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在中の医療機器/消耗材事業の販売面での変化対応力を計る3つの指標

2016年04月13日 川崎真規


はじめに
 医療機器/医療消耗材を巡る規制や政策に大きな変化がある中で、特に、近年の中国の医療機器/消耗材市場の環境変化は、大きな転換期の真っただ中にある。過去の市場認識や販売施策の延長線上で中国市場を語ることはできなくなっており、この市場変化の潮目を読めているか否かで、今後の中国市場でのさらなる成長の度合いに差が生じる。
 そこで中国の医療機器/消耗材市場の直近の変化に対し、自社が販売面で対応ができているか否か、3つの指標をもとに検証されることを提言したい。

指標① 診療報酬制度単位の販売戦略と全社販売支援基盤
 日本では、診療報酬制度は全国で統一されているが、中国は国レベルでは診療報酬制度の基本的な方向性や準拠すべき事項を示し、具体的な内容は各省以下が決定/運営するという根本的な違いがある。
 中国では、省/市単位で、自社の医療機器/消耗材が関連する診療報酬価格(中国は点数ではなく価格)が異なり、地区によっては著しく低く設定されている場合もある。したがって、同じ製品でも診療報酬価格の高低によって売れ行きが異なるなど、地区ごとに病院の購買行動に根本的な違いが生じている。
 医療消耗材企業は上記に加え、医療消耗材リスト掲載入札(高付加価値医療消耗材集中購買)への対応が求められ、省/市単位の医療販売戦略策定はすでに必須となっている。この医療消耗材リスト掲載入札は、該当する地区にて、公立病院が購入できる医療消耗材リストと病院最高購入価格を設定する取り組みである。自社製品が各地区で定めるリストに掲載されなければ、当該地区の公立病院への販売は極めて難しくなる。

図1:中国医療消耗材リスト掲載入札概要

出所:日本総研作成


 リストの更新時期は各地区で異なるが、最短でも2年のところが多く、その間、リスト非掲載の自社消耗材がある地区では、当該消耗材の売上高は実質的にゼロになる。一方で、リストに掲載されたとしても、リスト掲載時の病院最高購入価格が低いと、他の地区が、この価格を参考にしてメーカーに対し、当該地区でもさらに値下げをするよう要求する傾向があり、中国全土での自社医療消耗材単価の下落に拍車がかかる可能性がある。
 まずは、このような医療消耗材独自の仕組みに対して、省/市単位で各地区に応じた情報収集と医療販売戦略の策定が必要となる。また、同時に、各地区での医療販売戦略の実行/評価ができるための、代理店管理・評価機能、受発注・在庫管理機能、医療消耗材リスト掲載入札対応機能、医療消耗材管理システム機能などの医療消耗材事業のバックオフィス機能の強化を併せて実施する必要がある。

指標② 販売/コンプライアンス/人材管理のバランス統制機能
 中国の医療機器/消耗材市場は軒並み高い成長率で発展しているため、グローバル本社の中国現地法人への期待は高く、中国医療事業の売上高や売上高成長率の目標は年々高く設定される傾向にある。一方で、65歳以上人口の増加率は年々増加しているため、中国医療機関への問診者数や入院者数も年々増加していると思われがちだが、三級病院(中国は三級が上位病院)の延べ問診者数や入院者数の増加率は2013年から鈍化している。

図2:入院者数・延べ問診者数・人口の対前年増加率推移

出所:「2015中国衛生と計画生育統計年鑑」「国家統計局国家データ」を基に日本総研作成


 これは、年々増加する患者数に医療サービスの供給量が追いついていないことが要因であり、医療サービス提供不足が中国の医療市場成長のボトルネックとなっている。すなわち、売上高目標を設定する際に、従来の人口増加率や過去の自社売上高成長率の観点だけでは、中国医療市場の実態や変化を踏まえた設定は困難な状況にある。
 一方で、医療コンプライアンス対応に関する危機意識が年々増しており、日米欧各国並みの厳格なコンプライアンス対応の実現が中国においても重要なテーマとなっている。この状況下において、在中の医療機器/消耗材事業の売上高の目標を高く設定し過ぎるとローカルスタッフがコンプライアンスに抵触する活動を行う危険性が増してしまい、コンプライアンスの取り組みを必要以上に強化すると健全な販促活動も抑制され売上成長に影響が生じるというジレンマが生じる。
 さらに、代理店のコンプライアンス違反であってもメーカー側にも責任の一端が発生する場合があり、コンプライアンス対応の対象領域も拡大している。
 また、自社営業スタッフの視点では、自らがコンプライアンスに抵触する活動をしないことは当然として、日々接する代理店にも同様にコンプライアンスを意識した行動をしてもらい、最終的には「自社医療機器/消耗材を購入する病院関係者の方々を守る」という考え方の浸透が必要になる。ただし、ここの危機意識の浸透や認識が不十分であると、個々の営業スタッフとしては高い売上高目標を設定されるにもかかわらず自社はコンプライアンスが厳しすぎて十分な活動ができないという不満や、本来コンプライアンスとしては問題ない内容でも慎重になり過ぎてしまい自社では有益な活動は何もできないという誤認識が社内に蔓延し営業現場の活動に悪影響が生じてしまう。
 ここでは、中国医療市場の実態に即した売上高目標の設定、組織的なコンプライアンス対応機能の設置、営業個々人が抱える売上とコンプライアンスのジレンマ解消の取り組みがポイントと考える。

指標③ 中長期での中国医療事業経営者の育成計画
 上記で論じてきた中国の医療機器/消耗材市場の変化に伴い、中国医療事業経営者に求められる資質にも変化が生じている。指標①で挙げたように、在中の医療機器/消耗材事業の販売戦略は省/市単位で論じる必要があり、また医療消耗材リスト掲載入札では医療消耗材のメーカー型番単位で判定されることもあり、自社医療消耗材の型番単位での製品販売方針も必須となる。また、指標②で挙げたように、グローバル本社の期待と中国現地の実情を踏まえた調整や、営業が抱える売上高達成とコンプライアンス対応のジレンマへの対応も求められる。
 上記の観点から、中国医療事業の経営者には、中国医療事業での販売経験、中国医療関係者との直接的な対話力、製品型番単位での販売方針の策定力、社内外での調整力/バランス力が求められる。このようなスキルを持った経営者を中長期視点でどのように育成するかが今後の中国事業の発展には重要である。
 短期的には、既存社員の中で、5年や10年以上中国で医療事業販売の経験がある優秀な人材を中国事業に呼び戻して対応に当たるか、外部人材を活用して対応を進める方法がある。中期的には、他国での医療事業経営者としての経験をもつ40~50代の社員に2~3年ほど、中国医療事業での販売管理業務を通して、中国事業の経営層として次の5年や10年の中国事業経営を進める方向性が考えられる。また、長期的には、30代前後の社員に、中国医療販売現場での経験を蓄積し、その中で、今後の中国医療事業の経営層として素質のある人材を見極めていくのが良いと考える。

図3:在中の医療機器/消耗材事業の販売面での変化対応力を図る3つの指標

出所:日本総研作成


以上


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