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「見えないものを見る」技術への期待(ヘルスケア)

2016年06月28日 横山理佳


 「リーダーシップの旅 見えないものを見る」という書籍がある。企業のリーダー向けに「想像のつかないことも受け入れて未来をつくろう」と説くベストセラーである。この書籍には「人の想像力には限界があり、人の営みによって蓄積された経験やデータだけでは深層や隠れた兆候を理解することは難しい」という前提が置かれていた。しかし、現在はどうだろう。見えないものを見ることは、もはや不可能ではなくなってきた。見たことのない感情や経験したことのない感覚を体感するための技術革新が進展している。最近ではさらに進化し、人の動きやオーラから、特性や背景情報を読み出すことも可能になっている。その象徴的な事例が人工知能だ。人工知能は、蓄積されたデータを用いて、超越したインテリジェンスを生み出し、既存の概念や経験上の分類を超えた法則を見いだし、合理的な方法を提案する。経営戦略にも活用される時代だ。

 技術革新は、健康分野においてもさまざまな恩恵を及ぼしてくれるだろう。先の記事で、日常における自然な形での健康管理(チューニング発想)が日本でいま求められていると述べた (※ISSUE 320 2016/04/12)。そうした健康管理の起点となるのは、「今自分がどのような状況にあるのか」「何が必要なのか」を的確に把握し、対策を講じることなのだが、昨今の技術革新は実に簡単にそれを実現してくれるようになった。ウェアラブル機器の幅広い層への普及、健康促進アプリ等によって、これまで苦痛だった健康管理も楽しく行える。日常での使いやすさやデザイン性、ひいては、娯楽性も兼ね備えた仕組みが多く提案されている。
 「把握」と「気付き」の先に必要となるのは、「確実に結果を出すための健康管理」だろう。これは、現在の健康管理方法を客観的に評価し、適切に修正することを意味する。遺伝的背景と生活習慣、疾病罹患の関係性が明らかになりつつある現在、これまでよりも細分化して健康課題に対する課題を抽出し、健康管理をする目的や目標を詳細に設定し、具体的なソリューションを構築できる可能性が広がっているのだ。ここに人工知能などの技術革新の貢献余地がある。

 また、健康分野の事業者が揃って指摘するのは、「人は体験したことしか理解できない」ということである。ある疾病を有する患者にとって、周囲の人間との関係性が日常生活を大きく左右する側面がある。象徴的な事例を挙げよう。外資系製薬メーカーが、頭痛薬のプロモーションの一貫で、偏頭痛を体感する動画を配信した。偏頭痛は罹患者が多く、反復性が高く、愁訴症状も様々である一方で、第三者に症状が過小評価されやすい傾向にある。第三者が偏頭痛の強さを体感して初めて患者に対する配慮が生まれ、患者側で状況に合わせた休養や対処が可能となる。健康に対する共通の意識形成が、患者を救うのである。ここにも仮想現実などの技術革新の貢献余地がある。

 健康状態や最適な健康管理は、個人によって異なり、一つとして同じものはない。ただ一方で、効果的に健康を実現する方法や仕組みを考えるには、個別性を捨て、同じ知識や意識を共有する必要は依然として残る。このようなパラドックスを包み込むモデルを考案しなければならないところに健康分野の仕事の醍醐味があるのだが、さまざまな技術革新がいま、個別性を出発点としながら、類型化を通じて普遍性を導き出し、それをまた個別に当てはめて効果を生むというサイクルを可能にしようとしている。こうした技術革新の進展にこれからも目を凝らしていきたい。
※ ISSUE 320 2016/04/12
http://www.jri.co.jp/thinktank/sohatsu/mailmagazine_html/160412/index.html


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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