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オピニオン

CSRを巡る動き:責任あるサプライ・チェーンとOECD多国籍企業行動指針

2015年10月01日 ESGリサーチセンター


 6月に開催されたG7エルマウ・サミットの首脳宣言文書(注1)に、「責任あるサプライ・チェーン」というタイトルで、次のようなパラグラフが挿入されたことは、日本国内ではあまり知られてはいません。
 『安全でなく劣悪な労働条件は重大な社会的・経済的損失につながり、環境上の損害に関連する。グローバリゼーションの過程における我々の重要な役割に鑑み、G7諸国には、世界的なサプライ・チェーンにおいて労働者の権利、一定水準の労働条件及び環境保護を促進する重要な役割がある。我々は、国際的に認識された労働、社会及び環境上の基準、原則及びコミットメント(特に国連、OECD、ILO及び適用可能な環境条約)が世界的なサプライ・チェーンにおいてより良く適用されるために努力する。』

 これは先進国から途上国に伸びた、グローバルなサプライ・チェーンの先に連なる零細な工場や農園に潜む、児童労働、強制労働、劣悪な安全衛生、このほかのさまざまな人権侵害の実態に、G7サミットとして、はじめて光を当てるものでした。CSRという言葉の普及とともに、先進国の大企業、とりわけ多国籍企業それ自体の立ち振る舞いが、社会・環境にネガティブな影響を及ぼすケースは減少したようにも見えます。しかし、企業間競争が緩和されたわけではなく、各社は川上に向かって、いっそうのコストダウン圧力を強めています。そのしわ寄せが、サプライ・チェーンの先に連なる発展途上国の零細な工場や農園などに及んでいるという認識が大きく広がっているのです。「責任あるサプライ・チェーン」構築は、大企業や多国籍企業の果たすべきCSRの領域の一部だという考え方が支持されるようになり、今回のサミット首脳宣言文書の一節は、各国政府の側でもその重要性を裏書することになったといえるでしょう。

 また、首脳宣言文書には次のような一節も書き加えられました。『我々は、OECD多国籍企業行動指針のための各国連絡窓口(NCPs)を含む、救済へのアクセスを提供するメカニズムを強化することにもコミットする。そのために、G7はOECDに対してNCPsの機能及びパフォーマンスに関するピア・レビュー及びピア・ラーニングを促進するよう奨励する。我々は、我々自身の各国連絡窓口が効果的であることを確保し、自ら模範を示す。』

 ここで、OECD多国籍企業行動指針(注2)とは、1976年にOECDが行動指針参加国の多国籍企業に対して、企業に対して期待される責任ある行動を自主的にとるよう勧告する目的で制定したガイドラインです。直近の2011年の改訂では、企業には人権を尊重する責任があるという内容の人権に関する章の新設などが盛り込まれました。

 このOECD多国籍企業行動指針は、「行動指針」に関する照会処理、問題解決支援のため、各国に「連絡窓口」(NCP:National Contact Point)を設置することを定めており、大きな特徴となっています。ある企業が行動指針に沿わない行動をとり、社会・環境にネガティブな影響を及ぼしている場合に、利害関係者が問題提起を行える仕組みです。NCPは、問題解決を支援するため、あっせんを提供するなどの役割を担います。今回の首脳宣言文書では、このNCPの機能強化がうたわれました。これは、言い換えるとNCPが利害関係者の役に立つ存在になっていないという批判を受けてのものでした。

 6月に国際的なNGOが取りまとめた報告書(注3)では、過去15年間のあいだに、個人、地域コミュニティ、NGOから問題提起された90事案を調べたところ、NCPが受理したのは75件に達したものの、1年以内に何らかの解決が図られた事案は三分の一に過ぎないとしています。なかには、受理のための事務的判断に6年を費やし、問題提起から11年たった今も、何も動いていないNCPの事例も紹介されています。

 7月末、日本企業2社がインドネシアにおける事業投資先が人権侵害を引き起こしているとして問題提起の対象となりました。日本のNCPは、外務省・厚生労働省・経済産業省の三者で構成されています。今回のサミットの合意が、この事案をめぐる日本のNCPの対応に何らかの変化を生じさせることになるかが注目されています。いずれにせよ、「責任あるサプライ・チェーン」という概念の普及とOECD多国籍企業行動指針の規定する「NCP」の機能強化は、多くの日本企業にとっても、CSRの一層の進化を要請するものとなるでしょう。

(注1)外務省ウェブサイト(http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html)
(注2)外務省ウェブサイト(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/housin.html)
(注3)OECD Watch”Remedy Remains Rare An analysis of 15 years of NCP cases and their contribution to improve access to remedy for victims of corporate misconduct”, June 2015 (http://oecdwatch.org/publications-en/Publication_4201)