杉利次


社内取締役を中心とした従来の日本企業のガバナンス
 「経営の監督と執行の分離」を大きなテーマの一つとして掲げたコーポレートガバナンス・コードが施行され、1年近くが経過した。この期間にコードに沿う形で監督機能の強化を理由とした独立社外取締役の増員を進めた企業も多い。しかし、監督機能を果たす上で重要となる経営に関する見識・経験が必ずしも十分ではなく、「物言わぬ社外取締役」を期待しているともとられかねない人選も散見され、実態としての監督と執行の分離は進んでいない企業も多いのが実情と考えられる。
 伝統的な日本企業では、取締役は内部昇格の結果として選任される場合が主流であるため、取締役は業務執行を担当しながら、その他の業務執行の監督を担う。このような取締役会による「ガバナンス」の実情としては、社内人材のみで構成された経営会議等での事前の決定事項の形式的な承認や「上司」である社長の判断の追認に終始するなど、形骸化している事例が散見される。
 一方で、このような「ガバナンス」について、従来の日本企業では一定の合理性が存在していたという見方も存在する。経営環境が大きくは変化しない、あるいは変化したとしても過去の延長線上にある場合には、事業部門出身の経営陣がその経験に裏打ちされた事業運営を担い、既存事業を成長させることが、企業価値の向上につながっていた。そのため、既存事業に詳しいわけではない社外取締役は、企業の成長戦略にとって特に必要な存在ではなく、むしろスピーディーな意思決定を妨げる「足かせ」になるとさえ見なされていた側面がある。

事業の多様化・複雑化が変えるガバナンスのあるべき姿
 しかし、近年ではグローバル化の進展と共に事業内容の多様化・複雑化が進み、過去の社内の経験のみからは「想定外」となる環境変化に直面するリスクが格段に高まっている。旧来型の社内人材を中心としたガバナンスでは外部環境を加味した事業の適切な新陳代謝を進めることは難しいからである。実際、経営トップが過去の成功体験から出身事業の成長性を過大評価し、次の柱とすべき事業の育成よりも当該事業への投資を過度に優先した結果、投資回収がままならずに資金繰りが悪化し、経営の屋台骨を揺るがす事態を招いた企業も存在する。
 これからの取締役会で議論すべきは、既存事業の価値観・ビジネスモデルにとらわれない中長期の企業としての成長戦略や、かつての主力事業からの撤退の可能性も含めた事業構造の改革等と考えられる。そのためには、既存事業から中立の立場である社外取締役を積極活用し、外部の眼による「適切な牽制」は言うに及ばず、企業価値向上のための「健全なリスクテイク」を後押しすることをその役割として位置づけるべきである。実際、社外取締役が成長戦略上で重要となるM&A投資のプロセスの妥当性を判断し後押しした企業や、大きく業績が悪化した事業からの撤退をしがらみのない立場から意見することで改革が進んだ企業は既に少なからず存在する。

監督と執行の役割分担で実現する「攻めのガバナンス」
 これからのガバナンスでは、社外取締役は企業経営において「守り」ばかりではなく「攻め」の観点からも有益な存在であると認識し、期待する役割を定義するとともに、彼らを活かせる組織に自社を変革することが必要となる。その核となるのは、取締役会付議基準や決裁権限規程を見直し、個別の業務執行の意思決定を取締役会から分離して業務執行取締役に権限委譲することである。これにより、社外の眼を入れるべき議案の審議を中心とする取締役会への移行を目指すべきである。
 監督と執行の役割分担を明確化することで、業務執行の権限を委譲された業務執行取締役は意思決定を迅速・果断に行うことが可能となり、それらを社外取締役を活用した取締役会が監督することによって、執行の合理性を確保することが可能となる。また、取締役会では既存事業の前提にとらわれず、中長期の成長戦略等に関する議論に集中しやすくなる効果も期待できる。このような取り組みが、形式的なコード対応や不祥事回避のみにとどまらない、持続的な企業価値向上に向けた「攻めのガバナンス」を実現していくはずである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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